９月24日（水） 「名ばかり労組」にならないために－『労働経済白書』にみる労働政策の転換（後半） [論攷]
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拙著『労働再規制－反転の構図を読みとく』ちくま新書で10月10日刊行予定。
240頁、本体740円＋税。ご注文は筑摩書房http://www.chikumashobo.co.jp/まで。
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〔以下の論攷は、『自然と人間』（2008年９月号）に掲載されたものです。長いので、２回に分けてアップしています〕
「名ばかり労組」にならないために～『労働経済白書』にみる労働政策の転換（後半）
規制緩和政策からの転換は始まっていた
この『白書』で示されている方向は、明らかに今までの政策から転換を明示しています。私は「2006年の転換」仮説、つまり、新自由主義的規制緩和政策からの転換が06年から始まっていたと主張しています。『白書』は、このような規制緩和策からの反転の一環にほかなりません。今度の福田改造内閣の陣容でも、このような傾向はかなりはっきりしていると思います。
６月に出た経済財政諮問会議の『骨太の方針2008』も同じ方向を指しています。それは小泉型の構造改革、あるいは新自由主義的な政策からの反転といっていいだろうと思います（詳しくは、拙稿「労働の規制緩和の現段階－『骨太の方針2008』の意味するもの」『賃金と社会保障』2008年８月下旬号、参照）。
たとえば、派遣労働の規制緩和への見直しが始まりました。日雇い派遣の禁止では与野党はほぼ一致し、秋の臨時国会に法案が出ます。労働関係以外では、例えばタクシー規制再強化の動きです。参入の自由化で競争が激化し、交通事故が増えたりタクシー運転手の収入が減ったりといった悪影響が生まれました。これを見直そうというわけです。
なお、非正規雇用問題では「派遣を禁止したら雇用が減る」と主張する人たちがいます。しかし、今問題になっているのは、雇用が増えたけれどもその中味がひどいという点です。働いても生活できないような雇用が減ったとしても何の問題もありません。劣悪雇用を規制し、きちんと働いたら生活できるような仕事を増やすことが重要です。
財界団体の迷走
実は、日本経団連や経済同友会などの財界団体も、反転の方向を示したりして迷走しています。06年６月の「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」という日本経団連の提言では、株主だけではなく従業員に対する配慮が必要だという「ステークホルダー論」が登場しました。先ほど挙げた『経労委報告』もそうです。
経済同友会でも、07年４月の桜井正光代表幹事の就任演説は「新・日本流経営の創造」という表題で、新しい「日本流経営」を提言していました。今年５月に出た「21世紀の新しい働き方」という報告は、この点にさらに踏み込んでいます。
この報告は、「20世紀的働き方」の「手直し」の取り組みに対して、「しかし、全体の流れを変えるような成果は見られない。むしろ、長期不況の中で緊急避難的に実施したコスト削減に偏った成果主義に対する反発や、『就職氷河期世代』、ワーキングプアの発生など、むしろ停滞感と社会的不正義の問題を醸成した」と言っています。
これらの文書を見ますと、この間の新自由主義的な規制緩和や業績・成果主義が労働現場に大きな問題を生み出し、混乱させたことに対する財界や厚労省の危機感は、我々が考えている以上に強いのではないかと思われます。
違法行為を繰り返す企業
しかし、『白書』に総資本の意思が示されているといっても、実際に、そういう方向に転換していくのかと言えば、そう簡単ではありません。
まず、そのような総資本の論理で個別資本が動くのかという問題があります。個別の資本は個々の企業として激しい競争を勝ち抜いていかなければならないという事情があります。だから、自分のとこだけ良ければいいという考え方が極めて強い。
この間、偽装問題が発生し、「企業の社会的責任（CSR）」が問題とされてきました。昨年を表す漢字が「偽」となったくらい食品偽装などが続き、マスコミでも報道されました。にもかかわらず、ウナギや飛騨牛やフグの産地偽装など、未だにそういう問題が出てきます。彼らは、あの時のニュースを見ていなかったのか。そうではありません。法律を犯してでも儲けを増やしたい、バレなければいいという考え方が幅広く、そして根強くあるからです。
これだけ問題が続くからには、厚労省は「働く人の意識」ばかりでなく、経営者の意識の調査・分析をしてはどうかと思います。どうして経営者がこんな違法行為を平気でできるのか、来年の『白書』でその分析を試みてもらいたいものです。
また、「コスト削減だけではいけない」と厚労省が言ってみても、多くの経営者は「コスト・イデオロギー」に凝り固まっています。そういう経営者を納得させるのは容易ではないでしょう。
もっと賃上げを
それに、賃金を引き上げるべきだと『白書』は再三述べていますが、これが難しい。
