２月28日（木）　濱口桂一郎氏の批判に答える：五十嵐仁の転成仁語：SSブログ

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２月24日（日）　漁船衝突事故が明るみに..｜３月１日（土）　濱口桂一郎氏への再反論－.. ブログトップ

２月28日（木）　濱口桂一郎氏の批判に答える　[論攷] [編集]

　私に対する以下のような批判が、二度にわたって濱口桂一郎さんから寄せられています。二度目の批判では、「基本的なスタンスとして知的誠実さが欠けているとしか思えません」とまで書かれています。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/04/post_e7f8.html
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_828f.html
　反論しないのは批判を認めているからだ、という誤解が広がっては困ります。これに対してお答えするのが、私の「知的誠実さ」を示すことにもなると思いますので、ここで反論というか説明をさせていただきます。
　ただし、私と濱口さんとは、現在の労働政策の規制緩和に対する批判的スタンスという点で、基本的な立場は異ならないと思っておりますし、そのお仕事についても評価しております。「喧嘩」をするつもりはありませんので、もし、言葉が過ぎるようでしたらお許しください。

　さて、濱口さんの私に対する批判は、「市場主義的な構造改革路線を政策の中心に置いて走り出したのは、細川、羽田、そして何より村山といった非自民党首班内閣の時代であったことを、そして、『リベラル』なサヨクの皆さんがそれを熱狂的に支持したことを、文章の上だけで隠してみたってしょうがないでしょうに」という点にあります。
　つまり、批判点は二つです。一つは、「市場主義的な構造改革路線」の始まりという点で、細川・羽田・村山内閣を免罪しているのではないかということであり、もう一つは、このような「市場主義的な構造改革路線」を開始した「非自民党首班内閣」を「熱狂的に支持した」のは、私を含む「『リベラル』なサヨクの皆さん」ではないか、ということです。

　これに対する私の回答は、「市場主義的な構造改革路線を政策の中心に置いて走り出したのは、細川、羽田、そして何より村山といった非自民党首班内閣の時代であったこと」を隠すつもりは全くないということです。濱口さんは、「現在に至る政策転換は90年代初頭に始まる」と書きながら、細川・羽田・村山政権の名前が出てこないのはおかしいと仰りたいようですが、名前を出さなかったのは転換の過程であったからです。
　それに、「大原社会問題研究所雑誌の２月号に、五十嵐仁氏の『政策形成過程の変容と労働の規制緩和』という短い報告」は、研究所内の月例研究会についての報告で、スペースが限られています。橋本政権以降の推移の方が重要だと思いましたから、それ以降の変化に重点を置いて書いた次第です。

　実は、この月例研究会では、濱口さんが指摘されるような内容についても報告しております。この日の報告はペーパーに基づいて行いましたが、該当する部分は以下の通りです。

　なお、ここで、92年から95年までの変化を、首相の演説から辿ってみることにしたい。まず、92年1月の宮沢首相施政方針演説だが、ここには行政改革や規制緩和という言葉はない。その代わり、「内政の最重要課題として、『生活大国への前進』を掲げたい」として、「国民一人ひとりが豊かさとゆとりを日々の生活の中で実感でき、多様な価値観を実現できる、努力をすれば報われる公正な社会」である「生活大国」の実現が目指されていた。施政方針演説で、「労働時間の短縮、快適な職場づくり」が、重点項目として掲げられていた点も注目される。
　92年11月の宮沢首相の所信表明演説では、「簡素で効率的な行政を実現するという行政改革の目的を実現するため、行革審の答申などを最大限に尊重し、今後とも規制緩和や地方分権などを積極的に進めてまいります」との文章があり、93年1月の宮沢首相の施政方針演説では、「政府は昨年、『生活大国５か年計画』を策定いたしましたが、本年は、生活大国の実現に向けて本格的な第一歩を踏み出す年であります」とされ、行政改革、地方分権、規制緩和がこの順番で触れられている、また、「年間総労働時間1,800時間の達成に向けて」の「労働時間の短縮」や「男女共同参画型社会の形成」が掲げられていたが、以後、首相演説からこのような文言は姿を消す。
　93年8月の細川首相の所信表明演説では、行政改革、規制緩和、地方分権という順番に変化し、94年3月の細川首相の施政方針演説でもこの順番に変わりなく、94年5月の羽田首相の所信表明演説では、行政改革の一環としての「規制・保護行政からの脱却」という位置づけであった。
　ところが、94年7月の村山首相の所信表明演説になると、「規制緩和と行政、財政、税制改革」という項目が立てられて規制緩和が重視され、これが行政改革から分離し独立の課題として追求されることになる。ただし、村山首相は、「行政改革委員会設置法をつくった。それによって行政改革委員会ができ、そのなかに規制緩和小委員会と行政情報公開部会を設け、議論を始めた」「自由化の時代の中で、これからは規制が障害になる」と述べているが、どれほど自覚的にこのような変更を行ったかははっきりしない。
　95年1月の村山首相の施政方針演説でも、順序は変わらず、規制緩和は「行政改革の断行」の一環としての位置づけである。この順番が逆転するのが、95年9月の村山首相の所信表明演説で、「規制緩和の推進」と「行財政改革の断行」が別の項目として掲げられ、「まず第一になすべきは、経済社会の活力の妨げになっている諸規制の緩和や慣行の是正である」とされ、「規制緩和の一層の徹底に加え、地方分権、情報公開、審議会の運営の透明性の確保等、引き続き行政改革の断行に全力を傾ける」とされている。この時点で、規制緩和の位置づけが高まったことをはっきりと読み取ることができる。

