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1月26日(月) 09年春闘で企業経営者は社会的責任を果たせ [09春闘]

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 拙著『労働再規制-反転の構図を読みとく』(ちくま新書)刊行中。240頁、本体740円+税。
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 09年春闘をめぐって、「賃上げも雇用も」という場合、注目されているのが大企業の内部留保です。この間、公表されている企業の損益は億円の単位ですが、内部留保の額は兆円の単位です。

 損益を考慮に入れても、内部留保の額は桁違いに多いということになります。どうしてこれほど増えたのかといえば、戦後最長の好景気によって史上最高益を更新し続けていたにもかかわらず、その最大の功労者であった労働者や中小企業に対して、利益を還元しなかったからです。
 こうして、大企業の内部に、多くの資金が蓄積することになりました。それは大企業によって隠匿された「埋蔵金」のようなものだったと言って良いでしょう。
 省庁内には「ない」とされていた「埋蔵金」ですが、いつの間にか定額給付金の原資として認知されました。同じように「ない」とされている大企業の内部留保ですが、いずれ、雇用維持と賃上げの原資として認知されるにちがいありません。

 しかし、大企業の経営者からすれば、問題はそう簡単ではないでしょう。巨額の内部留保があっても、それを簡単に使うことができないような仕組みができあがっているからです。
 新自由主義に基づくアメリカ・モデルが導入されるにしたがって、経営者の立場や考え方も大きく変化しました。短期の業績や株式配当の額などによって経営手腕が評価され、従業員や地域社会、顧客などを考慮する「ステークホルダー論」から、株主を重視する「株主主権論」の力が強まったことは、拙著『労働再規制』でも指摘したとおりです。
 このような短期的収益主義に基づく経営者マインドの変化に加えて、従業員持ち株制や株主代表訴訟などもあり、どうしても株主への配慮を優先しがちになってしまいます。このような変化もまた、新自由主義の害毒が浸透した結果であると言うべきでしょうか。

 しかし、大企業経営者の対応においても、昨日のブログで指摘した安易な隘路か困難な活路かという分岐が存在しているように思われます。別の言い方をすれば、個別的・当面の対応か、それとも大局的・長期的視野に立った対応かという分岐です。
 当面の対応は容易だが隘路に入り込む道で、長期的対応は困難だが活路を切り開くには避けられない道なのです。企業経営者には、そのどちらを選ぶべきかという問題が提起されているように思われます。

 ここで問われているのは、財界司令部としての日本経団連の対応です。会長の御手洗冨士夫さんは、『毎日新聞』1月24日付のインタビューで、「日本は、危機的な状況を打開できるのでしょうか」と問われて、次のように述べています。

 危機が深刻だからこそ、労働市場・産業の多様化が重要だ。製造業だけでなく、サービス業なども振興し、内需拡大ができるような産業構造に直さなければいけない。個別企業では環境、医療、ロボットなどさまざまな分野でイノベーション(技術革新)を起こし、新しい事業、製品を生み出すことが必要だろう。

 この御手洗さんのインタビューは半分は正しく、半分は問題があります。半分の真理とは、「内需拡大ができるような産業構造に直さなければいけない」という形で、「内需」の拡大を提起しているからです。
 半分の問題とは、そのために必要な個人消費の増大と人材の育成について、何も語っていないことです。産業構造を変えるだけでは内需の拡大は不可能であり、「環境、医療、ロボットなどさまざまな分野でイノベーション(技術革新)を起こし、新しい事業、製品を生み出す」ためには、人材を育成してその士気を高めなければなりません。

 日本では不良債権の処理が終わっており、実体経済はそれほど悪くありませんでした。だから、金融危機が生じたとき、与謝野さんは「蜂に刺された程度」だと述べたのです。
 しかし、その後、日本の景気も急速に悪化しました。与謝野さんは、「蜂に刺されて命にかかわる場合もある」と言い直さなければなりませんでした。
 それは、日本経済が安定した内需に支えられていなかったからです。世界金融危機の影響を受けて、これほど急激に景気が悪化したのは、アメリカ依存の輸出主導型の経済構造になってしまっていたからです。

 金融危機に対する日本経済の脆弱性は、外需に依存した「輸出立国」路線の危うさを示すものでした。ですから、御手洗さんが「内需拡大」の問題を提起したのは正しかったのです。しかし、それは「産業構造」を変えるだけでなく、日本の産業社会全体の構造転換を必要とするほどの大きな課題なのです。御手洗さんには、この認識が不十分だと言わなければなりません。
 日本社会が直面している課題の大きさと困難性が良く分かっていないようです。それを解決するためには総合的で長期的な対応が必要だということが、十分に理解されていません。

安定した内需に支えられ、絶えざる「イノベーション(技術革新)」によって国際競争力を担保できるような産業社会に転換することが必要です。そのためには、労働者の処遇を抜本的に改善しなければなりません。
 それを、個々の企業の自主的な努力に求めても不可能でしょう。この点で指導力を発揮するべきなのが、総資本としての戦略的課題について責任を負うべき日本経団連の役割なのです。そして、それを迫ることこそ、労働運動の役割にほかなりません。
 当面の苦境を乗り切るための個々の企業による「正しい」対応が、大局的には日本の産業社会の歪みを拡大し、将来にわたる成長可能性を閉ざす「誤り」をもたらすというのが、いわゆる「合成の誤謬」と言われるものです。このような「合成の誤謬」を避けるためにこそ、財界司令部の戦略的指導が必要とされるのではありませんか。

 このブログで繰り返し書いてきたように、働く意思と能力があれば誰にでも働く機会が保障されていること、普通に働けば普通の生活を送れるだけの収入が得られること、働く人の健康を破壊せず家庭生活を阻害しない適正な労働時間であることという3つの課題を実現することが必要です。日本の社会は、この3つの課題を実現できなければ、「滅亡への道」から抜け出せません。
 そうなれば、労働者も経営者も一蓮托生です。まともに生活できない労働者に依拠して、どのような企業活動が可能だというのでしょうか。
 労働力の減少と劣化した社会が、やがて企業の存立基盤を掘り崩すことになるのだということを、企業経営者も理解するべきでしょう。そして、そのような社会への道を回避し、健全な産業社会を再建するために、企業もまた社会的責任を果たさなければなりません。

 今日の新聞に、『週刊ポスト』の広告が出ていました。そこには、次のように書かれています。

 「ニッポンの雇用」光と影
 「超豪華ゲストハウス」「ゴルフ会員権」ほか総資産210億円
 雇用破壊のA級戦犯「御手洗経団連よ、メザシの土光さんが泣いている」
 地上125メートル。23階建ての新会館は失業者たちに開放せよ

 「土光さんのメザシ」はマスコミによる演出でしたが、それ以外では、ここに書かれていることはまったくその通りでしょう。これまで儲けすぎたから、このような浪費や贅沢が可能だったのです。
 それを戒めるべき財界司令部のトップが、率先して「超豪華ゲストハウス」や「23階建ての新会館」を建てていたというのでしょうか。政治家も財界人も、一体何をやっているのか、と言いたくなります。

 現在の日本が陥っている真の危機は、危機の何たるかが正しく認識されていないところにあります。大局的戦略的に対応できるようなリーダーが存在しないという点に最大の危機があると言うべきでしょう。
 あちらでは、68%という歴代2位の支持率を背景に登場したアメリカのオバマ新政権。こちらでは、1949年以降ワースト2位の65%(『毎日新聞』調査)という不支持率に直面している日本の「オバカ政権」。
 彼我のあまりの違いに、ただただ嘆息するばかりです。


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