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3月8日(金) 労働規制緩和の攻勢をかける経営者団体-日本経団連『経営労働政策委員会報告』批判(その1) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『自然と人間』2013 年3月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

日本の労働者の賃金は高くない

 今年の『経営労働政策研究委員会報告』(以下、報告書)では、「危機」を前面に出し、報告書のサブタイトルは「活力ある未来に向けて、労使一体となって危機に立ち向かう」となっています。しかし、この「危機」や厳しい経営環境がなぜ生じたのか、それを解決するにはどうすべきかが分析されていません。むしろ、この報告書は逆の方向で、「危機」をさらに深めるような主張を行っています。
 報告書は、この「危機」から抜け出すために労使は一体となって立ち向かうべきで、賃上げなどはとんでもないと言っています。「ベースアップを実施する余地はなく、賃金カーブの維持、あるいは定期昇給の実施の取扱が主要な論点になると考えられる」、「定期昇給の実施時期の延期や凍結について協議せざるを得ない場合もあり得る」、「(定期昇給の)制度自体のあり方についても議論が必要となろう」と書いています。
 このような主張は、「危機」がデフレと消費の停滞による内需の狭隘化によるものであるということ、そこからの脱却には雇用の安定と可処分所得の増大が必要で、労働者の可処分所得を増大させ、実体経済を好転させていくという視点は見あたりません。グローバル競争にいかに打ち勝つかという話ばかりです。外国企業と競争して打ち勝つためには、総額人件費の削減、コスト削減をしていくという主張です。
 報告書は日本の「製造業における一人あたり人件費は先進国で最高水準に達している」と書いています。国際競争力を高めるために賃金は低くしたいということです。しかし、欧米諸国との比較では決して高いとは言えません。一人あたりの人件費が高いのは日本の労働時間が長いためで、単位時間あたりの賃金額では低いほうに位置しています。しかも、報告書に引用された政府統計でも、「現金給与総額」は97年から下がり続けています。
 また、経営側は儲かっていないように書いていますが、資本金10億円以上の大企業の内部留保は260兆円にのぼるという調査もあります。労働者の賃金引き上げは十分可能なのです。

賃金抑制に財界からも疑問


 賃上げに消極的な経団連に対して、厚生労働省は、今年度の『労働経済白書』で「勤労者世帯の消費支出の推移をみると、実収入や可処分所得の動きと同様、1997年をピークに減少に転じ」たとして、「賃金の引き上げは消費の拡大を通じて、経済全体にもプラスの影響があることを社会全体で認識すべきである」と主張しています。また、安倍政権も賃金を引き上げて購買力を高めることを政権の課題としており、安倍首相は経済界に賃上げなどに取り組むよう要請しました。
しかし、多くの企業は賃金の引き上げに消極的です。NHKの調査では主な大手企業100社のうち、賃上げやボーナス増額を検討中の企業はまったくゼロで、むしろ「ボーナスなどの減額を検討している」が7社、「賃金カットを検討している」が1社ありました。安倍首相の要請など、どこ吹く風です。
 同時に、賃上げをめぐっては経営者の内部でも考え方の違いが生じているようです。2年前の福島原発事故の後、経団連から楽天の三木谷氏が脱退しました。原発推進を掲げる経団連はおかしいと言って飛び出したのですが、それだけではありません。楽天やソフトバンクなどのIT産業やサービス・流通関係の企業には、今の輸出主導型製造業が中心の経団連による総額人件費やコスト削減路線とは一線を画そうとする動きがみられます。
 人件費抑制一辺倒では消費不況が続き、国内市場に依存する企業は商売できません。デパートやコンビニなどもそうで、儲からないわけです。これらの産業は、経団連とは別の「新経済連盟」を昨年6月につくりました。経団連に対するスタンスははっきりしませんが、別の勢力が生まれつつあることは間違いないでしょう。
(続く)
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