8月1日(日) 参議院選挙は何を物語ったのか [論攷]
〔以下の論攷は、東京土建の機関紙『けんせつ』2010年8月1日付に掲載されたものです。なお、記事の見出しで私の肩書きが「法政大学大原社会科学研究所長」となっていますが、「社会問題」の間違いですので訂正しておきます。〕
参議院選挙は何を物語ったのか
注目の参議院選挙は、民主党の惨敗に終りました。民主党の苦戦は、選挙前の調査や推計から明らかでしたが、これほどまでに負けるというのは、予想以上だったかもしれません。選挙結果は、民主党の自滅であり、「オウン・ゴール」であったというべきでしょう。菅首相は、どうしてボールを自陣営に蹴りこんでしまったのでしょうか。鳩山・小沢のダブル辞任によって内閣と民主党の支持率はV字回復を実現し、そのまま参院選に突入すれば勝利は確実だと考えた。実は、これが「つまづきの石」だったように思います。支持率と一緒に、菅さんも「舞い上がって」しまったからです。
支持率V字回復を過信
舞い上がり自滅した菅民主党
菅さんは、ようやく首相になれて、政策課題実現の戦略・戦術はなくとも、高い支持率を背景にかなりのことができると過信し、「政治とカネ」の問題と沖縄普天間基地撤去問題は「クリアできた」と思い込んでしまったのです。
こうして、持ち出してきたのが、消費税の税率アップという「劇薬」でした。支持率の回復に気をよくした菅さんは、「自民党の10%案を参考にしたい」と口走ってしまいました。消費税率のアップに賛成する意見が多数だという世論調査にまどわされた面もあったかもしれません。
しかし、この発言の直後から、内閣支持率は急落します。あわてた菅首相は、発言を二転、三転させました。そのことが首相の発言への信頼感をそこね、かえって迷走を印象づけました。こうして、支持率低下と迷走との「スパイラル現象」が始まり、民主党の惨敗となったわけです。
3つの「恐ろしさ」を実証
消費税・小選挙区制・民意
参院選の結果は、3つの「恐ろしさ」を実証したように見えます。
第1に、消費税増税問題を持ち出すことの「恐ろしさ」です。消費税の税率アップは手っとり早く税収を図る方法ですが、庶民の生活を直撃して景気に悪影響を及ぼすだけに反対も強く、取り扱いに注意しなければならない「劇薬」なのです。
第2に、小選挙区制という選挙制度の「恐ろしさ」です。昨年の衆院選で民主党に勝利を与えたのが「小選挙区制のカラクリ」であったとすれば、逆に今回、民主党に敗北を与えたのも「1人区(小選挙区制)のカラクリ」でした。
第3に、有権者の眼の「恐ろしさ」です。この間、「世論」は大きく乱高下しましたが、それは菅首相の消費税発言に、有権者が敏感に反応したからです。
とりわけ、この最後の点が重要です。民意の急激な変化は、たとえば、05年総選挙での自民党勝利、07年参院選での自民党敗北、09年総選挙での民主党勝利、10年参院選での民主党敗北というめまぐるしい選挙結果に、如実に示されています。今後も、世論ははげしく変化するにちがいありません。
今後、菅首相はきびしい国会運営に直面するでしょう。
第1に、衆院と参院での多数派が異なる「ねじれ現象」が、再び生じたことです。与党は再議決できる衆院での3分の2議席を持っていませんから、最悪の場合、法律が成立しないという事態が生じるかもしれません。
第2に、きびしかった有権者の目がさらにきびしくなり、内閣支持率がさらに低下する可能性もあります。
第3に、消費税論議をやり直す必要が出てくるでしょうが、一直線で増税へ、というやり方は許されません。選挙結果を真摯に受け止めるなら、歳出の削減や消費税以外での財源などを検討しなければならないでしょう。
きびしい菅政権の前途
政治閉塞させた「2大政党制」
菅政権の前に横たわっているハードルは、決して低くはありません。参院選で敗北した菅首相に、これを飛び越えるエネルギーが残っているのでしょうか。
第1に、前述の「ねじれ現象」の下でのきびしい国会運営があります。。
第2に、9月に予定されている民主党の代表選挙があります。小沢さんを支持するグループの動向や参院選惨敗の責任論ともからんで予断を許しません。
第3に、次の総選挙があります。最大で今後3年間の任期がありますが、共同通信の調査で、菅内閣の支持率は発足当初の61.5%から36.3%へと急落しました。この傾向が続けば、かなり早い時期に解散・総選挙に追い込まれるかもしれません。
安倍政権以来、福田、麻生、鳩山と「年替わり宰相」が続きました。毎年、総理大臣が入れ替わってきたのです。菅さんもこれに続くとすれば、「最小不幸社会」ならぬ「宰相不幸社会」の到来です。
菅内閣の支持率が低下し、次の解散・総選挙が近いという観測が強まれば、野党の攻勢も強まるでしょう。「部分連合」などと言っていますが、「落ち目」になった菅首相に救いの手を差し伸べる政党があるのでしょうか。
消費税増税に向けての民主・自民の大連立の可能性は低いと思います。自民党にすれば、政権奪還のチャンスが生まれたのですから、おぼれ始めた民主党に浮き輪を投げるようなまねはしないでしょう。
罪思い「政治改革」「構造改革」
こうして、政権をめぐっての民主と自民とのキャッチ・ボールが始まるということでしょうか。これが「政治改革」によって理想とされた「二大政党制」の現実の姿なのです。
これこそ、政治的な閉塞状況の最たるものではありませんか。政権が民主と自民の間を行ったりきたりして、それ以外の出口が見つからないのですから。こうなってしまった最大の元凶は、小選挙区制にあります。
構造改革によって貧困と格差が拡大し、政治改革によってそこからの出口が閉ざされてしまった。まことに「政治改革」と「構造改革」の罪は重いと、今さらながら思わざるを得ません。
