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7月4日(日) 「消費税増税」競わず民意受け止めよ [論攷]

〔以下の論攷は5月16日に開催された兵庫県保険医協会第77回評議員会での講演「鳩山政権を診断する―日本政治の現状と課題をどう見るか」の詳録です。兵庫県保険医協会の機関紙『兵庫保険医新聞』第1626号(2010年6月25日付)に掲載されました〕

「消費税増税」競わず民意受け止めよ

「腐ったカレーライス」と「まずいライスカレー」

 昨年8月30日、総選挙で政権交代が起こった。国民が民主党を選んだ意味を例えるなら、「とりあえずビール」としての政権交代だ。自民党政治に嫌気がさした国民が、緊急避難先として選んだのが民主党政権だった。だから、これから国民は腰を据えて何を飲むかを選ぶ時期に入る。
 また、総選挙の前に民主党と自民党の違いについて、「カレーライスとライスカレーで、見た目は違うが味は同じだ」という例えがあった。しかし、自民党は「腐ったカレーライス」だ。国民はそれを食べてお腹を壊していた。これ以上食べ続ければ命に関わると、民主党の「まずいライスカレー」に代えた。味は悪いけれど、病気になることはない。こうして、政権が変わることになった。
 
自民党の下野と鳩山政権誕生の意義

自民党が下野して、政権交代した意義は非常に大きい。一方で、民主党が政権についたことについてはさまざまな評価が可能だ。この二つは、分けて考えた方がよい。
自民党が政権を去ったために、大きな変化が起こった。例えば、それまで自民党を支えていた巨大な業界団体や利益団体が自民党から離れた。特徴的なのは、JA全中が共産党の代表を大会に呼んであいさつさせたことだ。こんなことは、これまでなら考えられなかった。日本医師会や歯科医師会が自民党の候補者を推薦しないなど、対応が変わってきている。これは自民党が下野した政治的影響だ。そういう点では、自民党が政権を追い出された意味は大きい。
他方で、民主党が政権についた意味はどれほどあるのか。色々な見方が可能だが、自公政権ではできなかったことを行っている点は評価できるだろう。民主党の政策についても、「仕分け」が必要だ。「実行してもらうべき政策」と「実行してもらっては困る政策」を見分けて、必要なものは実現を迫らなければならない。問題のある政策は批判し、実行させてはならない。

自民党が下野した理由

自民党が下野したのは、二つの自民党政治が拒否されたためだ。一つは「古い自民党政治」だ。政官財が癒着して官僚主導の政治運営が行われ、族議員が官僚と一体になって国家財政を食い物にしてきた。これを支えてきた二つの柱が「反共主義」と「開発主義」だ。
しかし、1990年くらいから、その前提条件が崩れ始めた。まず、旧ソ連・東欧諸国の崩壊によって「反共主義」が説得力を持たなくなった。新たに北朝鮮が登場したが、旧ソ連に比べれば脅威のレベルが全然違う。90年頃にバブル経済が崩壊し、「右肩上がりの時代」が去るとともに、「開発主義」も力を失い始めた。
そこで、支配体制を立て直そうとして出てきたのが、もう一つの「新しい自民党政治」である「新自由主義的構造改革」だ。しかし、これも失敗した。その結果、自民党政権を長年支えてきた利益団体や農村の支持基盤が掘り崩された。
それだけでなく、貧困と格差の拡大という重大な社会問題を生み出した。それが表面化したのは05~06年だが、貧困と格差の拡大はそれ以前から始まっていた。95年に当時の日経連(日本経営者団体連盟)が「新時代の『日本的経営』」を発表した頃から、構造改革は始まっている。自殺者が3万人を超えたのが97年。98年には、生産年齢人口がピークを迎え、その後ずっと減り続けている。この頃に、日本社会は壊れ始めた。そして、小泉氏が首相になったのが01年。彼は「自民党をぶっ壊す」と言って登場してきたが、自民党だけでなく社会全体をぶっ壊してしまった。それが明瞭に表面化してきたのが、05~06年だった。

