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6月1日(土) “憲法96条改正”狙いは戦争する国づくり [論攷]

〔以下のインタビューは、『民医連新聞』2013年5月6日付(第1547号)に掲載されたものです。〕

 七月に日本の将来を左右する参院選が行われます。有権者である私たちは何に注目すればいいのかー。テレビでは教えてくれない問題をみていきます。今回は「憲法」。安倍内閣は「憲法を変える」ことを政権の目標として掲げ、参院選の争点に「憲法九六条改正」を打ち出しました。その狙いは? 法政大学大原社会問題研究所の五十嵐仁教授に聞きました。(丸山聡子記者)

 憲法はいま、戦後最大の危機にあります。改憲は自民党結党以来の党是ですが、内閣として「憲法を変える」ことを政治日程に掲げたのは安倍内閣が初めてです。
 安倍第一次内閣(二〇〇六~〇七年)は、すでに憲法改正の手続き法である国民投票法を制定しています。昨年末の総選挙の結果、衆議院では自民党など「改憲」勢力が、憲法改正発議に必要な三分の二以上の議席を占めました。
 憲法改正に向けた「法的枠組み」に加え、「政治的枠組み」も衆議院で確保されたのです。今度の参院選でも改憲勢力が三分の二以上を占めれば、憲法改正に突き進むことが予想されます。安倍首相は「参院選では九六条改正を掲げて戦う」と明言しています。

▼96条になぜこだわるか

 九六条は憲法改正の手続きを定めた条文です。「憲法改正には各議院の総議員の三分の二以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の承認を必要とする」と定めています。安倍首相は条文のうち「総議員の三分の二以上の賛成」を「過半数の賛成」に変更し、まずは憲法を変えやすくしたうえで、自民党の改憲案にあるような全面的な改定を狙っているのです。
 憲法は国の基本法であり、法律の法律です。制度や法律の判断基準となります。ですから、普通の法律と同じように過半数での発議では軽すぎるのです。そのためにあるのが九六条です。
 外国の憲法も同様で、特別な多数での発議に加え、国民投票などの手続きを課しているというのが主流です(図)。改憲勢力はこのハードルを過半数に低めようというのです。そうなれば、政権が変わるたびに都合よく変えられ、憲法が不安定になりかねません。
 九六条は権力の暴走を抑えるためのものです。これを緩めようというのは、「暴走したい」と考えている証拠ではないでしょうか。

▼憲法の原則を投げ捨てる

 自民党が昨年発表した憲法改正草案は、二一世紀の日本を、二〇世紀どころか一九世紀に戻すような内容です。日本は立憲主義の国です。支配者による恣意的な権力の行使を制限し、人権を損なわないように権力を縛るのが憲法です。しかし自民党案は、〝権力を縛るもの〟から〝国民を縛るもの〟へと一八〇度逆転させ、立憲主義を投げ捨てています。
 憲法の原則である「国民主権(主権在民)」「基本的人権の尊重」「平和主義」をうたった憲法前文や条文を削除し、天皇を元首として国旗や国歌を義務付けています。「君が代」を歌わなければ罪になり、罰せられる可能性もあります。
 さらに、「西欧の天賦人権説に基づ」く「規定は改める必要がある」としています(自民党「日本国憲法改正草案Q&A」より)。「天賦人権説」とは、人は生まれながらに自由・平等で、幸福に生きる権利がある、という考え方ですが、自民党案はそれを否定しているのです。
 具体的には「権利には責任と義務が伴う」として、「公益及び公の秩序には反してはならない」と規定しています。世界の人々が時には命をかけて勝ち取ってきた人権をかなぐり捨てるもので、「基本的人権の尊重」の放棄です。

▼そして「戦争する国」へ

 戦争放棄・交戦権の否認を明記した九条二項は「自衛権の発動を妨げるものではない」として集団的自衛権の行使を可能にし、「国防軍」の創設をうたっています。
 すでに政府は「九条改悪の先取り」とも言える政策を先行させ、集団的自衛権行使の容認をめざし、防衛費を一一年ぶりに増額しました。こうした動きは日本を危険な状況へと追い込むでしょう。イスラム勢力がいまや日本を敵視しているように。
 かつて小泉政権は憲法に違反してイラク戦争に自衛隊を派遣しました(二〇〇三~〇九年)。しかし、九条の制約によって非戦闘地域で活動したために一人も殺さず、殺されもしなかった。九条によって守られたのです。そのことを、政府は学ばなければなりません。「国際紛争は軍事では解決できない」というのが、今日の世界の常識です。そんなときに、なぜ九条を投げ捨て「国防軍」を作る必要があるのでしょうか。

▼「人権の守り手」として

 危機的状況にあると言っても、「憲法改正」は簡単にはできません。国民投票を実施するための法的整備が完了していませんし、憲法改正に慎重な世論は依然として多く、否決されるかもしれない国民投票は政権にとってもリスクがあります。ですから、自民党などが目指す憲法改正の危険な内容を学び、多くの人に知らせ、世論を変えていくことが大切です。
 医療・福祉の仕事に就いている皆さんは、人の命を守る重要な仕事に携わっています。だからこそ、人間らしく生きる権利を否定する動きを許さず、「人権の守り手」として「健康で文化的な生活」を、医療・福祉の側からささえてほしいと思います。


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