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12月26日(木) 特定秘密保護法の強行成立と石破自民党幹事長の発言 [論攷]

〔以下の論攷は、八王子革新懇『革新懇話会』第60号、2013年12月25日付、に掲載されたものです。〕

 与党の横暴、ここに極まれり、と言うべきでしょう。臨時国会の最大の焦点であった特定秘密保護法案が強行採決され、成立しました。法案に対する賛成は130票で、反対は82票です。民主・共産・社民・生活の各党が反対し、与党と政府案を修正した日本維新の会とみんなの党は退席して棄権しました。
 与党は12月6日夜の衆院本会議で会期の2日間延長を議決し、民主党提出の内閣不信任決議案を反対多数で否決しました。また、参院本会議では同法担当の森雅子少子化相と国家安全保障特別委員会の中川雅治委員長の問責決議案を否決したうえで審議を打ち切り、採決を強行しました。まさに、力ずくでの強行に次ぐ強行です。野党の抵抗を押し切り、国民の不安を無視し、反対運動のデモを「テロ」呼ばわりしての暴挙だと言うべきでしょう。
 国会審議を十分に尽くさないままでの採決の強行は認められません。この秘密保護法案の強行採決は多数による議会制民主主義の破壊であり、強く抗議するものです。

 特定秘密は防衛、外交、スパイ活動、テロの4分野のうち、特に秘匿が必要な情報について閣僚ら「行政機関の長」が指定し、特定秘密を漏らした場合は最高10年の懲役を科すという内容です。しかし、この指定はいくらでも拡張できる抜け穴があり、「特定秘密」というよりも「不特定秘密」にほかならず、「何が秘密かは秘密」になっています。
 現行の国家公務員法の一般的な守秘義務違反の罰則は1年以下の懲役で、自衛隊法の「防衛秘密」の罰則も5年以下の懲役ですから、これまでより格段に厳しくなります。しかし、過去15年間、秘密漏洩のカドで逮捕されたのは5人にすぎず、有罪になったのはたったの1人、それも懲役10ヵ月ですから、このような厳罰化が必要であるとは思われません。
 アメリカから提供される軍事機密を秘匿する必要があるというのであれば、防衛と外交だけに限れば良いではありませんか。それに、どのような情報を提供するかはアメリカの意思によるもので、このような法律を作ったからといって機密情報が提供されるとは限りません。
 自公維み4党は衆院段階で政府案を修正し、秘密指定に関して首相に「指揮監督権」を付与し「第三者的な機能」を持たせたとしていますが、何が「第三者」ですか。仲間の当事者ではありませんか。参院審議でも、行政機関による恣意的な指定が横行しないか点検する機能を監視機関が持てるかが焦点となり、政府は答弁で内閣官房に「保全監視委員会」、内閣府に「情報保全監察室」を、それぞれ設置する方針を示しました。しかし、いずれも行政内部の組織で「第三者機関」とは言えません。これで国民の「知る権利」を守ることができるのでしょうか。秘密指定の拡大や恣意的な情報隠蔽、マスコミの取材や市民の活動の阻害、「取材・報道の自由」や国民の「知る権利」を制限することはないのでしょうか。

 安倍首相は最後まで早期の成立にこだわったようです。この法案には問題点や危惧が多く、国会での審議がこれ以上長引けば世論の反発がさらに広がりかねないとの心配があったからでしょう。その心配は当たっていたと思います。今回の反対運動は、マスコミ、法律家、学者、文学者、映画・演劇関係者、一般市民など、極めて幅広い層に拡大しただけでなく、運動の盛り上がりに至る期間の短さにおいても、特筆すべきものでした。
 また、国際ペンや国連関係者、アメリカの報道関係者からも懸念が示されるなど、国際的な広がりも見せました。情報公開と国家機密のバランスをとるための指針として注目されている「ツワネ原則」など国際的な標準にてらしてみても、この法案は問題だらけだったからでしょう。
 このような反対を押し切って秘密保護法が成立したわけですが、これで運動を諦めてしまったら安倍首相の思うつぼです。成立したからといってガッカリする必要はありません。法律が施行されるのは1年以内です。それまでに、安倍内閣を打倒して首相を変え、秘密保護法を廃止すればよいのです。来年は、前の総選挙から「足かけ3年」になり、解散・総選挙実施の「適齢期」に入ります。安倍内閣打倒、解散・総選挙による政権交代を実現し、特定秘密保護法の廃止を勝ち取りたいものです。
 少なくとも、「秘密」の拡張適用をしない、秘密指定の適性について厳格に審査する、報道の自由や知る権利を阻害しないなど国会審議のなかでの約束を守らせ、情報隠蔽、国民取りしまりの手段として使えないように、法律の発動や適用について厳しいチェックを行うことが必要でしょう。また、報道関係者、市民団体、社会運動団体など「特定秘密」に関わる可能性のある市民の側も、自粛したり、自己規制したりするようなことはせず、どんどん監視し、調査し、報道することが大切です。
 反対運動の盛り上がりは安倍首相の焦りを生み、石破自民党幹事長も「デモはテロと同じ」などと口を滑らせ、首相の強権体質と幹事長の本音を明らかにしました。これまで「アベノミクス」という衣の下に隠してきた鎧姿を赤裸々にしてしまったのは、安倍さんにとって大きな誤算だったのではないでしょうか。

