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8月8日(日)  大企業経営者に決定的に欠けているのは哲学と責任感だ [企業]

 このところ、財源や原資が問題になれば、私は「大企業に出させろ」と書き続けてきました。でも、大企業に負担する能力はあるのか、それだけの財力を持っているのか、という疑問を感ずる方もおられるでしょう。

 これに対する回答の第1は、比較の問題です。どこも大変でしょうが、一般の国民、中小企業、大企業と並べてみた場合、それでもまだ力があるのは大企業だと思われるからです。
 消費税は、一般国民から幅広く取る厳しい制度ですが、大企業には、輸出企業への消費税の還付金や非正規労働者の人件費への「仕入れ税額控除」などによって「美味しい制度」になっています。このような制度の変更がないとすれば、税率が上がれば上がるほど、一般国民にとっての厳しさ、輸出大企業にとっての「美味しさ」は増すことになります。
 グローバルな展開を行っている輸出大企業が消費税の税率アップを強く求めるのも当然でしょう。逆に、国内市場に依存している企業や中小企業にとって、消費増税は百害あって一利なしと言うべきです。

 第2に、責任の問題です。日本社会を暗く覆っている貧困と格差の拡大は、この間の大企業の行動に大きな責任があるからです。
 昨日のブログで書きましたように、過去10年ほどで大企業の行動スタイルが変わりました。正確に言えば、1995年の「新時代の『日本的経営』」で新しい方向を打ち出して以降、日本経団連などの財界も、それに指導された大企業も、大きな失敗を犯したのです。
 間違えた結果、大企業の内部留保ばかり増え、労働者の賃金は低下しました。非正規労働者の増大によって雇用は不安定になり、収入の減少によってワーキングプアが増大し、国内市場は低迷して消費不況に陥ってしまいました。これは財界や大企業の間違いの結果なのですから、その責任を取ってもらうのは当然でしょう。

 第3に、能力の問題です。大企業には、このような原資を負担する財力が充分にあります。たとえば、次の上場企業役員高額報酬ランキングをご覧下さい。

1位 カルロス・ゴーン    日産自動車会長兼社長 8億9100万円
2位 ハワード・ストリンガー ソニー会長兼社長   8億1400万円
3位 北島義俊        大日本印刷社長    7億8700万円
4位 植村半次郎       東北新社前会長    6億7500万円
5位 アラン・マッケンジー  武田薬品工業前取締役 5億5300万円
6位 金川千尋        信越化学工業会長   5億3500万円
7位 細矢礼二        双葉電子工業前会長  5億1700万円
8位 三津原博        日本調剤社長     4億7700万円
9位 里見治         セガサミー会長兼社長 4億3500万円
10位 古森重隆        富士フィルム社長   3億6100万円

 これは、2010年3月期決算ですから、2009年度中に支払われた役員報酬です。2009年といえば、前年秋の「リーマン・ショック」の直撃を受けて、企業業績が最も低下した時期に当たります。
 その年でさえ、10億円近い報酬を得た役員がいるのです。日産のゴーン社長の8億9000万円は、「641万人」もいるとされているワーキングプアの年収(124万円以下)の700倍以上にあたります。
 日本人で最高額となった大日本印刷の北島社長は、敷地面積が約2700平方メートルという広さの大邸宅に住んでるといいます。「派遣切り」にあって職と住居を失い、路頭に迷った多くの非正規労働者と、何という違いでしょうか。

 とはいえ、私も額だけを見て「多すぎる」と批判したいわけではありません。この役員報酬が「多すぎる」のか「少なすぎる」のか、それとも適当であるかは、個別に検討される必要があるからです。
 同時に、これは相対的な「取り分」の問題でもあります。企業業績が向上して収益が上がり、従業員の給与が増えていれば、「これくらいもらって当然だ」ということになるかもしれません。
 しかし、昨年のような厳しい経営環境の下で、非正規化を進めて労働者の賃金を抑えながら、役員だけが億を超える報酬を得ているということになればどうでしょか。春闘での賃上げ要求などに、「今は厳しいから我慢しろ」と言いながら、自分だけは高額の報酬を得ることは、そこで働く従業員はもとより、社会全体の理解を得られるのでしょうか。

 少なくとも、役員報酬の上位ランキングに現れた企業に、これだけの支払いを行う財力があることは明らかです。その資金の一部を、役員に対してではなく、従業員や社会に対して還元することも十分できたはずです。
 そうせず、日産がゴーン社長に8億9000万円もの報酬を支払ったのは、考え方の問題でしょう。貧しいのは、資金力ではなく経営哲学です。
 今日の大企業経営者に決定的に欠けているのは、企業経営において何を大切だと考えるかという哲学であり、社会全体の維持と発展のためにどうすべきかという責任感なのです。荒廃し行き詰まりつつある社会を横目で見ながら、自らの私腹を肥やすことに汲々とすることこそ、あってはならない経営者としての姿なのではないでしょうか。

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