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8月28日(水) 今日の政治・経済情勢の特徴と労働組合の役割(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、5月16日に開かれた全農協労連2013年単組三役専従者会議での講演を文章化したものです。『労農のなかま』NO.543、2013年7月号、に掲載されました。4回に分けてアップします。〕

Ⅲ 労働組合の役割と課題

 (1)政治的・社会的課題に取り組む

 ①国民各層と共通する政治的な課題での共同の取り組み
 労働組合は国民各層と共通する政治的・社会的課題に取り組む必要があります。この点では、改憲阻止、脱原発、消費増税反対、反TPP、オスプレイ訓練反対など、政策・制度をめぐる国民各層との共同の取り組みが進んでいます。
 しかし、中央段階でのこのような共同の取り組みだけでなく、いま組合員一人ひとりがどう取り組むかということが重要になっています。脱原発の官邸前行動が毎週金曜日に行われていますが、あれは誰かが動員しているわけではありません。みんな自分の考えで参加しているのです。労働組合などの団体から呼びかけられたというよりも、一人の市民として国民として、自主的自覚的に、主体的自発的に行動に起ち上がっているのです。このような自発的な姿勢が、これからは大切なように思います。

 ②労働と生活・社会を結びつけた運動の展開
 労働と生活・社会を結びつけた運動の展開も重要になっています。最近では、地域社会を基盤に、労働組合と関連する色々な団体が手を組んで連携しあいながら、社会的なレベルでの運動に取り組むようになっています。これを社会運動的労働運動(社会運動ユニオニズム)といいます。
 組合員の数が減ってきていますから、労働組合だけでは社会的な影響力には限界があります。しかし、最近の特徴は、さまざまな社会問題に取り組む団体が出てきているということです。たとえば、反貧困運動に取り組むNPO団体、震災からの復興を目指すNPO団体など、自主的に活動する非営利的な社会運動団体や社会的企業が増えてきています。
 若者も、全体的には政治問題にあまり関心がなく積極的でないといわれていますが、なかには非常に熱心に取り組む人たちも生まれてきています。労働組合が手をさしのべて、そういう団体や個人と一緒に共同できる課題に取り組むことが必要なのではないでしょうか。

 ③労働運動活性化に向けての独自の取り組み
 ここで重要なのが、労働運動の活性化に向けての独自の取り組みです。まず、非正規労働者や青年・女性への働きかけを強めることが大事でしょう。その時に、新しいアプローチを試みてもらいたいと思います。いままでやってきたことを、単にまた繰り返すということではいけません。
 マンネリを排して、いままでにやったことがないような斬新で注目を集めるような運動に取り組み、労働組合に対する固定的なイメージを打破してほしいと思います。〝オッ、労働組合がこんなこともやるのか〟といわれるような運動によって、その存在をアピールしていく必要があります。新たな情報通信手段(ブログ、ツイッター、フェイスブック、ウェブ・マガジン・ユーチューブなど)の活用なども、大いに役立つのではないでしょうか。

 (2)改憲策動を阻止し世論を変える―三つの場で同時並行的に推進

◆参院選で、国会論戦で、改憲阻止の大運動で
 改憲策動を阻止する運動では、今度の参院選を挟んで、その後の国会情勢が重要になります。勢力関係がどうなるかにもよりますが、秋の臨時国会に安倍さんは国民投票の資格年齢を18歳以上とする「国民投票法」の改正案を提起するようです。これを許さないための運動が大切です。
 そのために、①参議院選挙では、自民党や日本維新の会などの改憲勢力による3分の2の突破を阻止すること、②国会論戦では、憲法改定をめざす議論や国民投票実施のための制度整備の意図を打ち砕くこと、③改憲阻止の大運動では、自民党の改憲草案の危険性を明らかにして世論を変えていくことが必要です。
 最後の世論状況については、有利な状況が生まれてきています。この間の運動の成果だと言って良いでしょう。96条改憲を先行させようとしていた安倍さんも、いまでは腰砕けになっています。さらに運動をすすめて世論を変え、改憲を提案したら否決されるかも知れないと思わせることが、国会による改憲発議を抑える重要なポイントだと思います。

◆保守の人々にも働きかけて改憲阻止
 そのためには、結集できる限りの広範な勢力を糾合することが必要です。特に「保守」と言われている人々でも、戦争経験がある人などは憲法は守るべきだと考えている人が沢山います。これらの人々と共同した運動が大切です。
 実は、今の天皇も護憲論者であると思います。かつて園遊会で、将棋の米長名人が「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事でございます」と言ったとき、天皇は「やはり、強制になるということではないことが望ましい」と答えました。自民党の改憲草案第3条2は「日本国民は、国旗及び国歌を尊重しなければならない」と憲法上の義務にしていますが、これは天皇の意に反しているということです。
 自民党が本気でこの改憲草案を実現しようとしたら、アメリカからも宮内庁からもストップがかかるかも知れません。それほどこの改憲草案はとんでもないものだということを周りの人に伝え、いまの憲法にはこんなにいいことが書いてあるんだよと訴えていただきたいと思います。