参議院選挙は何を物語ったのか
注目の参議院選挙は、民主党の惨敗に終りました。民主党の苦戦は、選挙前の調査や推計から明らかでしたが、これほどまでに負けるというのは、予想以上だったかもしれません。選挙結果は、民主党の自滅であり、「オウン・ゴール」であったというべきでしょう。菅首相は、どうしてボールを自陣営に蹴りこんでしまったのでしょうか。鳩山・小沢のダブル辞任によって内閣と民主党の支持率はV字回復を実現し、そのまま参院選に突入すれば勝利は確実だと考えた。実は、これが「つまづきの石」だったように思います。支持率と一緒に、菅さんも「舞い上がって」しまったからです。
支持率V字回復を過信
舞い上がり自滅した菅民主党
菅さんは、ようやく首相になれて、政策課題実現の戦略・戦術はなくとも、高い支持率を背景にかなりのことができると過信し、「政治とカネ」の問題と沖縄普天間基地撤去問題は「クリアできた」と思い込んでしまったのです。
こうして、持ち出してきたのが、消費税の税率アップという「劇薬」でした。支持率の回復に気をよくした菅さんは、「自民党の10%案を参考にしたい」と口走ってしまいました。消費税率のアップに賛成する意見が多数だという世論調査にまどわされた面もあったかもしれません。
しかし、この発言の直後から、内閣支持率は急落します。あわてた菅首相は、発言を二転、三転させました。そのことが首相の発言への信頼感をそこね、かえって迷走を印象づけました。こうして、支持率低下と迷走との「スパイラル現象」が始まり、民主党の惨敗となったわけです。
3つの「恐ろしさ」を実証
消費税・小選挙区制・民意
参院選の結果は、3つの「恐ろしさ」を実証したように見えます。
第1に、消費税増税問題を持ち出すことの「恐ろしさ」です。消費税の税率アップは手っとり早く税収を図る方法ですが、庶民の生活を直撃して景気に悪影響を及ぼすだけに反対も強く、取り扱いに注意しなければならない「劇薬」なのです。
第2に、小選挙区制という選挙制度の「恐ろしさ」です。昨年の衆院選で民主党に勝利を与えたのが「小選挙区制のカラクリ」であったとすれば、逆に今回、民主党に敗北を与えたのも「1人区(小選挙区制)のカラクリ」でした。
第3に、有権者の眼の「恐ろしさ」です。この間、「世論」は大きく乱高下しましたが、それは菅首相の消費税発言に、有権者が敏感に反応したからです。
とりわけ、この最後の点が重要です。民意の急激な変化は、たとえば、05年総選挙での自民党勝利、07年参院選での自民党敗北、09年総選挙での民主党勝利、10年参院選での民主党敗北というめまぐるしい選挙結果に、如実に示されています。今後も、世論ははげしく変化するにちがいありません。
今後、菅首相はきびしい国会運営に直面するでしょう。
第1に、衆院と参院での多数派が異なる「ねじれ現象」が、再び生じたことです。与党は再議決できる衆院での3分の2議席を持っていませんから、最悪の場合、法律が成立しないという事態が生じるかもしれません。
第2に、きびしかった有権者の目がさらにきびしくなり、内閣支持率がさらに低下する可能性もあります。
第3に、消費税論議をやり直す必要が出てくるでしょうが、一直線で増税へ、というやり方は許されません。選挙結果を真摯に受け止めるなら、歳出の削減や消費税以外での財源などを検討しなければならないでしょう。
きびしい菅政権の前途
政治閉塞させた「2大政党制」
菅政権の前に横たわっているハードルは、決して低くはありません。参院選で敗北した菅首相に、これを飛び越えるエネルギーが残っているのでしょうか。
第1に、前述の「ねじれ現象」の下でのきびしい国会運営があります。。
第2に、9月に予定されている民主党の代表選挙があります。小沢さんを支持するグループの動向や参院選惨敗の責任論ともからんで予断を許しません。
第3に、次の総選挙があります。最大で今後3年間の任期がありますが、共同通信の調査で、菅内閣の支持率は発足当初の61.5%から36.3%へと急落しました。この傾向が続けば、かなり早い時期に解散・総選挙に追い込まれるかもしれません。
安倍政権以来、福田、麻生、鳩山と「年替わり宰相」が続きました。毎年、総理大臣が入れ替わってきたのです。菅さんもこれに続くとすれば、「最小不幸社会」ならぬ「宰相不幸社会」の到来です。
菅内閣の支持率が低下し、次の解散・総選挙が近いという観測が強まれば、野党の攻勢も強まるでしょう。「部分連合」などと言っていますが、「落ち目」になった菅首相に救いの手を差し伸べる政党があるのでしょうか。
消費税増税に向けての民主・自民の大連立の可能性は低いと思います。自民党にすれば、政権奪還のチャンスが生まれたのですから、おぼれ始めた民主党に浮き輪を投げるようなまねはしないでしょう。
罪思い「政治改革」「構造改革」
こうして、政権をめぐっての民主と自民とのキャッチ・ボールが始まるということでしょうか。これが「政治改革」によって理想とされた「二大政党制」の現実の姿なのです。
これこそ、政治的な閉塞状況の最たるものではありませんか。政権が民主と自民の間を行ったりきたりして、それ以外の出口が見つからないのですから。こうなってしまった最大の元凶は、小選挙区制にあります。
構造改革によって貧困と格差が拡大し、政治改革によってそこからの出口が閉ざされてしまった。まことに「政治改革」と「構造改革」の罪は重いと、今さらながら思わざるを得ません。
2010-08-01 05:58
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