 ところで、その後も石破自民党幹事長は報道機関に自制を求めるような発言を繰り返しています。これについて『朝日新聞』からの取材があり、それへの私のコメントが12月14日の朝刊に出ました。
 その前にも石破さんは、ブログでデモとテロを同一視するかのような書き込みをして批判され、「単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらない」とした部分に線を引いて削除し、「本来あるべき民主主義の手法とは異なるように思います」と修正したうえで、その意図について「市民の平穏を妨げるような大音量で自己の主張を述べるような手法は、本来あるべき民主主義とは相容れないものであるように思います」と書いています。
 「絶叫デモ」「大音量で事故の主張を述べるような主張」は、「テロ」と「あまり変わらない」もので、「民主主義とは相容れない」という主張の本筋は変わっていません。相変わらず、デモを敵視しているということになります。このような石破さんの本音は、特定秘密保護法によって指定される「特定秘密」を報道機関が報じることを控えるよう繰り返し求めたその後の発言にも共通しています。
 石破さんは12月11日の日本記者クラブでの会見で、特定秘密に関する情報を取材で入手した報道機関が報道することについて「抑制が効いてしかるべきだ」と発言し、暗に自制を求めました。その後、マズイと思ったのか、記者団に「報道機関に抑制を求めてはいない」などと釈明しました。
 しかし、12日のラジオ番組でも「(報道によって)大勢の人が死んだとなれば『それはどうだろう』となる」と指摘し、テロなどを起こす可能性がある場合には報道するべきではないとの考えを示しました。どのような情報であれ、報道するかどうかは報道機関が自主的主体的に選択するべきものであり、このような発言は報道の自由や国民の知る権利よりも国家の機密を重視する姿勢を鮮明にするものです。
 しかも、一連の石破さんの発言は、報道陣に問われて答えたものではなく、自分から進んでブログに書き込んだり、記者クラブでの会見やラジオ番組で発言したりしたものです。誤ってポロリと飛び出した「失言」ではなく、自らの信念に基づいて考えを明らかにした「確言」にほかなりません。
 これについて、12月14日付の『朝日新聞』は38面で「石破氏、国家観かたくな」という記事を掲載しました。この記事の最後に出てくるのが私のコメントですが、それは次のようなものです。

 五十嵐仁・法政大教授(政治学)は、石破氏のブログでの記述は、「デモを敵視し、制限すべきものだという本音が出たのだろう」と話す。
 石破氏の一連の発言は、「特定秘密保護法の本当の狙いを口走ったのではないか、国民の反対の声もわかっていながらの発言で、政治家としても問題がある。盤石な議席を持つ与党のおごりがあらわれている」。

 秘密保護法について、安倍首相が記者会見で「秘密が際限なく広がり、知る権利が奪われる、通常の生活が脅かされるようなことは断じてない」と「火消し」に躍起となっているとき、与党自民党の幹事長である石破さんが、大音量のデモは「本来あるべき民主主義の手法とは異なる」と書いたり、「(報道によって)大勢の人が死んだとなれば『それはどうだろう』となる」と報道機関に自制を求める。まるで、「火を付け」て回っているようなものではありませんか。
 安倍さんの発言は「建前」で、石破さんの発言こそ「本音」なのではないでしょうか。「戦争オタク」安倍首相と「軍事オタク」石破幹事長の役割分担なのかもしれません。
 このような「本音」を隠そうともせず、堂々と明らかにして恥じることがないというところに石破さんの政治家としての本質が現れているのであり、「自民党一強体制」にあぐらをかく与党の幹事長としてのおごりが示されているのではないでしょうか。

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