新政権の政策転換とその限界

鳩山政権はこのような新自由主義的構造改革からの転換を志向しているが、離脱はしていない。鳩山首相は09年10月の臨時国会での所信表明演説で、「市場にすべてを任せ、強いものだけが生き残れば良いという発想や、国民の暮らしを犠牲にしても経済合理性を追求するという発想がもはや成り立たないことも明らかです」と述べ、市場原理主義はもう通用しないことを認めた。
しかし、新自由主義の名残が各所に残っている。例えば「事業仕分け」だ。民間仕分け人の人選は旧大蔵省OBで構造改革を推進した民間シンクタンク「構想日本」の加藤秀樹代表に任され、そこには福井秀夫・政策研究大学院大学教授など、構造改革を主導した人物も含まれていた。
また、「仕分け」の中身についても、本来増やさなければいけない予算が減らされている。効率を最優先し、とにかく財源を絞りだそうという発想が間違っている。本来は、行政サービスはどうあるべきかという話から始めなければならないが、そうなっていない。

国民生活への支援 評価できるが不十分

鳩山政権は国民生活への直接支援に取り組んでいる。不十分さもあるが、その方向性は正しい。例えば、「コンクリートから人へ」というスローガンに基づいた八ッ場ダムなどのダム建設の中止、中小企業金融円滑化法による中小企業への支援、小泉構造改革の象徴と言われた郵政民営化の見直し(郵政株売却凍結法)。家計への直接的支援としての母子加算の復活、子ども手当、高校授業料の実質無償化などは基本的に評価できる。
また、自公政権が積み残した課題の解決も評価できる。労働者派遣法改正やワンストップサービスの開始、公設派遣村の実施など労働者への支援、JR不採用問題での和解、被爆者・肝炎患者・水俣病患者の認定や補償に関する訴訟での和解など、不十分さはあるが、自公政府が放置してきた問題を解決しようとしている。「事業仕分け」についても、国家財政支出構造の洗い直しと組み換えを国民の目の前で行ったことは評価できるだろう。
マニフェストに書かれていたが、先送りされているものもある。これは「すぐに実施すべきもの」「十分な検討を行ってから実施すべきもの」「実施してはいけないもの」に分けて考えなければならない。
すぐに実施すべきものは、後期高齢者医療制度の廃止、自立支援法の応益負担の廃止だ。夫婦別姓や取り調べ過程の可視化、外国人の地方参政権などはいずれ実施すべきだろう。実施すべきでないのは、内閣法制局長官を含む官僚答弁の禁止などを盛り込んだ「国会改革」、社会保障などの国の責任を投げ出す「地域主権改革」などだ。
国会議員の定数削減や公務員の2割削減も行うとしているが、日本は国際的にみれば公務員は多くない。国会を見ていると確かにいらない議員もいるが、議員定数を削減すれば、そういう人だけが残り、必要な人が排除される可能性もある。
また、「地域主権改革」は、ナショナル・ミニマムを後退させる恐れがある。住んでいる場所によって受けられる社会保障などの水準が違うということでは困る。ユニバーサル・サービスとして、国が行うべきこともある。社会保障などはナショナル・ミニマムを確保するためにも国が責任を持つべきだろう。

「政治とカネ」の問題

 旧体制・勢力の巻き返しが、今一番大きな問題だ。巻き返しの材料に使っているのが「政治とカネ」の問題であり、これが鳩山政権の大きな弱点になっている。小沢氏の秘書や鳩山氏の秘書が逮捕された。これについては、政治責任を問われても当然だ。市民の感覚からすれば、おかしなことだらけだ。しかし、同時に、検察が本人を起訴することができなかったという事実もある。
小沢幹事長は政治倫理審査会に逃げ込もうとしている。政治倫理審査会はこれまでほとんど未公開で行われ、政治家の間では「みそぎ」の場所として利用されてきた。自民党の谷垣総裁は「非公開の場所で話をしたからと言って疑惑が晴れるわけではない」と批判しているが、一番利用者の多かったのが自民党だ。橋本元首相の1億円ヤミ献金疑惑など、政界を揺るがした大きな問題も非公開の政治倫理審査会で幕引きがはかられてきた。
このような問題が未だに起こっていることが、日本政治の大きな問題だ。それをなくすためには、企業・団体献金を禁止しなければならない。そもそも、各党が受け取っている政党助成金は企業・団体献金の廃止を前提に作られた制度だ。にもかかわらず、いまだに企業・団体献金は廃止されていない。こんな二重取りは許されない。

