10月14日(金) 融和・協調を最優先する「政局内閣」の弱点を示した鉢呂経産相の辞任 [論攷]
〔以下の論攷は、八王子革新懇話会機関紙『革新懇話会』第51号、2011年9月25日付、に掲載されたものです。〕
おそらく、野田新首相は舌打ちをしたことでしょう。最も警戒していた失言が、鉢呂吉雄さんの口から飛び出してしまったのですから……。
鉢呂経済産業相は九月一〇日の夜、衆院議員宿舎で野田佳彦首相と会い、辞任を申し出て了承されました。東京電力福島第一原発の周辺自治体を「死のまち」と表現し、福島視察後に記者団に「放射能をつけちゃうぞ」などと語ったことの責任をとったわけです。
内閣発足から九日目で、原子力行政を所管する閣僚が辞任する事態となりました。野田首相の任命責任が問われるのは当然です。
それにしても、何という子供っぽい失敗でしょうか。新聞で「舞い上がり失言」だとのコメントを見かけましたが、まさにその通りでしょう。
自民党の場合には、憲法違反の確信犯的な暴言が目立ちました。民主党の場合には、大臣になったうれしさのあまり舞い上がってしまい、立場をわきまえず言ってはならないことを言ってしまう失言が多いような気がします。
政権運営についての不慣れといってしまえばそれまでですが、ここにもきちんとした背景があるように思われます。その一つは、選挙互助会としての性格が強い民主党のあり方です。もう一つは、適材適所についての配慮よりも、党内融和・野党協調を最優先した今回の組閣のあり方です。
前者については、小選挙区制という選挙制度によって生じた悪影響の一つとして『しんぶん赤旗』九月一五日付で指摘した点です。その三面に掲載された「いま言いたい」というインタビュー記事で、私は「小選挙区制では現職以外の政党から立候補せざるを得ず、野党時代の民主党にはそのために加わったような人が少なくありません。理念や政策が二の次となるわけです」と話しました。
鉢呂さんがそのような人であったかどうかは分かりませんが、選挙で当選したい、大臣になりたいと思い続けてきた人が民主党に多いのは事実でしょう。その分、願いがかなった時の喜びは大きく、思わず「舞い上がって」しまう人も出てくるというわけです。
とりわけ、「万年野党」と言われて政権参画も大臣になることも諦めていた旧社会党出身者に、このような傾向が強いように思われます。今回の鉢呂さんや復興担当相を辞任せざるを得なくなった松本龍さんなどが、その例なのではないでしょうか。我を忘れて、思わず漏らしてしまった配慮のない発言が命取りになったわけです。
本来であれば、このような人を大臣に据えるべきではなかったでしょう。それが実現してしまったのは、先に指摘したもう一つの事情によります。大臣としての適格性よりも、党内融和のために出身グループへの配慮を優先させたからです。この点で、野田首相の任命責任は厳しく問われなければなりません。
野田内閣は、政策の実現よりも政局の安定を優先させた「政局内閣」なのです。小沢対反小沢の対立によって民主党内が分裂することは避けたい、自民党など野党との関係を強めてできれば「大連立」を実現したいという思惑が先に立ち、それによってどのような政策を実行するのかについては真剣に考えられていません。
このように大臣としての適性よりも所属グループへの配慮を優先させたために、新入閣が一〇人にもなってしまいました。その結果、玄葉外相、安住財務相、鉢路経産相、藤村官房長官などのように、重要閣僚にも未経験者を起用してしまいました。その結果、早くも躓きの石となったのが鉢路さんだったのです。
また、小沢さんに近いとされる輿石さんを民主党幹事長に据え、大臣としては山岡さんや一川さんなどの小沢グループを閣内に取り込んだことのリスクもあります。これまでは党役員や閣僚は一致して「小沢支配」に抵抗しましたが、もし小沢グループが反旗を翻せば、これからは党役員の内部や閣僚内で不一致や対立が生ずることになります。
つまり、これまで党役員や内閣の外にあった小沢対反小沢の対立軸は、今回の組閣によって内部化されました。小沢グループの取り込みに成功しなかった場合、閣内不一致などの形で、これまで以上に大きな混乱が生ずる可能性があります。
