３月10日（水） 日米間の「密約」を支えた誤謬や思い込み

　核兵器の日本国内への持ち込みや沖縄返還に関連した日米間の「密約」について、有識者委員会の報告書が公表され、「核密約」などについては、その存在が確認されました。
　今まで「なかった」とされていたものです。それが「あった」というわけです。

　このような「密約」の存在は、拙著『戦後政治の実像』でも明らかにしており、すでに多くの国民にとっては「秘密」ではありませんでした。しかし、それが政府の調査機関によって確認された意味は極めて大きいと言えるでしょう。
　このような調査も報告書の内容も、おそらく自民党主体の政権ではあり得なかったはずです。政権交代の大きな成果であり、率直に評価すべきでしょう。
　同時に、国民にウソをつき続けてきた自民党政権と歴代の首相や外交関係者の責任は重大です。彼らは一種の「確信犯」でした。

　その「確信」を支えたものは何だったのでしょうか。そこには、いくつもの誤謬や思い込みがあったのではないでしょうか。

　第１に、パワー・ポリテイクスに対する盲信です。国の安全は力によって確保されるものであり、国家間の外交もまた、力を背景にしなければならないと思いこんでしまったのです。
　力への盲信は日本国憲法の精神に反しています。憲法尊重養護義務に対する軽視は、このような謬論への信仰を、容易に受け入れさせることになりました。

　第２に、「核の傘」に対する盲信です。核兵器こそが究極の力であり、その力によって平和が保たれると思い込んでしまったのです。
　一方で、唯一の被爆国として核兵器の廃絶を唱え、他方で、平和を守る手段として核兵器の持ち込みを黙認する。このようなダブル・スタンダードの使い分けも、「核の傘」への盲信によって、容易に合理化されてしまいました。

　第３に、間違った国際情勢理解です。「冷戦」時代、ソ連が日本侵攻を狙っていると思い込んでしまったのです。
　しかし、ソ連が日本に対する着上陸型の侵攻を計画していたなどということは、今に至るも立証されていません。「核の傘」がなければソ連が日本を攻めてくるというのは、妄想にすぎなかったのです。

　第４に、いかに理不尽な要求でも、アメリカが求めるなら日本は受け入れざるを得ないという属国根性です。今回の「密約」は、アメリカに守ってもらうため、沖縄の施政権を返してもらうため、「やむを得ない苦渋の選択だ」と言うわけです。
　しかし、そのために国民をだましたわけです。日本国民に真実を明らかにするよりも、アメリカ政府との秘密の約束を守る方を優先したことになります。

　そのほか、たとえば、エリート主義的「国益」観もあります。選ばれた者だけが「国益」を見極め、その是非について国民は判断する力を持たないという思い上がりです。
　また、自民党政治家と外交官僚の自己保身という問題もあったでしょう。一旦ついたウソはあくまでもつき続けなければ、責任を問われるという心配があったのかもしれません。
　さらに、無責任と事なかれ主義です。悪いことは分かっていたのに、というより、分かっていたからこそ、本当のことが言えなかったのではないでしょうか。

　まだ、あるかもしれませんが、さし当たり、思い当たるのは以上のような謬論です。それに凝り固まった政治家や官僚は、確信と決意を持ってウソをつき続けてきました。
　中には、証拠となる記録や文書を勝手に廃棄してしまった人もいたようです。それが、日本の「国益」を守ることになるのだと思い込んで……。
　でも、実際には、自己防衛本能が働いただけだったのではないでしょうか。真実を隠蔽し、闇から闇に葬り去ることで自分を守ろうとする……。

　その一切合切を明らかにする必要があるでしょう。ことの経緯をはっきりさせ、責任を問う必要があります。
　外務省北米局長や歴代の首相・外相など関係者の証人喚問は欠かせません。真相を解明して、歪んだ日米関係を是正するべきです。
　属国根性を捨てて真正面からアメリカに要求をぶつけ、独立国らしい外交交渉を行うべきでしょう。とりわけ、日米地位協定の改定や普天間基地の移設問題で……。

　普天間基地の移設について、「ここはどうでしょう」とか「あそこはいかがでしょうか」などと、アメリカにお伺いを立てるようなことはやめるべきです。「必要ないから、出て行ってください」と、どうしてはっきりと言わないのでしょうか。
　国会決議をあげて日本国民の意思を明示し、鳩山首相が正々堂々、国際社会の面前でオバマ米大統領と直談判すればいいんです。それが本当に「国益」を守る道なのだということが、「密約」問題の教訓なのではないでしょうか。

コメント 3

普天間基地移設問題は沖縄返還協定に基づく密約で自由使用が保証された訓練施設の存在と切り離しては解決不可能なのです。
日本では沖縄密約を有事の「核持ち込み」と返還に伴う経費の肩代わりを秘密合意した事で騒がれて来ましたが米国側が返還交渉に際して最大の懸念としたのは米軍基地施設区域の自由使用が従来通りに継続可能かどうかでした。
従って米国側は「核抜き本土並み」の前半部分で日本側の面子を立てて自由使用の部分で米軍の行動を制約しないと言う「名を捨てて実を取る」事に成功したのです。
これが沖縄の米軍基地問題の原点であり米軍基地施設区域の無期限自由使用で沖縄県民の基本的人権を否定して来た日本政府の責任です。
政権交代を成し遂げた民主党政権が真っ先に取り組むべきは戦後６５年が経過した米軍基地施設区域の使用期限を米国に対して交渉する事です。
この様な沖縄基地問題の本質を見ずに心情的に普天間基地の県外、国外移設と騒いでも米国との交渉は不可能なのが現実です。
詳しくは私のブログを御参照下さい。
http://isao-pw.mo-blog.jp/isaopw/

by isao-pw大城　勲 (2010-03-11 21:35) 

菅財務相が「私はそう長くは財務相をやらず多分、近くクビになると思います」といったそうです。http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20100312ATFS1102811032010.html
いずれにせよ、参院選前に内閣改造が行われるのは、間違いないと思います。
よろしければ、お時間のあるときにでも、五十嵐先生の理想とする改造内閣を予想していただけますでしょうか。
by 井上弘忠 (2010-03-12 10:01) 

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by スーパーブランドコピー (2013-04-17 16:43)