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7月20日(水) 連合は原発推進政策を転換し、労働組合としての使命を果たすべきだ [論攷]

〔以下の論攷は、八王子革新懇話会機関紙『革新懇話会』第50号、2011年6月25日、に掲載されたものです。〕

 『週刊金曜日』二〇一一年五月一三日号に、村上力さんの「労組頼みの民主党に脱原発は難しい 原発推進の連合、背後に電力総連あり」という論攷が掲載されていました。「民主党は脱原発どころか、自民党よりも原発を推進しようとしているのは明白」で、その「背後には、民主党に原発推進へと舵を切らせてきた労働組合の“暗躍”がある」というのです。
 民主党が「自民党よりも原発を推進しようとしている」というのは言い過ぎかもしれませんが、民主党の原発政策転換の「背後には、民主党に原発推進へと舵を切らせてきた労働組合の“暗躍”がある」というのは間違いではありません。それは、自民党の原発政策推進の背後に電力会社の“暗躍”があったのと同様です。

 この「労働組合の“暗躍”」の中心勢力が電力総連であったことも、村上さんが書いている通りです。その他にも電機連合や基幹労連なども、原発推進勢力だったと言って良いでしょう。
 これらの原発推進の立場に立ってきた単産は公然と連合の路線転換を働きかけてきました。たとえば、電力総連は二〇一〇年九月の第三〇回定時大会『議案書』で「プルサーマルの推進、核燃料サイクルの確立を含め、原子力発電の推進は、エネルギー安定供給、地球環境問題への対応の観点において、極めて重要な課題です。私たちは、労働組合の立場から労働界をはじめ国民各層への理解活動を強化していかなければなりません」と書いています。
 このような働きかけの効果もあって、連合は原発推進へと舵を切ります。その始まりは、二〇〇八年一一月のことでした。連合第一四回中央執行委員会はエネルギー政策の転換に向けてプロジェクトチーム(PT)を設置し、PTは〇九年五月まで七回の会議を開いて九月一七日の第二四回中央執行委員会に報告を出しました。
 そこには、原子力発電について、「原子力エネルギーは現在わが国の主要電源の一つであり、……エネルギー安定供給に欠かすことのできない重要なエネルギー源として位置づけることが妥当」だとして、「現在計画中の原子力発電所の新増設(計一三基。「長期エネルギー需給見通し」では九基の新増設を仮定)については、地域住民の理解・合意を前提に、これを着実に進め」、「高速増殖炉については、……拙速を避けつつも確実に進める」と書かれていました。

 民主党は、〇九年のマニフェストで原発推進に転じ、その後は原発輸出を「国家戦略プロジェクト」にするなど原発政策に肩入れしました。このような民主党政権の転換を明確にしたのが、一〇年六月一八日に閣議決定された「エネルギー基本計画」です。
 これは自民党政権時代の〇三年一〇月に策定された「エネルギー基本計画」を改定したものです。この計画は三年ごとに検討を加えて必要に応じて改定されることが定められており、一〇年六月の改定は第二次ということになります。
 この「基本計画」は「原子力は、供給安定性・環境適合性・経済効率性を同時に満たす基幹エネルギーである」と書いたうえで、「二〇三〇年までに、少なくとも一四基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約九〇%を目指していく」との具体的な目標を掲げていました。
 このように、民主党がマニフェストで原発推進へと舵を切った頃、歩調を合わせるように連合も原発推進の方針を明確にすることになります。一〇年八月一九日、連合は第一一回中央執行委員会で「エネルギー政策に対する連合の考え方」を採択したからです。
 この「考え方」は、化石エネルギー、原子力エネルギー、再生可能エネルギーの「ベストミックスの推進」を図るとし、原子力エネルギーについて「現在計画中の原子力発電所の新増設については、地域住民の理解・合意と幅広い国民の理解を前提に、これを着実に進める」との方向を明確にしました。ここに登場する「ベストミックス」という言葉は、民主党政権によって一〇年六月に策定された「エネルギー基本計画」にも登場した「キーターム」です。

 こうして、連合は「原子力発電所の新増設」を「着実に進める」との「考え方」を明らかにし、「政策・制度 要求と提言」に、「より高度な安全確保体制の確立を大前提に、原子力発電の高経年化対策と設備利用率向上をめざす」と書きました。しかし、福島第一原発での放射能災害がここまで拡大してしまった現在、このような路線を維持することは不可能です。連合は四月二〇日に開いた中央執行委員会で、原子力エネルギーを推進する従来の政策は「より高度な安全確保体制の確立、地域住民の理解・合意という前提条件が確保され難い状況を考慮し、凍結する」として棚上げを提案しました。
 前述の「政策・制度 要求と提言」についての政策制度中央討論集会は四月二五~二六日に開催されます。棚上げの方針はここで提案され、「政策の総点検や見直し作業は、事故の収束を待って始める」とされましたが、その後、連合は原発推進方針を凍結し、原発政策の総点検・見直しに着手する方針を打ち出しています。

 しかし、「凍結」や「見直し」にとどまっていてはなりません。原子力発電に依存する社会のあり方やエネルギー政策からの転換を明確に打ち出し、労働組合はそのためにイニシアチブを発揮すべきだからです。
 原発の職場は、常に放射能による被曝の危険と隣り合わせです。そのような危険に満ちた労働から働く人々を守ることは、労働組合としての当然の責務ではないでしょうか。
 つまり、原発で働く人々の安全と健康を守るために、本来、労働組合こそが大きな役割を果たすべきだったのです。電力総連や連合などは、労働者を危険にさらす原発の推進ではなく、脱原発こそ先頭になって訴えるべき立場にあったはずです。それが、原発推進の立場に立ってしまいました。大きな間違いを犯したというわけです。
 できるだけ早く、そのような間違いを是正しなければなりません。今もなお、福島第一原発の放射能漏れの防止と沈静化のために必至で働いている人々を守り、二度と再び、このような危険な作業が必要とされないようにするために労働組合は力を尽くすべきでしょう。

 これを機会に、労働組合はアンチ・ニュークリア(反核・脱原発)国家を目指し、働き方を変えるところまで構想しなければなりません。核兵器の開発に反対し、原子力発電への依存から脱却する方向を明確にするべきです。
 省エネルギー社会を実現し、ワークシェアリングによって労働時間の短縮を図り、過労死のないディーセント・ワークに支えられた新しい社会を目指そうではありませんか。このようにして人間らしい労働と生活を実現することこそ、「福島の教訓」を踏まえた労働組合の使命であることを自覚してもらいたいものです。

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