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6月27日(土) 「当たり前の事実を置き去りにして」自己の主張を正当化しているのはどちらか [戦争立法]

 昨日、たまたまネットで「安保法制反対で喧伝される“危うさ”は本当か」という記事を見つけました。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授の岸博幸さんが書かれたものです。
 興味のある方は、本文http://diamond.jp/articles/-/73911?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditorをお読みください。

 この記事で岸さんは、「国会での野党の主張やメディアの報道を見ていると、どうも当たり前の事実を置き去りにして安保関連法案の“危なさ”ばかりが強調されているように思えます。そこで今回は、安保関連法案の議論に絡む当たり前の事実を自分なりに整理してみたいと思います」と書いています。
 ご本人は、よほど「当たり前の事実」をきちんと踏まえて議論しているのだろうと思いながら、本文を読み始めました。すると、すぐに目に飛び込んできたのが、次のような記述です。

 「どの国も、自国の領空が侵犯されそうになると、空軍機が緊急発進(スクランブル)して守ります。自衛隊のスクランブルの回数は、2004年度は141回だったものが2014年度には943回と、10年で7倍近くに増え、今や平均すると毎日2.6回です。ちなみに、以前は日本の領空に近づくのはロシア機が最多でしたが、この数年は中国機が急増しています。」

 誰かが同じようなことを言っていたような気がしました。ちょっと考えたら、すぐに気が付きました。
 安倍首相です。5月14日の記者会見での冒頭発言で、安倍首相は次のように発言していました。

 「我が国に近づいてくる国籍不明の航空機に対する自衛隊機の緊急発進、いわゆるスクランブルの回数は、10年前と比べて実に7倍に増えています。これが現実です。そして、私たちはこの厳しい現実から目を背けることはできません。」

 岸さんは「中国機」、安倍首相は「国籍不明の航空機」という違いがありますが、スクランブルの回数が「10年前と比べて7倍」に増えているという指摘は全く同じです。だから、以前に比べて安全保障環境は厳しくなっており、それに対応した形で憲法解釈の幅を広げ集団的自衛権の部分的な容認が必要になっているという説明でした。
 このような論理は、今も一貫しています。スクランブルの回数は、このような倫理を支える重要な事実のはずです。
 ところが、これは「当たり前の事実を置き去りにして」自己の主張を正当化しているのはどちらかと言いたくなるような、とんでもないインチキなのです。インチキというのが悪ければ、とてつもない思い違いだと言っても良いでしょう。

 「当たり前の事実」を前提にして議論するべきだというわけですから、「年度緊急発進回数の推移」http://www.mod.go.jp/asdf/about/role/bouei/というグラフをご覧いただきたいと思います。これは航空自衛隊のホームページに載っているものですから間違いないでしょう。
 このグラフには2013年度の数字までしか出ていません。24年度の数字は、岸さんの指摘しているものを使わせていただきます。

 さて、岸さんは「2004年度は141回だったものが2014年度には943回」で7倍にもなっていると指摘しています。それはそうなのですが、2004年のスクランブルの数字が特に少なく、それを下回るのは1959年の119件だけだという事実については全く触れていません。
 また、最近のスクランブルの回数は前年の2013年から急増していたことについても触れていません。つまり、岸さんも安倍首相も、半世紀近く前の水準にまで低下したスクランブルの回数と近年になってから急増した回数を比べて、「7倍」だと危機感をあおっていたことになります。
 ちなみに、2014年のスクランブル回数が最も多いのかというと、そうではありません。1984年の944回がこれまでの最多記録になります。

 航空自衛隊が示しているグラフを見ればわかる通り、スクランブルの回数がもっと多かったのは80年代です。この時代(1980~89年)の平均をとってみれば853.2回になりますが、最近の10年間(2003~2014)の平均は444.2回にすぎません。
 「な~んだ」と思われるでしょう。80年代に比べれば、スクランブルの回数は平均して半減していたのです。
 この回数が日本周辺における安全保障環境の変化を示すとすれば、それは悪化していたのではなく改善していたことを意味します。したがって、集団的自衛権の行使容認など憲法解釈の幅を広げる根拠は存在していません。

 しかし、このように低下していたスクランブル回数は、2012年から直近10年間の平均を上回るようになり、2012年567回、13年810回、14年943回と急増しました。第2次安倍内閣が発足して安倍さんが首相になってからです。
 確かに、80年代ほどではありませんが、第2次安倍内閣になってから安全保障環境は急速に悪化していたことになります。つまり、安倍内閣の成立こそ周辺環境の悪化をもたらした最大の要因だったということです。
 そうであれば、安全保障環境を改善するのに「戦争法制」などはいりません。安倍さんが首相を辞めれば良いのです。

 そうすれば、周辺諸国との関係は一挙に改善すること、請け合いです。その安倍首相の手による「戦争法制」の成立は日本の安全を確かなものにするどころか、周辺諸国の警戒感を高めて関係を悪化させる大きな要因の一つとなり、安全保障環境を改善するうえではまったくの逆効果であるということが、どうして分からないのでしょうか。

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