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8月12日(火) 第2次安倍政権と国民意識の動向(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、月刊『全労連』No.210、2014年8月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップします。〕

(3)「無敵の人」の登場が意味するもの
 日本の若者の不満や異議申し立ての背後にあるのは、報われない現状への怒りと将来への絶望である。このことを端的に示すのが「無敵の人」の登場だといえる。「無敵の人」とは、何も持たず人間関係や社会的地位などでも失うものがなく、犯罪に走ることに抵抗感のない人々のことである。古くは秋葉原無差別殺傷事件、最近ではAKB48の握手会傷害事件で注目された。
 秋葉原無差別殺傷事件は2008年6月に秋葉原で発生した通り魔事件で、7人が死亡し10人が負傷した。当時25歳の元自動車工場の派遣社員が犯人だった。もう一つのAKB48の握手会傷害事件は14年5月に岩手産業文化センター(アピオ)で発生した傷害事件で、24歳の男が鋸を取り出して切り付け、メンバー2人とスタッフ1人が負傷した。
 どちらも相手を特定しない殺傷事件で、「死刑になりたかった。誰でもよかった」と動機を語っている点で共通している。「死刑になりたい」という動機での犯行は、このほかにも08年3月のJR荒川沖駅無差別殺人や12年6月の大阪・ミナミ通り魔殺人事件などがある。
 これらの犯人は不満があっても、それをどこに向けたらよいのかが分からない。問題を抱えていても、それをどう解決できるのかも分からない。孤独で将来への展望が見えず、自暴自棄となってこの世からの退出を望んで犯行に及んでいる。
 このような若者は今後も増えていく可能性がある。それは日本社会の質的な崩壊をもたらす深刻な要因の一つとなるだろう。社会からの退出を望むまでに強まるかもしれない若者の怒りと絶望を、どのようにすくい取って解決へと導くことができるのか。このことが、いま私たちに試されているのではないだろうか。

むすび
 安倍内閣に対する支持率は高く安定しているように見える。しかし、それでも低下傾向は免れず、積極的な支持は減ってきている。高支持率の大きな要因は、先行する内閣があまりにもひどく国民の期待を裏切ったため、安倍内閣の方が相対的にましに見えたということではないか。「ほかに適当な人がいない」から、とりあえず安倍首相を支持しているというにすぎないのである。
 安倍内閣支持のもろさと弱点は政策面での支持の裏付けを欠いているという点にもある。安倍内閣が力を入れている集団的自衛権の行使容認、10%への消費税率引き上げ、原発再稼働など個々の主要政策を国民は支持していない。内閣支持率の高さを過信して強権的な政治運営を続ければ、いずれ大きなしっぺ返しを食うことになろう。
 とりわけ、安倍首相が執念を燃やしている集団的自衛権の行使容認についての世論の反対は強く、しかも、時間とともに増加してきた。憲法の解釈を変えて集団的自衛権を使えるようにする解釈改憲に約7割の人が「適切ではない」とし、これについての議論も約8割もの人が「十分ではない」と答えていたことは注目に値する(朝日新聞6月調査)。このような世論を無視する政治運営は断じて許されない。
 都知事選での田母神候補の得票割合の多さから右傾化しているのではないかと憂慮されている若者であるが、20代の若者の投票数自体が少なく、右傾化を過大評価してはならない。全体としては、その意識が多様化し幅を広げている点に今日の特徴がある。確かに右傾化の強まりは目につくが、その反面で、それを批判するカウンター行動や民主的な社会運動に参加する若者も少なくない。
 いずれの現象も、生活と労働に対する若者の不満や異議申し立ての表出であり、その背後には報われない現状への怒りや将来へ絶望がある。それらが社会への敵意や退出願望に結びつくことを放置してはならない。その解決に向けての回路を示し、未来に希望を抱けるようにすることができるかどうか。それが生活と労働にかかわる運動にとってのこれからの課題であろう。
 すでに、この課題達成に向けての芽は生じつつある。若者も含めて、国民意識の地殻変動が始まっているからである。特定秘密保護法の強行成立、原発再稼働を目指すエネルギー基本計画の策定、5%から8%への消費税率の引き上げなど、国民の危惧と反対の声を押し切って実行されてきた悪政に続く集団的自衛権の行使容認の閣議決定。
 安倍首相はやりすぎたのではないだろうか。内閣支持率の高さを過信し、多少無理なことでもやってしまえば「仕方がない」と受け入れてくれるとでも思ったのだろうか。それとも、高い内閣支持率がいつまで続くかわからないから、今のうちに懸案の道筋をつけておきたいと焦ったのだろうか。
 このような安倍首相の焦りが世論の反発や懸念を高めている。集団的自衛権行使容認への反対や慎重審議を求める地方議会の決議は190を超え、閣議決定前日の官邸前に1万人を超える人々が集まった。また、日経新聞の6月調査では、自民党支持率が36%と前回より6ポイント下がり、特に20~30歳代では24%となって15ポイントの急落である。
 民意の反乱が始まりつつあるのかもしれない。社会的な運動の力によって国民意識の地殻変動をさらに進め、政治地図を塗り替えていくことが必要である。国民意識の動向と変化の方向は、それが十分に可能であるということを示しているのではないだろうか。


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