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8月27日(火) 今日の政治・経済情勢の特徴と労働組合の役割(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、5月16日に開かれた全農協労連2013年単組三役専従者会議での講演を文章化したものです。『労農のなかま』NO.543、2013年7月号、に掲載されました。4回に分けてアップします。〕

Ⅱ 労働の規制緩和がねらうもの

 (1)位置づけと背景―新自由主義的「構造改革」路線への回帰

 安倍第2次内閣の目玉の一つになっているのが、労働の規制緩和です。成長戦略との関連で出てきています。新しい経済成長の波を起こさなければならず、そのためには古くなった労働の規制を改革あるいは緩和しなければならない、もっと雇用を流動化させる必要があるというわけです。
 安倍さんは施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し」「聖域なき規制改革を進め」「企業活動を妨げる障害を、一つひとつ解消する」と述べました。小泉構造改革流の規制緩和論、新自由主義の復権と言っていいと思います。
 自助努力による「自己責任」が強調されたり、生活保護費の削減、社会福祉サービスの市場化などが打ち出されたりしているのが、その証拠でしょう。成長戦略の中核としてあらたな「労働ビッグバン」としての雇用改革が唱えられているのも、新自由主義の復権を示すものです。

 (2)規制緩和における三つの流れ

 これまでの規制緩和には三つの流れがありました。労働者派遣事業の拡大、職業紹介事業の緩和、労働時間の弾力化の三つです。
 第一の労働者派遣事業の拡大によって、非正規労働者が増大しました。現在、雇用労働者の35%が非正規労働者です。特に若者の半分近く、女性の半分以上は非正規労働者になってしまいました。
 第二の職業紹介事業の規制緩和によって、民間の人材ビジネスの参入と急成長が進みました。それまでは公的職業紹介だったものが、有料職業紹介に変わってきています。
 第三の労働時間管理の弾力化によって、長時間・過密労働が常態化しました。裁量労働制の専門5業務の新設、みなし労働時間の適用、1週間、1か月、3か月単位での変形労働時間制やフレックスタイム制の導入が進められています。

 (3)さらに進む雇用と労働の破壊―旧小泉側近・ブレーンの再登場

◆規制改革の〝火付け盗賊〟が再登場
 この点で象徴的なのは、小泉さんの時にやられた枠組みとブレーンが復活したことです。経済財政諮問会議が復活しましたが、4人の民間委員のうち労働関係者は一人もいません。学者と経営者だけです。
 さらに今回は、経済再生本部、産業競争力会議、規制改革会議が設置されました。経済再生本部は閣僚だけの機関で、そのもとに産業競争力会議が置かれ、さらに規制改革会議が設置されるという形になっています。具体的には、産業競争力会議と規制改革会議のなかで、規制緩和に向けての具体的な政策が検討されています。
 旧小泉側近ということで象徴的な人物は、竹中平蔵さんです。経済財政諮問会議の担当大臣だった人です。竹中さんのあとを継いだのが大田弘子さんです。
 かつて竹中平蔵さんは「平成の鬼平」といわれました。「火付け盗賊改め」の鬼平というわけですが、私に言わせれば〝火付け盗賊〟そのものではないかと思います(笑い)。改めるのではなく、改められる側の人ではないか……(笑い)。
 この人は、小泉さんのブレーンを辞めたあと、パソナの会長になりました。パソナというのは人材派遣業で急成長した会社です。自分で規制緩和して人材派遣・人材ビジネスを拡大しておいて、急成長した会社のトップに自分がおさまっています。学問を商売の種にして私腹を肥やす「学商」とも言うべき人で、その人がいままた産業競争力会議の有力なメンバーになっているわけです。

◆「1丁目1番地」は〝労働の廃墟〟になっている
 竹中さんは「規制改革が一丁目一番地だ」と言っています。ところが、今や「一丁目一番地」は〝労働の廃墟〟になっています。非正規労働が拡大し、特に若者は大変厳しい状況に置かれています。「就活」と言って、就職するためにすさまじい努力が必要になり、なかには自殺する人まで出ています。こういう状況がなぜ生まれたのでしょうか。
 大田弘子さんは規制改革会議の議長代理に就任していますが、この人はパナソニックの社外取締役です。パナソニックはいま電機不況であえいでいます。日本IBMやシャープなどもそうですが社員の首を切りたくてしょうがない。そのために「追い出し部屋」に労働者を隔離し、本人が嫌になって辞めていくのを待つという仕打ちをしています。日本IBMはもっとひどい。ある日突然、解雇を通告し、そのまま労働者を職場から締め出す「ロックアウト解雇」をやっています。
 電機リストラでは電機産業から13万人解雇される状況になりました。どんどんクビを切りたいが、IBMのような荒っぽいことをしないですんなり追い出したい。ということで進められているのが、雇用の柔軟化と流動化です。
 一方で、新しい雇用を生み出しているところもあります。いま成長しつつあるIT産業やスーパー、コンビニなどの流通産業です。そこで、過剰になっている労働者を追い出したい側の大田さんと、自分のところに優秀な人材を引き寄せたい側の楽天の三木谷浩史会長兼社長やローソンの新波剛史社長が産業競争力会議の委員に入っているというわけです。

