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5月13日(水) 「安全保障法制」の整備によって平和と安全は保障されるのか [戦争立法]

 「安全保障法制」という名の「戦争立法」の内容が明らかになりました。これで平和と安全が保障されるのでしょうか。

 この間協議を続けてきた自民党と公明与党は、新しい安全保障法制を構成する11法案の内容で合意しました。日本の防衛から「国際貢献」に至るまで「切れ目のない対応」を掲げており、自衛隊の海外での活動の内容や範囲をこれまでより一段と拡大するものになっています。
 軍事・外交政策を自衛的なものに限るとした「専守防衛」の国是によって自衛隊に課せられていた様々な制約が取り払われることになります。これまで以上に、積極的で攻勢的な国際紛争への関与が可能になります。
 合意された11法案はまとめて「平和安全法制」と名付けられ、自衛隊の海外派遣のための恒久法「国際平和支援法案」と、武力攻撃事態法改正案など現行法の改正案10本を一括した「平和安全法制整備法案」からなります。安倍内閣は法案を14日に閣議決定し、15日にも国会に提出する方針だといいます。

 安倍首相は、これらの法整備によって国際社会の平和に貢献でき、日本の安全が高まると説明しています。中国の台頭によって、日本周辺の安全保障環境が悪化したから、このような法整備が必要になったのだとも……。
 その説明が正しかどうか。国民は判断に迷っているにちがいありません。
 しかし、その回答はすでに出ています。これまでの歴史的な経験によって、安倍首相の説明の正しさを判断する材料は豊富に示されてきたからです。

 このような歴史的経験を基準にして判断するためには、問いの仕方を少し変える必要があります。「米国の防衛政策」は国際社会の平和と自国の安全をもたらしてきたのか、と……。
 今回の法案整備の背景には、「米国の防衛政策」の一部を肩代わりして地球規模の連携を打ち出す代わりに、軍事面で台頭する中国を日米で牽制する狙いがあるとされているからです。そのための日米同盟の強化であり、自衛隊の活動の拡大なのですから……。
 その米国は過去において「平和と安全」を掲げ、ベトナム戦争、アフガン・イラク戦争に介入し、多くの死傷者を出してきました。今度の法整備が実施されれば、将来あるかもしれないこのような戦争に自衛隊も加わることが可能になります。

 つまり、今回の法整備は、ベトナム戦争やアフガン・イラク戦争を防止するためにではなく、それをより効果的に遂行することを可能にするものです。そして、これらの戦争は誤ったものであり、米国の失敗であったことは明らかです。
 ということは、今回の法整備によって、日本はアメリカの間違った戦争を手助けできるようになり、その失敗を後追いすることになるということです。ベトナム戦争やアフガン・イラク戦争で多くのアメリカの若者が亡くなりましたが、それは将来の日本の若者の運命でもあります。
 それによって世界の戦争や紛争がなくなって平和が訪れたのかというと、決してそうではありません。戦争の火種は拡散し、紛争はますます泥沼化するばかりです。

 自国の若者を犠牲にして他国の戦争に介入したアメリカは、平和を実現することができなかっただけでなく、かえってアラブの敵としてイスラム社会から脅威を受けるようになりました。
 その最悪の結果が2001年9月11日の同時多発テロ事件です。その後も、ボストン・マラソンでのテロ事件などが起きています。
 アメリカだけではありません。「米国の防衛政策」に協力したイギリス、スペイン、カナダ、オーストラリア、フランス、デンマークなどの先進国でも、同様のテロ事件が頻発しています。

 「米国の防衛政策」によって国際社会の平和が実現しなかっただけではありません。アメリカのみならず「多国籍軍」や「有志連合」という形で協力した国々の安全も、大きく損なわれる結果となっています。
 イスラム社会には、広島と長崎で原爆を落とされた日本は米国と仲が悪いはずだという「美しい誤解」があったとされています。しかし、イラク戦争への自衛隊の派遣によって、米国の同盟国で手下だという「醜い正解」が次第に知られるようになってきました。
 イラク戦争ではまだ3人が誘拐されても、交渉によって開放される余地がありました。しかし、その後「日本は別」という見方が弱まり、香田証生さんが拘束されて殺され、アルジェリアでは10人が殺害、今年になって「イスラム国」(IS)によって2人が拘束され、殺害されるという悲劇が起きています。

 過去の事実は、力づくでの軍事介入という「米国の防衛政策」は失敗続きで、国際社会の平和と安全を高めないばかりか、自国民をも危険にさらす誤謬に満ちたものだったことを示しています。このようにしてアメリカは国費を無駄遣いして自国民を犠牲にし、国際的地位を低下させてきました。
 その誤った道をなぞるような形で、安倍首相はこれから「米国の防衛政策」の失敗を辿ろうとしています。そのための「安保法制の整備」なのです。
 間違った戦争で疲弊し、中東から手を引こうとしているアメリカに向かって、「今度はちゃんと手助けしますから、またやりましょうよ」と言っているのが、安倍首相なのです。アメリからすれば「勘弁してよ、安倍ちゃん」と言いたいところでしょうが、揉み手で近寄ってくる子分を邪険にもできないというところでしょうか。

 軍事力というハード・パワーに依拠した力による介入では地域紛争やテロは解決できず、貧困や差別、憎悪や敵対をなくすための地道な努力や対話という非軍事的なソフト・パワーの発揮こそが唯一の解決策だというのが、歴史によって示された教訓です。この教訓を学ばない者は、いずれ歴史によってしっぺ返しを食らい、裏切られることになるでしょう。
 そうならない前に間違いを避けるというのが、賢明な主権者としての正しい対処の仕方にほかなりません。日本国民がそのような主権者としての賢さを発揮できるかどうかが、これからの国会審議を通じて試されることになります。

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