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2月28日(木) 日本市場をこじ開けようとし続けてきたアメリカの執念 [TPP]

 今回のTPP交渉への参加問題は、過去においてアメリカの市場開放圧力に日本が屈服してきた歴史の最終段階を意味しています。そして、ここでも安倍首相はアメリカの圧力に屈服しようとしているようです。

 このような歴史は、1965年以降、日米間の貿易収支が逆転してアメリカの対日貿易が恒常的に赤字になったことから始まります。日本がOECDに加盟し、GNPで西独を抜いて西側世界第2位となった68年が一つの転換点でした。
 その象徴的な出来事が日米繊維摩擦の発生です。結局、「糸と縄の交換」によって沖縄の施政権返還のために繊維問題では譲歩し、日本側が自主規制することで決着します。
 こうして、1972年に日米繊維協定(繊維製品)が締結され、沖縄の施政権が返還されました。当時、通産相であった田中角栄は、この問題を「解決」することによって首相への道を歩み始めますが、アメリカへの屈服によって日本の繊維産業は衰退していくことになります。

 その後、80年代から90年代にかけて、アメリカの対抗相手と競争条件の変化が生じ、日本に対する圧力は増大していきます。日本は高度経済成長の結果、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるほどの力を得て台頭していったからです。
 ソ連・東欧の崩壊によってアメリカの軍事的ライバルとしてのソ連は消滅し、東側諸国や途上国の市場競争への参入によってグローバル化が進展します。このようななかで、1985年にはアメリカの対日赤字が500億ドルに達し、日本への市場開放圧力は一段と強まります。
 投資・金融・サービス市場の閉鎖性によってアメリカ企業が参入しにくいことが批判され、自動車、家電、半導体・農産物(米・牛肉・オレンジ)がターゲットとされますが、事実上ほとんどの分野で摩擦が生じます。日本に対する自由化圧力が強まるなかで、最終的には、コメの部分的開放、牛肉とオレンジの自由化が実行されました。

 それでも、アメリカからの圧力は止みません。それどころか、市場開放要求はさらに多角化・系統化することになります。
 89年以後に実施された日米構造協議(構造障壁イニシアチブ)では「政策実行計画案」として240項目の対日要求リストが示され、93年からの「日米包括経済協議」では、商習慣・流通構造などの国のあり方や文化にまで範囲を広げた協議がなされます。この間、日本の市場開放に向けて厳しい要求がなされたことを記憶している方もおられるでしょう。
 さらに、94年以後は、年次改革要望書(「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書」)が毎年日本に突きつけられるようになり、97年から2001年の日米規制緩和対話で6分野(電気通信、エネルギー、規制緩和・競争政策WG等)についての共同報告書が出されます。これは、2001~09年の規制改革及び競争政策イニシアティブや投資イニシアチブに受け継がれ、「成長のための日米経済パートナーシップ」の一部として、日米両国の投資環境の改善のための対話を行う枠組みの形成が目指されました。
 2010年に合意された日米経済調和対話の分野は、貿易、高速鉄道、稀少資源に関する協力、知的財産権、弁護士、医療、保険、通信、郵政、農業、相手国の規制などに及んでいます。その背景には、アメリカの対日赤字が膨らむ要因は日本の市場の閉鎖性(非関税障壁)にあるとの認識がありますが、これは今回のTPPにも共通しています。

 このような形で、一貫してアメリカは対日市場開放要求を続けてきました。日本政府はこれに押されて部分的な市場開放を認めてきましたが、完全に屈服したわけではありません。
 特にコメと「非関税障壁」とされる日本独特の仕組みや商慣行については維持し続けてきました。その障害を突破し、日本市場をこじ開けてアメリカ企業の全面的な参入を可能とするために目を付けたのが、環太平洋戦略的経済連携協定(Trans‐Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)です。
 これは元々、06年発効のシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイによる自由貿易協定(FTA)でした。08年のリーマンショック後、アメリカが参入を表明し、オーストラリアやベトナム、カナダ、メキシコも参加するなどして、現在は新たな枠組み作りに向けて交渉中です。
 モノ、サービス、政府調達や知的財産権なども対象とする包括的FTAで、農業、食糧、医療、保険、公共事業、法律、金融・投資、工業製品、サービスなどの幅広い分野が対象となり、原則として15年までにほぼ100%の関税撤廃を目指しています。もし日本が参加すれば、GDP比ではアメリカと日本で90%以上を占めることになりますから、実質は日米協定です。

 このTPPが締結されれば一切の貿易障壁がない「完全な日米自由貿易圏」が実現することになるでしょう。アメリカの市場として日本を食い尽くそうと狙ってきたアメリカの思惑が、完全に達成されることになります。
 こうして、60年代の中葉、日米間の貿易収支が逆転して以来、アメリカが悲願としてきた市場開放要求の最終段階が訪れようとしています。そのようなアメリカに日本市場を提供しようとしているのが「愛国心」を売り物にしている安倍首相ですから、何とも皮肉なものだというしかありません。
 今、最も愛国心教育が必要なのは、安倍首相本人なのではないでしょうか。
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