◆「限定正社員」とは「名ばかり正社員」
 今回新たに「限定正社員」というものが脚光を浴びています。これは期間不明の有期雇用という新しい形態だと言えるでしょう。職務や地域を限定して正社員扱いするものですが、その職務や地域での仕事がなくなると雇い止めされます。正社員扱いではありますが、これまで以上に解雇しやすくなるでしょう。名前だけが正社員で、その扱いは非正規と変わりませんから、「名ばかり正社員」「なんちゃって正社員」です。
 これが制度化されれば、違法な「ブラック会社」が合法化されることになります。そして日本全体が「ブラック社会」になります。いまでも雇用は非常に不安定ですが、ますます流動化していつクビを切られるかわからないという状況になってしまいます。

◆労働時間規制は無きものに
 さらに長時間労働の問題があります。今でも、労働時間規制はあってなきがごとしではないですか。労使間で三六協定を結べば際限なしです。過労死がなくならないのも、この三六協定が底抜けだからです。その上、労働時間の弾力化、裁量労働制、フレックスタイム制などが進んできていますので、ますます労働時間規制は有名無実化されてきています。
 そのうえ、サービス残業などもあります。これは、労働時間規制の無視で、残業代の支払いなしです。こういう違法なことをやっている会社がいっぱいあります。それが野放しになっている。だから「ブラック会社」と言われるのです。このような違法は、取り締まるべきであるのに合法化しようとしている。ますます働いている人の健康が阻害され、労働組合の発言力もなくなって、会社の言うがまま、思うがままに働かされることになるでしょう。無法地帯が日本全国に広がってしまいます。

◆「失われた20年」で経済はさらに悪化
 このようなブラック社会、無法地帯は、労働の規制緩和によって、これまでも拡大してきました。それが、ますます広がっていくでしょう。このような低劣な労働条件の下、低い賃金で長時間働かされたために、まともな購買力が得られない。だから、ものが売れません。景気が悪くなっているのはそのためです。
 いわゆる「失われた20年」の根本的な理由はそこにあります。購買力が低下し、国内市場が狭隘化する。その結果としての長期不況です。これを解決しなければ、デフレ不況から抜け出すことはできません。
 また、今のような働き方では、世代間での技能継承も困難になります。したがって、技術力は低下し、労働力の質が悪くなっていかざるを得ません。特に、非正規労働者の場合には技能継承が難しいので、国際競争力はどんどん弱まっています。

◆家庭の形成、子育てもできない
 また、家庭の形成・維持の困難と少子化という問題も深刻になっています。結婚できないような働き方ですから、当然、こういう問題が生まれます。正規労働者と非正規労働者では、結婚する割合に大きな差が出ます。非正規労働者は、ほとんど家庭が持てません。非正規労働者にとって〝家庭は贅沢品〟だと言われているほどです。
 正規労働者でも、一人までは子どもがつくれても二人目は無理。夫婦共働きで育てられない。保育所にも入れず待機児童が増えています。役所に、何とかしろとお母さんが押しかけているじゃありませんか。このような状況は、とても先進国とは思えません。
 これらの問題を解決しなければならないのに、さらに問題を生み拡大しようとしているのが安倍内閣です。このような状態が続くと、企業にとっても困った問題が起きるでしょう。少子化は労働力再生産が阻害されるということですから。
 1997年をピークに98年から生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)は低下し続けています。この年代は社会を支えるべき人たちですが、その数が減少している。この人たちは一番消費も活発な年代です。社会の中核になって働き、次代の子どもたちを生み育てなければならない年代が減っているのですから、日本社会は縮小し、滅亡に向かっているということになります。これを逆転させなければなりません。

◆労働者が働きやすい国にすべきだ
 職場はますます荒廃し、精神に不調を来す〝メンタルヘルス不全〟の拡大も深刻です。8割を超える企業がパフォーマンスに影響していると答えています。このような問題を解決して、人々が健康で安心して働ける、間らしい労働を実現しなければなりません。健康を阻害せず、家庭を持って普通の生活ができ、子供を産んで次世代を育てられるという当たり前の状況を、どう作っていくのかが問われています。
 しかし、いまの安倍内閣の発想はまったく逆転しています。産業をどう活性化するか、再び経済成長できるようにするにはどうするかという発想ですから。つまり、企業にとってどうすればいいのかを考えているのです。これではまったく逆です。安倍さんは「世界で一番企業が活躍できる国にする」と言いましたが、大間違いです。本来なら「世界で一番労働者が働きやすい国にする」と言うべきだったのです。
(続く)

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