沖縄の普天間基地移設問題は撤去しかない

もう一つ、鳩山政権の弱点として沖縄の「普天間基地移設問題」がある。この問題は、このまま長引けば、次第に在日米軍全体が問題になり、日米安保を問うような議論になるだろう。そもそも、日本を守るという名目で日米安保は締結されたが、今の沖縄はアメリカ軍の「対テロ戦争」のための出撃基地になっている。
また、アメリカにとって、普天間基地の必要性はそんなに高くないのではないか。今、アメリカ軍は普天間に1万8千人の米軍がいるとされているが、沖縄県が行った調査では実際は1万2千人しかいない。そのうち8千人は米軍再編でグアムに移る。そうなると4千人しか沖縄には残らない。しかも、米軍部隊は常時イラクやアフガニスタンに出撃しており、実際に基地に残っているのはもっと少ない。だから、鳩山首相は正々堂々と「出て行ってくれ」と、アメリカに言えば良い。
 フィリピンには以前、アメリカ軍のクラーク空軍基地、スービック海軍基地があったが、クラーク空軍基地はピナツボ火山の噴火による被害で閉鎖した。スービック海軍基地は上院で基地使用延長決議が否決され、撤去された。その後、何の問題も起こっていない。
さらに、アメリカが対テロ戦争のために造ったウズベキスタン南部のハナバド空軍基地も撤去された。クーデターが起きたキルギスでも、米軍の空軍基地が撤去されようとしている。どちらも中央アジアの国にある米軍基地で、アフガニスタンでの「対テロ戦争」の最前線基地だ。しかし、基地を置いている国が撤去を求めれば、アメリカ軍は出て行かなければならない。これが国と国の正常な関係なのだ。日本でも、国会で基地撤去の決議を上げれば良い。
基地撤去の世論がここまで高まったのは、皮肉にも鳩山首相の「功績」だろう。鳩山首相がぐずぐずしているうちに、沖縄も本土の世論も普天間基地の辺野古への移設反対で固まった。沖縄では、辺野古移設容認派だった仲井真県知事まで、反対に回った。ここまで来たら、もう県内移設は不可能だ。
鳩山首相はホワイトハウスに言って、「もう無理だ。無条件撤去しかない」と言えば良い。これをすれば鳩山首相は歴史に名を残すことになるだろうし、逆に、それができなければ大きな汚点を残すことになるだろう。

労働と生活の立て直し

政府は、労働者派遣法の改正法案を国会に提出して、その成立を目指している。基本的には、労働者派遣業への規制強化を図るものだが、常用型の製造業派遣を容認するとか、専門26業務を例外扱いして、これまで通り派遣を容認するなどの「抜け穴」があると批判されている。確かに、これは大きな問題で、国会審議のなかで是正されなければならない。
しかし、廃案ということになれば、現状がそのまま残ってしまう。それを避けるためには、今国会でまず成立させ、その後改善していくしか方法がないと思う。労働政策の立案には政・労・使が関わっているからだ。「使」が入っているから、どうしても「抜け穴」ができてしまう。とりあえず「原則禁止」をうたった法律を成立させ、その後も引き続き、「抜け穴」をふさぐ努力をするしかないだろう。