さらに、組閣前に米谷経団連会長など財界首脳と会談し、自民・公明両党とも党首会談を行い、前原さんを政調会長にしてアメリカとのパイプを強めました。その結果、自民党や財界、アメリカに擦り寄るあまり、民主党らしさが失われてしまうという問題が生じています。
野田首相が打ち出している方向は古い自民党政治の姿を彷彿とさせるものですが、それならどうして政権を交代させたのでしょうか。
偽りの政治改革と官僚主導型政治で日本の政治を混乱の極に追い込んできたのは自民党でありませんか。どうして、それを見習おうとするのでしょうか。
新自由主義と市場原理主義を振り回して日本の産業と経済をメチャクチャにしたのは財界ではありませんか。どうして、それに尻尾を振るのでしょうか。
九・一一事件に逆上して「対テロ戦争」などと叫び、イラクやアフガニスタンに攻め込んで多くの人命を奪っただけでなく、その出撃基地を沖縄に押しつけてきたのはアメリカではありませんか。どうして、それを手助けしようとするのでしょうか。
野田新首相の政治姿勢は政権交代や民主党政権の正統性への疑問を生み出すことにならざるを得ません。当然、民主党内からの反発や国民からの批判も強まります。
とりわけ、財務相時代から野田さんは増税論で知られ、すぐに復興増税の問題が出てきますし、来年の通常国会には消費税増税のための法案を出すと言っています。このほか、大震災からの復旧・復興と原発事故対応、衆参両院のねじれ状況、「三党合意」による縛りとマニフェストからの転換、「小沢処分問題」の処理、TPPへの参加、「大連立」への傾斜、脱原発依存方針からの後退や原発再稼働方針の明確化など、党内外からの批判を浴びる要素も多々あります。
思いのほか高い内閣支持率で出発し、順調そうに見える野田政権の船出ですが、その行く手に漂う暗雲は決して少なくありません。もし、野田政権が国民の要求に反する方向を強めていけば、これらの暗雲は大きな嵐となって前途に立ちはだかることでしょう。
おそらく、野田新首相は舌打ちをしたことでしょう。最も警戒していた失言が、鉢呂吉雄さんの口から飛び出してしまったのですから……。
鉢呂経済産業相は九月一〇日の夜、衆院議員宿舎で野田佳彦首相と会い、辞任を申し出て了承されました。東京電力福島第一原発の周辺自治体を「死のまち」と表現し、福島視察後に記者団に「放射能をつけちゃうぞ」などと語ったことの責任をとったわけです。
内閣発足から九日目で、原子力行政を所管する閣僚が辞任する事態となりました。野田首相の任命責任が問われるのは当然です。
それにしても、何という子供っぽい失敗でしょうか。新聞で「舞い上がり失言」だとのコメントを見かけましたが、まさにその通りでしょう。
自民党の場合には、憲法違反の確信犯的な暴言が目立ちました。民主党の場合には、大臣になったうれしさのあまり舞い上がってしまい、立場をわきまえず言ってはならないことを言ってしまう失言が多いような気がします。
政権運営についての不慣れといってしまえばそれまでですが、ここにもきちんとした背景があるように思われます。その一つは、選挙互助会としての性格が強い民主党のあり方です。もう一つは、適材適所についての配慮よりも、党内融和・野党協調を最優先した今回の組閣のあり方です。
前者については、小選挙区制という選挙制度によって生じた悪影響の一つとして『しんぶん赤旗』九月一五日付で指摘した点です。その三面に掲載された「いま言いたい」というインタビュー記事で、私は「小選挙区制では現職以外の政党から立候補せざるを得ず、野党時代の民主党にはそのために加わったような人が少なくありません。理念や政策が二の次となるわけです」と話しました。
鉢呂さんがそのような人であったかどうかは分かりませんが、選挙で当選したい、大臣になりたいと思い続けてきた人が民主党に多いのは事実でしょう。その分、願いがかなった時の喜びは大きく、思わず「舞い上がって」しまう人も出てくるというわけです。
