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1月10日(木) 「大連立」と民主主義 [論攷]

 〔以下の論攷は「銀行労働研究会」に依頼されて執筆したものです。すでに、昨年末の『銀行労働研究』に掲載されていると思いますので、以下にアップさせていただきます。〕

 自民党と民主党の「大連立」は、さし当たり断念されたものの、次期総選挙の後に再浮上するかもしれない。「大連立」騒動は、日本の政治を考える上で多くの問題を提起した。ここでは、民主主義との関連で、いくつかの点を指摘しておきたい。

 第一に、それは選挙において示された民意を裏切るものだったということである。夏の参院選で自民党は大敗し、民主党が躍進した。つまり、民意は自民党ではなく民主党に期待を託し、政治の変化を求めたのである。
 しかし、「大連立」の構想は、ペナルティを科せられた自民党を救うという意味で民意を裏切るものだった。同時に、期待を寄せられた民主党の転換という意味でも民意を裏切ることになる。どちらから見ても、参院選によって示された民意を踏みにじり、民主主義に反するものだったと言えよう。

 第二に、「大連立」に向けての小沢民主党代表の「独走」は、民主党内の手続きによって阻止されたということである。党首会談の結果、一旦は「大連立」構想を受け入れて持ち帰った小沢代表は、民主党の役員会で反対に遭い、これを「不信任」だとして辞意を表明、民主党内部は大混乱に陥った。
 結局、この辞意は撤回され、民主党の混乱も収拾されたが、ここで決定的な意味を持ったのは古くさい小沢的な「剛腕」手法が拒否されたということである。小沢代表の専断は通用せず、民主党内の多数意見や支持者の声に押されて辞意も撤回せざるを得なくなった。
 もし、「大連立」が成っていたら、民主党のみならず、自民党や公明党も大混乱に陥り、政局は混迷を極めただろう。それを防いだのは、民主党内の手続きと世論だったのである。

 第三に、今後あるかもしれない「大連立」もまた、民主主義に反するものだということである。「大連立」に、なぜ「大」の字が付くかと言えば、それは議会の大多数を支配するような勢力による連立政権だからである。与党となる議会勢力の大きさの点で、それは通常の「連立」とは区別される。
 もし、そのような連立政権が実現すれば、議会は政府によって思い通りに支配され、議会制民主主義は死滅する。選挙における選択肢も制約され、民主的な正統性確保の手段としての意味を失うだろう。
 このような「大連立」は、日本の民主主義にとって好ましいものではない。例外的な状況の下でたまたま成立することがあり得るとしても、日常的な政治の目標として目指されるべきものではない。

 今回の「大連立」の働きかけについて、福田首相は「新体制」を作ろうということだと説明した。この言葉を聞いて、かつて近衛首相が目指した「新体制」を思い出したのは、私だけではあるまい。
 「近衛新体制」は大政翼賛会を生み出し、戦争への道を掃き清めた。今回もまた、インド洋での給油継続という戦争協力のための「新体制」づくりが目標とされていた。
 戦争に向けての国民総動員体制の樹立こそ、「新体制」の本質だった。それから半世紀以上の時間を経て、またも「新体制」のための「大連立」が浮上した。この構想が同じような本質を持たないと、一体、誰が断言できるだろうか。


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コメント 2

邪論

>「大連立」もまた、民主主義に反するものだということである
いやいや、二大政党制そのものが民主主義に反すると思います。二大政党そのもののなかに「大連立」の根拠がある。

そもそも「政権交代・政権交代」って鸚鵡のように叫んでいたのは、二大政党制を作ろうとしていた勢力だった!

それが実際に「ねじれ」が生まれると、本性を出した!読売のW氏とその周辺に象徴されている!

だがその本性はこれまでの「オール与党政治」の諸政策のなかにみられた!偽装建築の原因となった建築基準法の改悪、ワーキングプワーの原因となった労働法制の諸改悪などなど。それを煽動してきたのはメディアだった。

これらは戦前の政友会と憲政会(憲政党)で経験済みのことだった!藩閥VS護憲三派という対立構図のなかで政権を獲得した護憲三派がやったことは普通選挙法と治安維持法だった。以後政友会と憲政党の対立構造のなかで中国侵略が着々と準備されていった。労働者・農民・市民、そして大陸の民衆を犠牲にする構図だった!

過去も今も、結構似ている!自民党内の抵抗勢力をつくり、二大政党政治をつくり、世の中が変わるようなムードをつくり、期待を持たせながら、実は現在の経済大国ニッポンの亡国的現実がつくりだされた。

そろそろ化けの皮が剥がれてきた!ここが戦前と違っているところ。早く本来のレジームを再構築しなければと思う昨今でありますが・・・
by 邪論 (2008-01-12 19:28) 

ろき

大連立に賛成、反対の話はさておいて、、、。
小沢民主党代表は米との単独連携型外交から、国連主導型外交への転向を福田首相が飲むという条件の下で大連立を考えていたようですね。

小沢代表はそのことを「世界」(?)での論文などでも書いていたようです。

いつものことですが、”大連立大連立”という形式上のことばかりに目を向けさせてその内情にはまったく触れていないマスコミはどうかと思いました。
by ろき (2008-01-17 23:36) 

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