消費税増税問題をどう考えるか

消費税増税の動きも見逃せない。なぜ、消費税増税が必要だとされているかといえば、財源がないからだ。では、財源がなぜないのか。
一つは、自民党政治が赤字を拡大してきたからだ。もう一つは、景気が悪くなって国民生活が逼迫し、税収が減っているからだ。これを解決するために、鳩山政権は「埋蔵金」探しとか事業仕分けで財源を捻出しようとしたが、それほどの額にはならなかった。
自民党政権で赤字が増えたのは、お金のあるところから取ろうとしないで、ないところから取ろうとしたからだ。累進税率を弱めてきたのが、最大の問題だ。1974年には19段階もあった税率が6段階になり、最高税率は75%だったのに40%に減ってしまった。株式優遇税制も行われている。07年に任天堂の山内相談役は自社株配当が98億円もあった。74年の税制だったら91億円が税金として取られるが、今では10億円しか取られない。これでは税収が減るのは当たり前だ。
もう一つは、大企業優遇税制による貯め込みだ。大企業は10年で2倍の200兆円以上も内部留保を増やした。09年3月から12月までの10カ月で上位20社は1兆1477億円の内部留保を生み出している。一定の内部留保は必要だが、200兆円だったものが10年で倍というのはべらぼうだ。やはり、貯め込みすぎだ。
利益剰余金の使い道は、設備投資、内部留保、株式配当、従業員の給与だが、従業員に対する分配はほとんど増えていない。02年から07年まで大企業は過去最高益を更新し続けた。しかし、利益剰余金のほとんどは株式配当と内部留保にまわされ、従業員の給与は据え置かれたままで、労働分配率は低下する一方だった。
企業の3月期決算を報道する新聞紙上に、こんな記事が載った。「景気回復 企業に明るさ-トヨタ2期ぶり黒字」。大企業は春闘の時、「ない袖は振れない」と言う。しかし、決算は黒字だから、「振る」ことができる「袖」はあったのだ。賃上げを求め、税金も取らなければならない。
社会保障の安定的財源のために消費税が必要だという主張がある。しかし、消費税というのは逆進性が高い。低所得者の負担割合は高額所得者の負担割合に比べて大きいのが特徴だ。貧困が増大しているときに負担を増やせば、ますます景気は悪くなる。税制改革は税金という手段による所得の再分配だ。お金のあるところから税金を取り、支援が必要な人に再分配しなければならない。
民主党は消費税増税について参院選のマニフェストに盛り込むかどうかを議論しているが、盛り込んではいけない。消費税は89年から3%という税率で導入され、97年から5%に税率が引き上げられた。消費税を導入した89年の参議院選挙で自民党は大敗し、宇野総理が辞任に追い込まれた。税率を上げた後の98年の参議院選挙でも自民党は大敗し、橋本総理が辞めた。消費税の導入時も税率引き上げの時も、政府のトップは責任を取らされている。政治家にとっては、非常に恐ろしい「劇薬」なのだ。
このことを、民主党は分かっていない。逆に、自民党はこれを狙っている。民主党が消費税増税を掲げて選挙を闘えば、民主党が負けて首相は責任を取らされるだろう。そうすれば、自民党はもう一度政権に復帰できるかもしれないと期待している。民主党は自民党の「口車」に乗せられてはいけない。

民意争奪戦としての参院選

 鳩山首相の迷走の結果、国民の民主党への期待が裏切られ、民意が行き場を失い、浮遊しだしている。この民意をどこが受け止めるのか、争奪戦が始まった。参議院選挙では、この民意に応えることができる政党や政治家を選ばなければならない。
同時に、民主党にも要求をぶつけ、叱咤しなければならない。国民は鳩山政権の政策と候補者を「仕分け」して、働きかけを行う必要がある。絶対に、民主党が頼りないからといって自民党を政権に復活させてはならない。
今回の選挙では、国民を裏切り、迷走を繰り返す民主党へのペナルティを与える必要がある。単独過半数を獲得して、やりたい放題やれるというのでは困る。ただし、民主党を甘やかしてはいけないが、自民党が復権するのはもっと困る。非民主・反自民という民意を受け止めることができる政党と候補者を見極めることが必要だ。
 政党支持が流動化している状況の中で、選挙互助会のような新党が相次いで結成されている。こうした「名ばかり新党」についても、よく政策と実態を見極めなければならない。決して、新しいというだけで目を奪われてはいけない。
今は、歴史の転換点、過渡期だ。自公政権で病気にかかった社会をどう治療するのか、若者が希望をもって働ける社会にどう変えていくのか、が問われている。昨年の政権交代によって最悪の事態を脱出できるかもしれない可能性が生まれた。今度の参議院選挙では、政治変革をさらに進めて新しい日本の進路を指し示すことのできる政党、政治家を選ぶ必要がある。
政治は「明日の天気」ではない。私たちの一票によって変えることができる。これは、昨年の総選挙で実証されたことだ。さらに政治を前へ進め、もっともっと良くするために、大きな力を発揮して欲しい。

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