とりわけ、「万年野党」と言われて政権参画も大臣になることも諦めていた旧社会党出身者に、このような傾向が強いように思われます。今回の鉢呂さんや復興担当相を辞任せざるを得なくなった松本龍さんなどが、その例なのではないでしょうか。我を忘れて、思わず漏らしてしまった配慮のない発言が命取りになったわけです。
本来であれば、このような人を大臣に据えるべきではなかったでしょう。それが実現してしまったのは、先に指摘したもう一つの事情によります。大臣としての適格性よりも、党内融和のために出身グループへの配慮を優先させたからです。この点で、野田首相の任命責任は厳しく問われなければなりません。
野田内閣は、政策の実現よりも政局の安定を優先させた「政局内閣」なのです。小沢対反小沢の対立によって民主党内が分裂することは避けたい、自民党など野党との関係を強めてできれば「大連立」を実現したいという思惑が先に立ち、それによってどのような政策を実行するのかについては真剣に考えられていません。
このように大臣としての適性よりも所属グループへの配慮を優先させたために、新入閣が一〇人にもなってしまいました。その結果、玄葉外相、安住財務相、鉢路経産相、藤村官房長官などのように、重要閣僚にも未経験者を起用してしまいました。その結果、早くも躓きの石となったのが鉢路さんだったのです。
また、小沢さんに近いとされる輿石さんを民主党幹事長に据え、大臣としては山岡さんや一川さんなどの小沢グループを閣内に取り込んだことのリスクもあります。これまでは党役員や閣僚は一致して「小沢支配」に抵抗しましたが、もし小沢グループが反旗を翻せば、これからは党役員の内部や閣僚内で不一致や対立が生ずることになります。
つまり、これまで党役員や内閣の外にあった小沢対反小沢の対立軸は、今回の組閣によって内部化されました。小沢グループの取り込みに成功しなかった場合、閣内不一致などの形で、これまで以上に大きな混乱が生ずる可能性があります。
さらに、組閣前に米谷経団連会長など財界首脳と会談し、自民・公明両党とも党首会談を行い、前原さんを政調会長にしてアメリカとのパイプを強めました。その結果、自民党や財界、アメリカに擦り寄るあまり、民主党らしさが失われてしまうという問題が生じています。
野田首相が打ち出している方向は古い自民党政治の姿を彷彿とさせるものですが、それならどうして政権を交代させたのでしょうか。
偽りの政治改革と官僚主導型政治で日本の政治を混乱の極に追い込んできたのは自民党でありませんか。どうして、それを見習おうとするのでしょうか。
新自由主義と市場原理主義を振り回して日本の産業と経済をメチャクチャにしたのは財界ではありませんか。どうして、それに尻尾を振るのでしょうか。
九・一一事件に逆上して「対テロ戦争」などと叫び、イラクやアフガニスタンに攻め込んで多くの人命を奪っただけでなく、その出撃基地を沖縄に押しつけてきたのはアメリカではありませんか。どうして、それを手助けしようとするのでしょうか。
野田新首相の政治姿勢は政権交代や民主党政権の正統性への疑問を生み出すことにならざるを得ません。当然、民主党内からの反発や国民からの批判も強まります。
とりわけ、財務相時代から野田さんは増税論で知られ、すぐに復興増税の問題が出てきますし、来年の通常国会には消費税増税のための法案を出すと言っています。このほか、大震災からの復旧・復興と原発事故対応、衆参両院のねじれ状況、「三党合意」による縛りとマニフェストからの転換、「小沢処分問題」の処理、TPPへの参加、「大連立」への傾斜、脱原発依存方針からの後退や原発再稼働方針の明確化など、党内外からの批判を浴びる要素も多々あります。
思いのほか高い内閣支持率で出発し、順調そうに見える野田政権の船出ですが、その行く手に漂う暗雲は決して少なくありません。もし、野田政権が国民の要求に反する方向を強めていけば、これらの暗雲は大きな嵐となって前途に立ちはだかることでしょう。
2011-10-14 09:43
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