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6月5日(水) 「日本の青空」と大原社会問題研究所 [憲法]

 6月2日のブログ「『日本の青空Ⅲ 渡されたバトン~さよなら原発』を見てきた」で映画「日本の青空」に触れました。実は、この映画と大原社会問題研究所は、ある関わりを持っています。

 その関わりのカギとなった人物は、大原社会問題研究所の初代所長である高野岩三郎です。所長としては私の大先輩ですが、その存在感の大きさは比べものになりません。
 映画では、この高野岩三郎を加藤剛さんが演じていました。一緒に、高野のお弟子さんで元大原社会問題研究所の所員だった森戸辰男や大内兵衛も登場しています。
 いずれも憲法研究会のメンバーです。高野さんはその中心人物で、憲法研究者の鈴木安蔵をスカウトし、鈴木さんは研究会としての憲法草案を起草しました。

 ここで二つのことを指摘しておきたいと思います。一つは、鈴木が起草した憲法研究会案の重要性です。
 鈴木は、自由民権期の植木枝盛の私擬憲法などの研究をしており、それらからの着想を得て、政治的権能を持たない天皇制という構想を憲法研究会の草案に盛り込みます。これが日本国憲法草案を検討していたGHQの目に止まり、今日の憲法第1条である「象徴天皇制」に結びついたとされています。
 この時、マッカーサーは占領統治の円滑な遂行のために天皇の利用を意図しており、天皇制の廃止を求める米本国政府や周辺諸国、極東委員会などをいかに説得するか、腐心していました。政治的権能を持たない天皇の存続という構想は、このようなマッカーサーの意図にピッタリはまったというわけです。

 もう一つは、この時の憲法研究会の案とは別に、高野が自らの憲法草案を構想し、それを「日本共和国憲法 私案要綱」として発表したことです。その主眼は「天皇制ニ代ヘテ大統領ヲ元首トスル共和制ノ採用」「日本国ノ主権ハ日本国民ニ属スル」というもので、天皇制の廃止による共和制の採用でした。
 同じように、日本共産党の「日本人民共和国憲法草案」も「第1条 日本国は人民共和制国家である」「第2条 日本人民共和国の主権は人民にある。主権は憲法に則つて行使される」として、天皇制廃止を掲げます。しかし、高野の「私案要綱」は1945年11月で、共産党の「憲法草案」は翌46年の6月でした。
 高野の「私案要綱」は、自ら主宰する憲法研究会の案よりもずっと民主的かつ進歩的で、しかも共産党の案より半年以上も前に発表されたものでした。高野は、この案を研究会の案として押しつけることをせず、その合意を尊重し、別個に「私案」として発表したのです。

 この高野の「日本共和国憲法 私案要綱」の原本は、今も大原社会問題研究所に大切に保管されています。写しは研究所入り口の陳列ケースの中にありますので、来ていただければ、どなたでも目にすることができます。
 これは、敗戦に当たって、天皇制を廃して共和制にすることを構想した民間人がいたということを示す貴重な資料だと言えるでしょう。憲法研究会の案と共に、現行憲法制定に際しての大きな貢献であったと思います。

 なお、6月にも、憲法関連での講演が予定されています。下記の日時と場所で講演しますので、お近くの方に足を運んでいただければ幸いです。

6月8日(土)午後1時半~ 新潟医療生協9条の会:新潟市東区プラザホール
6月9日(日)午後1時半~ 新婦人東大和支部:向原市民センター
6月16日(日)午後2時~ 成田9条の会:成田中央公民館
6月23日(日)午後1時半~ 静岡駿河区9条の会連絡会:静岡南部公民館
6月25日(火)午後2時~ 出版OB9条の会:本郷いろはビル

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