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5月30日(金) 労働者を食い物にする経営者・政治家・御用学者(その2) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、『月刊日本』6月号に掲載されたものです。3回に分けてアップします。〕

● 「生涯ハケン」に道を開く労働者派遣法の抜本改正

── 労働者派遣法の改正案が国会に提出されました。どのように改正しようとしているのですか。
五十嵐 これまで派遣労働には、常用雇用の代替にしてはならない、また臨時的・一時的な業務に限定するという大原則がありました。今回の改正案はこの原則を変える大転換であり、一生派遣労働に従事する「生涯ハケン」に道を開くことになってしまいます。
 現在、企業が同じ業務で派遣を利用できる期間は3年間に制限されています。ところが改正案では、企業は派遣してもらう人を入れ替えれば、3年経っても同じ業務に派遣労働者を使い続けられるようになります。
 また、派遣労働者は3年経過すれば派遣先企業が直接雇用することになっていましたが、企業はその人の業務内容を変れば、3年経ってもそのまま派遣労働者として使い続けることができるようになります。
 恒常的に仕事があり、その労働者を使うのであれば、派遣ではなく正社員とするのが当然でしょう。にもかかわらず、労働者を入れ替えてその仕事を続ける。労働者の方は別の業務で派遣労働者として働き続けることになる。労働者にとっては、不安定な細切れ雇用で技能の蓄積が断ち切られることになります。
 法案では、「過半数労働組合から意見を聴取した場合には、さらに3年間派遣労働者を受け入れることができる」とされていますが、労働組合の意見が歯止めになるとは思えません。現在の状況を見れば、労働組合は経営側の意向に抵抗できないからです。

── 厚生労働省は、なぜこうした法案を受け入れたのでしょうか。
五十嵐 昨年の参院選で与党が勝利し、衆参両院の「ねじれ」を解消した安倍政権は、内閣支持率の高さに支えられて安倍カラーを強め始めました。昨年8月20日に労働政策審議会の職業安定分科会労働力需給制度部会が「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」を出したのが、その表れの一つです。
 その後の議論の過程で、規制緩和推進派は厚労省に強い圧力をかけていたように見えます。例えば、昨年12月に開かれた規制改革会議雇用ワーキング・グループ会議で、大田弘子氏は厚労省の富田望課長に対して再考を促すよう注文をつけ、稲田朋美内閣府特命担当相も「今回、規制改革の意見が反映された部分はどういうところなのか」と圧力をかけています。

── 現在の安倍政権は、小泉政権時代の再来のように見えます。
五十嵐 1986年に労働者派遣法が施行されて以来、徐々に規制緩和が進みました。当初は、派遣できる職種は制限されていましたが、1999年の法改正であらゆる職種の派遣が原則自由化され、派遣できない職種をネガティブリストで定めるようになりました。そして、小泉政権時代の2004年には製造業の派遣も解禁され、派遣労働者の数が急増することになります。

● 残業代ゼロ社員の拡大

── 産業競争力会議は、労働時間の管理を労働者に委ね、企業は原則として時間管理を行わない「裁量労働制」の対象労働者を増やすよう提案しています。
五十嵐 労働基準法では1日の労働時間を原則8時間として残業や休日・深夜の労働には企業が割増賃金を払うことを義務づけていますが、上級管理職や研究者などの一部専門職に限り労働時間にかかわらず賃金を一定にし、残業代を払わないことが認められています。
 こうした「残業代ゼロ」社員の対象を広げるように求めているわけです。年収が1000万円を超える高収入の社員や、高収入でなくても労働組合との合意で認められた社員に対象を広げようとしています。残業代を払わなくても済むようにしたいというわけです。
── 安倍政権は、安定雇用ではなく、雇用の流動化を促そうとしています。
五十嵐 これも、竹中氏が旗振り役を演じています。昨年3月に開かれた第4回産業競争力会議で、竹中氏は解雇の金銭解決制度について、早急に議論を煮詰めていくことが必要だと主張した上で、「今は、雇用調整助成金と労働移動への助成金の予算額が1000:5くらいだが、これを一気に逆転するようなイメージでやっていただけると信じている」と語っています。
 こうした発言を受け、安倍政権は今年度から雇用調整助成金を1175億円から545億円に減らし、労働移動支援助成金を、なんと2億円から一気に300億円に増やしたのです。そのお金は竹中さんが会長をやっているパソナなどに流れ込むというわけです。
 産業構造が大きく変わりつつあるのは事実です。労働者が必要な技能を習得して、成長産業に移ることができるように助成制度が機能すればいいのですが、そうなるとは限りません。本人が希望していないのに企業を追いだすために利用される恐れもあります。
 企業によっては、社員の追い出し部屋を人材ビジネス会社に丸投げし、業務は自分の再就職先を探すことだとしてリストラを進めています。そこに助成金が使われるようでは、労働者のプラスにはなりません。

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