 (3)労働運動としての固有の課題に取り組む

◆権利の維持と向上、賃上げや労働条件の改善
 言うまでもなく労働組合は、働く人々にとって固有の課題に取り組まなければなりません。働く人々の権利の維持と向上、賃上げや労働条件の改善、生活の擁護と日本経済の建て直しによってデフレから脱却することなどが重要な課題になっています。
 それにいま、賃上げについては〝追い風〟が吹いています。アベノミクスでは、成長戦略の3本の矢の中心は賃上げだというので、安倍首相は経営者を集めて賃金を上げてくれといっているのですから。賃上げこそが、いまや時代の課題になっているのです。賃上げは、労働組合の固有の利益であるだけでなく、日本経済を立て直すための国民的課題になっています。
 ところが、すでに春闘は終わってしまいました。春闘での賃上げはほとんどありません。これは、経営者がアベノミクスを信用せず、その実現のために協力していないということを意味します。安倍さんの要請に応えて、アベノミクスを後押しして経済をよくしようとは考えなかったということです。
 春闘はもう終わっていますから、これからは夏と年末の一時金です。輸出関連の企業は利益をあげていますから、ここを突破口にいい回答を引き出さなければなりません。それに、最低賃金の引き上げが必要です。時給1000円に向けて、画期的な引き上げ答申を出させることです。

 (4)農協で働く労働者としての独自の課題に取り組む

 ①地方・地域と農村の再生・再建に取り組む
 地方・地域・農村地帯は、いまや荒廃に向かっています。農家が大変になれば農協も大変になります。農協が大変になれば、そこに働いているみなさんも大変になるわけです。逆に言うと、みなさんの賃金や労働条件を引き上げるためには、農家の所得が増えて農村が元気になるようにしなければなりません。地域の中小企業や地域経済を立て直す必要があります。地域づくりや地域興しは、その地域に住む人々全体の課題であると同時に、みなさん自身の固有の課題でもあるのです。
 この点から言っても、先ほど述べたように、地域で活動するいろいろな団体との連携が必要になります。これらの個人や団体と提携し、手を携えながら、地域全体の力を底上げしていく事業に取り組まなければなりません。それは地域の商工会や金融機関などで働く人々も同じです。地域経済がよくならなければ金融機関にお金を預けてもらえないわけですから、賃上げと言っても難しいのです。
 全体としての地方の経済的環境をどう改善し底上げするのかということを真剣に考えなければなりません。いまは皆がそう感じているのですから、そのような目標に向けて地域の合意が得られる有利な条件があります。その意味では、いまがチャンスなのです。
 例えば、岩手県葛巻町は自然エネルギーの町宣言をしました。もともとここは山と牛しかないようなところでした。しかし、山があれば風が吹き、風車を作れば発電できます。牛の糞尿からはメタンガスで発電できます。こうして、地域のなかで循環的な経済構造を作り出しました。いまでは町全体の電力を自給し、売電しています。
 このように、地域の特性を生かしてアイディアを出し、地産地消を基本に循環的な地域経済を確立する。あるいは1次産業、2次産業、3次産業が連携して第6次産業化をはかる。付加価値をつけて特産品を販売することで活性化をめざす。このような取り組みが重要でしょう。
 その核となるのは農協です。そこに働くみなさんこそ、そのような役割を大いに果たしてもらいたいと思います。また、行政にも働きかけ、中小企業振興基本条例や地域経済振興条例、公契約条例などの制定を進めることも必要です。

 ②TPPへの参加を阻止する
 このように、地域経済を再生・再興し、活性化させていくためにも、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は阻止しなければなりません。TPPは、それらの努力を台なしにしてしまうものです。中小企業振興基本条例や地域経済振興条例、公契約条例などは、TPPに参加したらアウトです。ISD条項は公平な競争を阻害する条件を撤廃するというものですから、地域を対象にした特別の条例や支援策は不公平ではないかということで、裁判に訴えられる可能性が高いからです。
 また、第6次産業化にしても、1次産業の農業がしっかりと確立されていなければ、2次産業で加工することも、その商品を売ることもできません。それを避けるためには、TPPへの参加表明を撤回し、交渉からの離脱を求めていく必要があります。
 このままでは、7月末に交渉に加わることになりますが、それは秘密交渉です。交渉が決着しても、その内容は4年間秘匿されることになっています。同時に、条約ですから、最終的には国会で批准されなければなりません。批准させない勢力関係を作るということでは参院選が重要です。
 日本の米作りは、すでに半分崩壊しつつあります。米の販売量より小麦の販売量のほうが多くなっているのですから。そのうえ、TPP参加ということになれば、中山間地域の兼業農家はほとんど成り立たないでしょう。そういう点から言っても、TPP参加阻止は極めて重要です。

むすび

 第2次安倍内閣の矛盾と弱点が、当初はあまりはっきりしていませんでした。しかし、それらは次第に明確になってきています。
 特に、外交問題での矛盾と弱点が際立っています。アメリカがこれほど日本に対して冷淡で、政府や政治家を批判することはいままでなかったことです。それは、明らかに民主党政権時代よりもひどくなっています。日本は完全に孤立してしまいました。北朝鮮に対して団結して対応しなければならないのに、日本の閣僚は中国を訪問することもできないのですから。韓国の外相は中国に行って相談しているのに。アメリカの国務長官は、韓国と中国に行ってから日本にやって来ました。この順番なのです。日本はまったく孤立して、お手上げ状態です。
 このような悪政の推進を阻止し、改憲を提起できないような運動と力関係を生み出していかなければなりません。そのための当面の焦点は、都議選と参院選です。参議院選挙は全国でたたかわれるわけですし、憲法の問題、TPP参加の問題、原発問題など、政府が推進している様々な政策にノーを言う絶好の機会です。
 皆さんが、この選挙でも、また固有の領域である労働運動の場、賃金の引き上げや労働条件の改善という点でも大きな成果を収められることを願っています。そのことを通じて、人間らしい労働(ディーセント・ワーク)を実現されることを期待いたしまして、私の話を終わらせていただきます。どうもありがとうございました(拍手)。 

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