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3月3日(日) コメを中核とする日本の農業はすでにアメリカによって破壊されてきたことを知るべきだ [TPP]

 TPP交渉をめぐって、国内の反対論が強まってきました。自民党は交渉への参加反対を約束して政権に復帰したのに、政権についた途端にそれを放り投げようとしているわけですから、それも当然でしょう。
 消費税の引き上げを強く批判していた野田首相が、首相になった途端に消費増税の旗を振り出したことと経過が似ています。おそらく、その結果も似たようなものになるのではないでしょうか。

 JA全中の萬歳章会長らJAグループトップは3月1日、安倍首相、林農相と自民、公明両党に前日に決めた「TPP交渉参加におけるJAグループの考え方に対する申し入れ」書を手渡し、改めて交渉参加への反対を訴えました。この申し入れ文書で強調していることは、日米共同声明は「TPPの特徴である『聖域なき関税撤廃』を前提にしたものとしか理解できない」こと、「重要品目の除外が担保されていない」ことだそうです。
 それはそうでしょう。すでに、このブログでも指摘したように、共同声明を普通に読めば、「一方では交渉の内容には前提があること、しかし他方では、それへの参加には前提がないことを確認したもの」にすぎないのですから……。
 「交渉の内容」については、あくまでも「TPPの特徴である『聖域なき関税撤廃』を前提にしたもの」であることに変更はありません。コメなどの「重要品目の除外が担保されていない」ことは、誰が読んでも自明のことです。

 TPPは、コメはもちろん農業だけを対象としたものではありません。また、関税だけではなく、非関税障壁と言われる様々な商慣行や規制の撤廃をも目指しています。
 したがって、その影響は広範囲に及び、食の供給や安全、流通やサービスのあり方、金融や保険、土木・建設や公共事業などの幅広い分野へのアメリカ企業の参入を可能とすることになるでしょう。その中でも、農業、とりわけコメ作りは、壊滅的な打撃を受けることになるだろうと思われます。
 というより、すでにアメリカの政策によってコメ作りはこれまでも大きな困難を抱え込まされてきました。今回のTPPへの参加は、このようなコメ作りを中核とした日本農業破壊の「第2の波」にほかならないものなのです。

 それでは、「第1の波」は、いつ頃、どのようにして襲ってきたのでしょうか。それは、終戦直後から、食糧危機を救済するという名目で、あるいは日本人にパン食を押しつけるという形で、大々的に展開されました。
 その目的は、増産体制に入った途端に戦争が終了し、その結果、大量に余ってしまったアメリカ国内における余剰小麦の売り込みを図ることにありました。同時に、日本人の食生活を洋風に変え、小麦や乳製品、牛肉などの継続的な販路として日本市場を開拓することにありました。
 そのための決定的かつ重要な手段になったのが学校給食です。私と同年代の人々は、子ども時代にまずいコッペパンと脱脂粉乳の給食を食べたことを覚えていることでしょう。このような食事の方が米食よりも栄養価があって健康に良いという宣伝もなされ、その結果、急速にパン食が普及し、今日ではパンにコーヒーや牛乳という朝食が一般的になりました。

 こうして、日本人の食生活が変容してしまったのです。ご飯を中心に味噌汁と副菜で構成されてきた日本型食生活を送る家庭が少なくなりつつあるわけです。
 その結果、コメに対する需要は漸減し、米作農業は次第に衰退していきます。もちろん、コメ需要の減少には様々な要因が考えられますが、日本人の食生活の変容がその一因であることは明らかです。
 また、コメを食べなくなった背景や要因も給食の影響だけではないでしょう。食生活の多様化や時間の節約、栄養面での誤解などもあるかもしれませんが、とりわけ団塊の世代にとって、子ども時代に受けた影響の意味は小さくないように思われます。

 そして、とうとう2011年にコメとパンの一世帯あたりの支出額が逆転し、コメの消費額がパンに追い越されてしまいました。コメ衰退に向けての「第1の波」は、ここまで大きな波紋を呼ぶに至ったということができるでしょう。
 そして、そこに今、襲いかかろうとしているのが、TPPという「第2の波」なのです。すでに力を弱めているコメ作り農家に、このような大波に耐えられる「体力」が残っているでしょうか。
 もし、コメの関税が撤廃され、安い輸入米が増えれば、国産米に対する需要は更に減少するでしょう。一部の大規模農家や銘柄米は輸出などで生き残ることができても、兼業で細々と生産しているほとんどのコメ農家が立ち行かなくなることは明らかです。

 世界の「日本食ブーム」に見られるように、日本型食生活はかえって健康に良いものでした。それが洋風化することによって、日本人の健康も農業も、食料の自給や安定的な供給さえも脅かされるような結果になっています。
 米作の衰退は、それを中核とする日本の農業、水田による豊かな環境、美しい景観や水資源、国土の保全、それと深い関わりを持つ日本の伝統行事や祭り、文化などの破壊をもたらし、日本という国のかたちを変えることにも繋がっていきます。
 それで良いのでしょうか。TPP交渉参加への賛否は、このような重大な問いに対する賛否も含まれているのだということを知る必要があるでしょう。

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