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4月15日(火) 砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権行使の容認は合理化できない [集団的自衛権]

 最高裁の砂川判決に集団的自衛権の行使容認を合理化する論拠が含まれているかのように言い始めたのは自民党の高村副総裁で、その舞台は9年ぶりに開かれた総務懇談会でした。これが一定の説得力を持って受け取られたのは、それを唱えたのが自民党内で左派傍流の位置にある高村さんだったからです。
 しかし、こんな愚かな役回りを演じるなんて、派閥の大先輩である三木武夫さんなどは草葉の陰で泣いているにちがいありません。安倍さんに迎合して珍説を唱え、晩節を汚すことになってしまった高村さんも気の毒です。

 それはともかく、ここで言う砂川事件というのは、57年に砂川町(現立川市)の米軍立川基地拡張に反対するデモ隊の一部が基地内に立ち入って7人が安保条約に基づく刑事特別法違反の罪で起訴された事件です。東京地裁は59年3月に米軍駐留は憲法9条2項が禁ずる戦力の保持に当たり、違憲だとして無罪を言い渡しました。これが有名な伊達判決です。
 検察側の上告を受けて、最高裁は12月に判決を出しますが、これが今、問題になっている砂川判決に当たります。日本に自衛権があることを認め、安保条約のような高度に政治的な問題は司法判断になじまないとして「統治行為論」によって憲法判断を回避し、有罪が確定しました。
 これまで、この判決は個別的自衛権を認めたもので集団的自衛権は問題になっていないとするのが一般的な学説で、高村さんのような主張をする人は一人もいませんでした。このような経緯を無視するかのように高村さんや安倍さんは、突然、「判決には集団的自衛権も入っている」と主張し始めたわけです。

 昨日のブログで紹介したNHKスペシャル「いま集団的自衛権を考える」という番組で豊下楢彦元関西学院大学教授は、この判決が59年12月に出されており、その3か月後の60年3月に岸首相は国会で「集団的自衛権は持たない」と答弁しているという重要な指摘をしました。岸首相は最高裁の判決に違反する答弁をしたことになるのかと問うたわけです。
 豊下さんが指摘したのは「集団的自衛権は、日本の憲法上は、日本は持っていない」「いわゆるよそへ行ってその国を防衛する、いかにその国が締約国であろうとも、密接な関係があろうとも、そういうことは日本の国の憲法ではできない、こういうふうに考えます」という60年3月の第34国会の予算委員会での岸首相の答弁ではないかと思われます。
 これは重要な指摘でしたが、だれも答えませんでした。集団的自衛権を行使できないという立場は岸首相だけでなくその後の歴代自民党首相のすべてが表明してきたわけですから、もし高村さんや安倍首相の言う通りだとすれば、これらのトップリーダーたちは最高裁判決に反する立場で答弁を繰り返してきたことになり、その責任を問われることになります。

 しかも、この最高裁判決については、その後、驚くべき事実が判明しました。裁判長としてこの事件を担当した田中耕太郎最高裁長官が、判決直前にマッカーサー駐日米大使らと非公式に会談していたことが、機密指定を解かれ2011年に見つかった公文書で明らかになったからです。
 1959年11月5付の国務長官宛ての公電で、マッカーサー大使は田中長官との会談の内容を報告して「(一審を担当した東京地裁の)伊達(秋雄)裁判長が憲法上の争点に判断を下したのは、全くの誤りだったと述べた」とその言葉を紹介しています。そのうえで、「裁判長は、一審判決が覆ると思っている印象」と本国に伝えていました。
 この公文書の開示請求にかかわった布川玲子元山梨学院大学教授は、これが評議内容を部外者に漏らすことを禁じた裁判所法に違反するとして砂川判決は「無効」だと指摘しています。有罪判決を受けた元被告らは再審請求する準備を進めており、その結果次第では最高裁判決の存在が危うくなると『東京新聞』は報じていますが、そうなれば高村さんや安倍さんの論拠は雲散霧消してしまうことでしょう。

 いずれにせよ、NHKスペシャルを見ていて、なんとなく居心地の悪さを感じました。「政府が『右』と言っているものを、われわれが『左』と言うわけにはいかない」と発言した籾井NHK会長の言葉を思い出してしまうからです。
 番組は賛否両論を公平に扱おうと努めているように見えましたが、その実、「右」と言っている政府と声を合わせて「右」と言おうとしているのではないかとの疑念を拭い去ることはできませんでした。この番組にしても、政府に楯突いて「左」と言うわけにはいかないというNHK会長の大方針の枠内でのものではないのかという疑念を……。

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