SSブログ

8月30日(金) 米軍によるシリア空爆はイラク戦争の過ちを繰り返し紛争を泥沼化する愚行だ [国際]

 シリアでの国内紛争が泥沼化しています。政府軍と反政府勢力間の武装闘争が激化する中で、化学兵器が使用されたのではないかとの疑惑が生じ、国連の調査団が派遣されました。
 もし、毒ガスのサリンなどの化学兵器が使用されたのであれば、断じて許されることではありません。厳しく糾弾されるべきであり、このような化学兵器の使用を再び繰り返さないことを強く求めたいと思います。

 このような化学兵器使用について、オバマ米大統領は「アサド政権が実行したと結論付けた」と明言しました。国連安全保障理事会の常任理事国5カ国もシリアへの対応を協議しましたが、ロシアと中国の反対で物別れに終わっています。
 アメリカ国務省の高官は安保理での決議採択を待つのは「適切ではない」と述べました。アメリカがイギリスなどとの有志連合でシリアを攻撃する可能性が高まっています。
 もし、シリアへの軍事介入があっても「無期限の闘争は考えていない」とし、化学兵器施設などを短期間で集中的に攻撃する方針だとのことです。アメリカはすでに展開している地中海の米艦隊からシリアの軍事施設に巡航式ミサイルを発射するとみられています。

 ここでの問題は、まず第1に、本当に化学兵器が使用されたのか、第2に、実際に使われたとして、政府軍と反政府勢力のどちら側が使用したのかということです。そして、第3に、それに対して、ミサイル発射などの軍事的な攻撃を行うことが正しいのか、ということです。
 また、軍事攻撃を行う場合であっても、国連の決議に基づくものであるのか、多国籍軍型の有志連合でなされるのか、後者の場合であっても、アメリカやイギリス国内での議会の承認を得てなされるのか、それとも大統領や首相だけの判断で実行されるのかなどの問題があります。
 もし、オバマ大統領が一方的にアサド政権による化学兵器使用を断定し、独断でミサイル攻撃に踏み切った場合、イラク戦争と同様の過ちを犯すことになる可能性があります。それを防ぐためには、少なくとも、政府軍側が使用したという明確な証拠を示して国際社会を説得し、国連や議会の承認などの正規の手続きを踏むことが必要でしょう。

 最近では、政府軍と反政府勢力との軍事的力関係は、政府軍側の優位に傾いていたという報道があります。もし、そうなら、優位に立っていた政府軍側が化学兵器を用いて国際的な批判を招くようなことをするでしょうか。
 反政府勢力が劣勢だったのは、空軍力を持たないからだとされています。この不利を解消する目的で、空軍基地を攻撃させて戦闘機などを破壊させるために化学兵器使用の罪を政府軍側になすりつけるというようなことはあり得ないのでしょうか。
 もし、シリアがアメリカによってミサイル攻撃されれば、シリアはイスラエルにミサイルを撃ち込んで報復するかもしれません。そうなれば紛争は一挙に拡大しますし、そのようなことが起きなくても、空軍力を失って政府軍の力が弱まれば、内戦はますます泥沼化することになるでしょう。

 アサド政権側が化学兵器を使用したという確たる証拠が示されない時点での攻撃開始は、断じて許されません。また、その場合であっても、ミサイルによる攻撃という軍事的手段を取るべきではないでしょう。
 どのような正確なミサイル攻撃であっても人的被害を避けることは不可能であり、その被害の中にはシリアの一般市民も含まれるに違いないからです。人間を殺傷せず、基地や軍事施設だけを破壊するミサイルなど、もし有ったら見せてもらいたいものです。
 毒ガスなどの化学兵器でシリアの人々が殺されるのを阻むために、巡航式ミサイルを撃ち込んでシリアの人々を殺傷するという。そんな理屈が通るのでしょうか。

 このような動きのなかで、中東を訪問していた安倍首相はカタールのドーハで記者会見し、シリア情勢に関し「日本政府としてはシリアで化学兵器が使用された可能性が極めて高いと考えている。化学兵器使用はいかなる場合でも許されるものではない」と述べました。また、カタールのタミム首長との会談でも「情勢悪化の責任は、暴力に訴え無辜(むこ)の人命を奪い、人道状況の悪化を顧みないアサド政権にある。アサド政権は道を譲るべきだ」と訴えたそうです。
 安倍首相は、このような判断をする情報を、いつ、どのようにして得たのでしょうか。「シリアで化学兵器が使用された可能性が極めて高い」として、アサド政権を非難していますが、もし政権側ではなく反政府勢力が使用したのであれば、このようなことが言えるのでしょうか。
 また、「化学兵器使用はいかなる場合でも許されるものではない」と述べていますが(そしてそれは正しいと考えますが)、それなら今年4月にスイス・ジュネーブであったNPT再検討会議の第2回準備委員会に出された「核の非人道性」を訴える共同声明について、「いかなる場合でも核兵器を使用しないことが人類の生存に資する」とする一文のうち、「いかなる場合でも」のくだりを削除するよう求めたことを何と説明するのでしょうか。「化学兵器使用はいかなる場合でも許されない」が、「核兵器使用はいかなる場合でも許されないわけではない」ということなのでしょうか。

 日本政府は、今のところ、このシリア攻撃の可能性についてコメントを控えています。しかし、安倍首相の発言にも明らかなように、アメリカがミサイル攻撃に踏み切った場合、直ちにそれを支持することになるでしょう。
 こうして、日本政府もイラク戦争の場合と同様の過ちを犯すことになります。確たる証拠も根拠もなしにシリアの人々を殺傷する共犯者になるようなことを避けるのが、憲法の平和主義の精神であるにもかかわらず……。

nice!(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

トラックバック 1