厚労省はこの間、二つの方向で最低賃金（最賃）の引き上げを進めてきました。一つは、成長力底上げ戦略推進円卓会議が昨年と今年の２回に渡って最賃を引き上げるよう中央最低賃金審議会（中賃）に圧力をかけました。二つ目は、最低賃金法を改正し、生活保護との整合性などを盛り込んで最賃の水準引き上げを誘導しました。
去年の最賃引き上げは全国平均で14円、今年は15円です。２年にわたって二桁引き上げというのは今までありません。しかし、それでも700円を超えるか超えないかというレベルです。
労働組合側は、おおむね時給1000円を求めています。だから、例年からすればかなり上がったと評価はできても、本来、到達すべき目標からすれば非常に低いレベルにとどまっているということになります。問題は、貧困水準にある人たちをいかに支えるかという問題ですから、ある一定額を保証しなければならない。それが700円でいいのかというと、決してそうではないでしょう。
最賃を引き上げると中小企業が大変だという意見があります。確かに、経営の厳しい中小企業への配慮は必要ですが、別個に具体的な手当てを行なうべきです。ちなみに、今回の『白書』の中では、中小企業と元受企業、つまり大企業との関係についても書かれています。中小企業に対して下請けいじめをせず、大企業はもっと配慮しなければならないと言っていますが、これも当然のことです。
賃上げのもう一つの手段は春闘です。今年の春闘は絶好のチャンスでしたが、それを逃しました。日本経団連の御手洗冨士夫会長は08年２月15日の経済財政諮問会議の中で「賃金の引き上げを通じて、家計に確実に分配されるということも非常に大事なことだ」と主張していました。経営側の支払能力からしても、もっと賃上げできる可能性があったと思います。５年連続史上最高益を更新していたのですから……。
ところが、春闘の結果はそれほどのレベルに達しませんでした。労働組合の側の取り組み方が不十分だったのではないでしょうか。
「名ばかり労組」になってはいけない！
以上のように、『労働経済白書』は非正規化の進行を反省し、業績・成果主義にも限界があるとして労働政策の転換の方向を打ち出しました。これは、労働運動にとっての“追い風”になると思います。労働組合は、経営側に政策転換を主張しやすくなるはずです。
このような変化を的確にとらえて、今後、労働組合の取り組みを強化していくことが期待されます。もしそれが不十分に終われば、労働組合とは名ばかりではないかと言われかねません。そういう「名ばかり労組」にならないよう、“追い風”を生かして取り組みを強めてもらいたいものです。
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規制緩和政策からの転換は始まっていた
この『白書』で示されている方向は、明らかに今までの政策から転換を明示しています。私は「2006年の転換」仮説、つまり、新自由主義的規制緩和政策からの転換が06年から始まっていたと主張しています。『白書』は、このような規制緩和策からの反転の一環にほかなりません。今度の福田改造内閣の陣容でも、このような傾向はかなりはっきりしていると思います。
６月に出た経済財政諮問会議の『骨太の方針2008』も同じ方向を指しています。それは小泉型の構造改革、あるいは新自由主義的な政策からの反転といっていいだろうと思います（詳しくは、拙稿「労働の規制緩和の現段階－『骨太の方針2008』の意味するもの」『賃金と社会保障』2008年８月下旬号、参照）。
たとえば、派遣労働の規制緩和への見直しが始まりました。日雇い派遣の禁止では与野党はほぼ一致し、秋の臨時国会に法案が出ます。労働関係以外では、例えばタクシー規制再強化の動きです。参入の自由化で競争が激化し、交通事故が増えたりタクシー運転手の収入が減ったりといった悪影響が生まれました。これを見直そうというわけです。
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財界団体の迷走
実は、日本経団連や経済同友会などの財界団体も、反転の方向を示したりして迷走しています。06年６月の「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」という日本経団連の提言では、株主だけではなく従業員に対する配慮が必要だという「ステークホルダー論」が登場しました。先ほど挙げた『経労委報告』もそうです。
経済同友会でも、07年４月の桜井正光代表幹事の就任演説は「新・日本流経営の創造」という表題で、新しい「日本流経営」を提言していました。今年５月に出た「21世紀の新しい働き方」という報告は、この点にさらに踏み込んでいます。
この報告は、「20世紀的働き方」の「手直し」の取り組みに対して、「しかし、全体の流れを変えるような成果は見られない。むしろ、長期不況の中で緊急避難的に実施したコスト削減に偏った成果主義に対する反発や、『就職氷河期世代』、ワーキングプアの発生など、むしろ停滞感と社会的不正義の問題を醸成した」と言っています。
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2008-09-24 22:27
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