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8月7日(土) 最低賃金引き上げによって生ずる中小企業の負担増は大企業から補填するべきだ [労働]

 今年度の最低賃金の引き上げ目安額が決まりました。平均で15円の引き上げです。これで、現行時給平均713円は平均728円になります。
 これについて、『毎日新聞』8月5日付は、次のように報じています。

 厚生労働相の諮問機関「中央最低賃金審議会」の小委員会は5日、最低賃金(現行時給平均713円)の引き上げ目安額について、全国平均を02年度以降では最高の15円とすることを決めた。引き上げ幅は最高の東京や神奈川で30円、最低でも青森など41県の10円となった。最も低い水準の沖縄や宮崎など16県では初の2ケタの引き上げで、使用者側は6日に予定されている審議会本審への報告に反対。20年の全国平均1000円を目指す労働側は「目標に向けた第一歩」と一定の評価を示した。

 これに対して、日商の岡村会頭は次のようにコメントしています。http://www.jcci.or.jp/recommend/comment/2010/0805155221.html

 今般、中央最低賃金審議会目安に関する小委員会において、全国平均で15円、全国の都道府県をA,B,C,Dの4つのランクに分けて、すべてのランクで10円(生活保護との乖離解消分を除く)という最低賃金の大幅な引上げ額の目安が示されたことは、誠に遺憾である。
 最低賃金法において、最低賃金は、①労働者の生計費、②労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払い能力、の3つを考慮して定めなければならないとされている。これに関して、厚生労働省の平成22年賃金改定状況調査によると、賃金上昇率は前年比でマイナスであり、法人企業統計によれば、資本金1億円未満の企業の生産性は、低下もしくは停滞傾向にあって、大幅な引上げはこうした実態とかけ離れている。
 一方、日本商工会議所が本年5月~6月に実施した「最低賃金に関するアンケート調査」結果によると、最低賃金近辺で雇用している小規模企業の半数が、「最低賃金が10円程度引き上げられると経営に影響が出る」と回答している。最低賃金の引上げについては、まず、こうした影響が出るという小規模企業に対してどのような対策を取るのかを真剣に議論した上で検討すべきである。

 非正規労働者が著しく窮乏化していることは誰もが認めるところであり、日商の岡村さんもそのことは否定しないでしょう。それは最低賃金が低すぎるからであり、そのために働いても生活できないワーキングプアが増えているということにも、岡村さんは同意されるはずです。
 しかし、それは一方での事情にすぎない。問題は、「資本金1億円未満の企業」であって、最低賃金を上げれば「影響が出るという小規模企業に対してどのような対策を取るのかを真剣に議論した上で検討すべき」だというのが、日商の言う「遺憾」の意味です。
 つまり、小規模企業に対してきちんとした対策を行えば良いのです。そうすれば、日商とて最低賃金の引き上げには反対できません。ワーキングプアを放置しても良いというのでない限り……。

 中小企業に対する適切な助成措置を取りながら、最低賃金の引き上げを行えば良いのです。そうすれば、2020年までの目標として「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指すこと」が可能になります。
 しかし、問題は助成措置にはお金がかかるということです。この原資をどこから持ってきたら良いのでしょうか。
 それは、低い最低賃金によって大きな利益を得たところが出すべきです。正規労働者に代えて低賃金の非正規労働を大量に採用することでコストダウンを図り、内部留保を拡大してきたグローバル大企業こそ、この間の低賃金政策の最大の受益者だったのですから……。

 一時、大企業の内部留保が倍加したことが話題になりました。内部留保が急膨張を始めたのは1999年度以降のことで、10年間で209.9兆円から428.7兆円へと218.7兆円も増加したことが、労働総研の調査で判明しました。
 それは、賃金の切り下げや非正規労働者の解雇など労働者の犠牲と下請単価切り下げなどによる中小企業への犠牲転嫁の上に積みあがったものだというのが、労働総研の分析でした。そうであれば、これを労働者と中小企業に還元するのは当然ではありませんか。
 どうしてこれほど内部留保が増えたのか。もう少し細かく見れば次のようになります。

 第1に、2002年から07年までの5年間にわたる景気の回復がありました。この5年間、グローバル企業は過去最高益を更新し続け、儲けを増やしていたのです。
 第2に、法人税の引き下げや租税特別措置、研究開発減税など、各種の大企業優遇税制がありました。税金が減ったり、様々な名目で払わずに済んだり、あるいは斉藤さんが『消費税のカラクリ』で指摘されるような輸出企業への消費税の還付金(2008年度の総額は約6兆6700億円)によって、グローバル企業は税制面で大いに優遇されてきました。
 第3に、これも既にこのブログで指摘したことですが、日本的雇用慣行の縮減と変容です。このような慣行によってそれなりに「保護」されていた正規労働者は非正規労働者に置き換えられ、正規労働者の年功的処遇のあり方は成果・業績主義に取って代わられ、人件費コストの「節約」が進みました。これに関連して、斉藤さんは『消費税のカラクリ』で、非正規労働者の人件費は給与ではなく物件費扱いであるために「仕入れ税額控除」の対象となり、「合法的な節税」が可能であることを指摘しています。

 ということで、かつてないほど大いに儲け、税金をまけてもらい、人件費中心にコストを削減してきたのが、過去10年ほどのグローバル大企業なのです。内部に巨額の資金が貯まるのも当然でしょう。
 それをはき出させるというのが、最も理にかない、現実的な方法だと思いますが、いかがでしょうか。労働者と中小企業を犠牲にして貯め込んだ利益なのですから、その結果、苦境に陥った労働者や中小企業を救うために、その一部を召し上げるというのは、当たり前のことではないでしょうか。
 そういえば、今年の2月、共産党の志位委員長と鳩山首相との党首会談がなされたとき、鳩山首相は大企業の内部留保への課税の可能性に言及したことがあり、志位委員長は「鳩山首相の側から『(留保金への)課税という手段もある』というようなことをおっしゃった」と証言しています(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-03-02/2010030208_01_0.html)。菅首相は、この前任者の発言を重く受け止め、きちんと具体化するべきでしょう。

 それにしても奇異なのは、企業負担増大への日商の対応です。最低賃金が上がれば、すぐにコメントを出して「遺憾だ」「経営に影響が出る」と大騒ぎしますが、消費税については音無しの構えです。
 消費増税についても、「消費税に関するアンケート調査」を実施したらいかがでしょうか。「経営に影響が出る」という回答が多くなるにちがいありません。
 小企業への影響という点からすれば、消費増税の方が甚大な被害を与えるのではないかと思われます。この点について、中小企業の代弁者たる日商の岡村さんはどう考えておられるのでしょうか。



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