　この報告では、宮沢首相と細川以降の首相とのちがい、細川・羽田・村山と三代の政権を通じて徐々に「規制緩和」の位置づけが変化していること、村山政権において「規制緩和の位置づけが高まったことをはっきりと読み取ることができる」ことなどを明らかにしています。
　「それについて、何故、書かなかったのか」と問われれば、これは中間の過程であり、橋本「６大改革」以降の変化の方が重要だと考えたからです。また、このプロセスを無視している訳ではないということは、「現在に至る政策転換は90年代初頭に始まる」と書けば十分だと思っていましたが、濱口さんからの批判を見れば、どうやら、それだけでは不十分だったようです。
　今後は、ちゃんと書くようにしましょう。この程度のことで、「知的誠実さ」を問われてはたまりませんから……。

　なお、新自由主義的な改革全体の経緯については、私は「三段階論」を取っており、新自由主義的な政策転換は臨調・行革路線から始まったと考えています。これについては、雑誌『経済』の３月号に掲載された座談会で、次のように述べていますので、参照していただければ幸いです。

　このように、新自由主義的改革がもたらした問題点が、労働と生活の両面で非常にはっきりしてきたというのが、今日の特徴だと思います。この規制緩和路線は「官から民へ」という掛け声の下で進められてきましたが、およそ三つの段階を経てきたと、私は見ています。その第一段階が、八〇年代で、国際的にはレーガノミクスやサッチャーリズム、日本で言えば中曽根内閣時代の臨調・行革路線がその始まりです。しかし、日本ではまだ端緒的で部分的なものでした。
　そして、八〇年代末から九〇年代にかけて、アメリカによって「ワシントン・コンセンサス」と言われる新自由主義的路線を国際的に強要する動きが強まりました。これを受けて、日本でも規制緩和路線がバージョンアップされ、全面的なものになっていきます。これが第二段階です。橋本「六大改革」の登場はその一つの到達点でした。
　しかし、橋本首相は消費税アップなど「九兆円の負担増」によって参院選で負けてしまいます。その後の小渕・森内閣で一旦足踏み状態になったのを、ネジを巻き直して激しい攻勢をかけてきたのが小泉「構造改革」でした。これが第三の段階です。

　さて、これで第一の批判に対してお答えしました。次は、第二の「市場主義的な構造改革路線」を開始した「非自民党首班内閣」を「熱狂的に支持した」のは、私を含む「『リベラル』なサヨクの皆さん」ではないか、という批判にお答えいたします。
　濱口さんは、この「『リベラル』なサヨクの皆さん」の中に、私を入れているかどうか明示しておられません。しかし、私自身は「リベラル」以上の「サヨク」であることを自任し、誇りとしております。
　その私としては、非自民連立政権を熱狂的に支持したなどと言われては、とまどってしまいます。非自民連立政権への私自身のスタンスは、すでに拙著『概説現代政治－その動態と理論〔第３版〕』（法律文化社、1999年）で書いているからです。詳しくは、「第一部現代政治の動態」の「第二章戦後日本の内閣」の「９利益政治の矛盾」以降をご覧になってください。
　そこでは、「自民党政治が積み残してきた『滞貨』を、村山社会党政権が『一掃する』という形になっている」こと、「この過程は、結局は自民党の勝利、社会党の敗北を意味している」ことを明らかにしたうえで、「自民党政治の根本的な転換を期待された非自民党連立政権の行きついた先は、結局、バージョンアップされた保守政治の新たなる再生にすぎなかったのではないだろうか」（前掲書、120頁）と指摘しています。
　このような記述のどこから、「熱狂的支持」を読み取ることができるのでしょうか。

　ただし、この本は「第３版」であり、増補・改訂されています。刊行されたのは1999年ですから、このような評価は「あと知恵」ではないのか、という疑惑を招くかもしれません。
　しかし、これに対しても、細川政権の主要課題であった「政治改革」に対して、私は「熱狂的支持」どころか、批判する著書を出しています。これについては、まだ小選挙区比例代表並立制が導入される前に刊行した拙著『一目でわかる小選挙区比例代表並立制』（労働旬報社、1993年）をご覧ください。
　この並立制が導入された後、1996年に最初の総選挙が実施されます。これについても批判的に検討した拙著『徹底検証　政治改革神話』（労働旬報社、1997年）という本を出しています。こちらも、ご覧いただければ幸いです。

　これらの本を、おそらく濱口さんは全くご覧になっておられないと思います。刊行していることすら、ご存じないのでしょう。
　しかし、相手がどのような著書を出し、何を主張しているか、その概略くらいは知ったうえで批判するというのが「知的誠実さ」というものではないでしょうか。そうすることが大変なことは、私もよく分かっておりますので、滅多に批判しないようにしています。早稲田大学のK教授を除いては……。

　以上で、私の「反論」というか説明は終わりです。なお、疑問点などあるようでしたら、いつでもご指摘いただけたら幸いです。
　なお、新自由主義政策の「三段階論」や90年代に入ってからの変容については、５月刊行予定の拙著『労働政策』（日本経済評論社）の「第４章規制緩和と労働政策」で詳しく叙述しています。これが刊行されれば、もう、「文章の上だけで隠してみたってしょうがないでしょうに」などという批判を受けることはなくなるでしょう。
　ついでに、宣伝をもう一つ。労働の規制緩和については、５月24日（土）に國學院大學で開催される社会政策学会の共通論題でも報告します。ご意見、ご批判などございましたら、どうぞ報告をお聞きになって討論にご参加ください。

2008-02-28 12:53 nice!(0) コメント(16) トラックバック(0)

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五十嵐仁様　先生の『大阪条例問題と現代社会の貧困』のご論考を弊blogに、先生のお名前、blogＵＲＬ明記で、全文転載させて頂くことをお許し下さい。誠に厚かましいお願いですが、ご承諾を頂けるようでしたら、メールにてご一報頂けると幸いです。
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