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9月14日(水) 「手のひら返し」の「壊憲」暴走を許さない―参院選の結果と憲法運動の課題(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議の『憲法運動』9月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 「憲法改正については、これまで同様、参議院選挙でしっかりと訴えていくことになります。同時に、そうした訴えを通じて国民的な議論を深めていきたいと考えています。」
 安倍首相は今年1月4日の年頭の記者会見で、記者に問われてこう答えた。そのために参院選での憲法論議が注目された。首相は「憲法改正」について、どう訴えるのか。そして、「国民的な議論」はどう深められるのか。それに対して、有権者はどう判断するのか。
 その結果、ある数字が注目を集めることになる。「3分の2」である。この数が、これほど注目を集めたのは改憲勢力がこの数以上の議席を獲得すれば、改憲発議に向けての条件が衆参両院で整うからである。
 「そうは、させじ」と、野党第1党の民進党は「まず、2/3をとらせないこと。」と大書したポスターを張り出した。新聞なども、この数字に注目してキャンペーンを張った。それほどまでに注目された改憲問題である。それは参院選の争点として争われたのだろうか。それに対する有権者の審判はどのようなものだったのだろうか。

1、容易ならざる段階を迎えた―参院選の結果をどう見るか

 *「3分の2」は突破された

 「改憲勢力3分の2超す 自公、改選過半数」
 参院選の投開票日の翌日の朝刊にこのような見出しが躍っていた。自民、公明、おおさか維新、日本のこころを大切にする党の議席に、改憲に前向きな無所属議員の議席を加えた数が、参院の3分の2を超えたのである。
 また、与党が獲得した数も、自民56議席、公明14議席の合計70議席となった。安倍首相が掲げていた改選議席の過半数である61議席という目標を9議席も超えたから、与党は勝利したことになる。
 しかし、3年前の2013年の参院選に比べれば、自民党は9議席の減となった。選挙区では10議席の減少である。参院での議席のピークは3年前の参院選であり、自民党の勢いに陰りが生じていたことが分かる。
 自民・公明の与党は2014年衆院選ですでに3分の2を超えており、今回の結果によって衆参ともに改憲発議が可能となった。アベ政治の暴走が続くなか、改憲についても具体的な動きが始まる条件が満たされた。
 しかも、都知事選で小池百合子元防衛相が都知事に当選し、改憲論者の超タカ派知事が誕生した。大阪ではおおさか維新の会の府知事と市長が存在している。第3次安倍再改造内閣では超タカ派で改憲論者の稲田朋美防衛大臣まで誕生した。まさに、改憲勢力にとっては「我が世の春」であり、憲法をめぐる状況が極めて危険な段階を迎えたことは疑いない。

 *「争点隠し」による肩透かし

 「見事な」肩透かしだったというほかない。参院選でこれほどに注目されていた改憲問題は、結局、選挙の争点にはならなかった。というより、「争点にしたくなかった」から「隠した」のである。
 その理由は、国民世論の変化にある。アベ政治が暴走を重ねる中で、改憲に対する警戒感が高まり、反対論が増えてきた。とりわけ、9条改憲については反対の方が多い。選挙で争点にすれば不利になるという計算が働いたにちがいない。
 年頭記者会見で「参院選でしっかり訴えていく」と明言していたにもかかわらず、安倍首相は参院選での遊説で改憲に触れることはなく、徹頭徹尾、「改憲隠し」選挙を貫いた。自民党も同様に「改憲隠し」に徹した。全26ページにわたる選挙公約の末尾に「国民合意の上に憲法改正」という項目を立て、「憲法審査会における議論を進め、各党との連携を図り、あわせて国民の合意形成に努め、憲法改正を目指します」と書いてあるだけだった。
 このような「改憲隠し」選挙にはメリットとデメリットがある。メリットは不人気な争点を提起しなかったために参院選で勝てたことだ。経済政策を前面に立て、アベノミクスで得られたというささやかな「成果」を売り物にして有権者の票をかすめ取ることに成功した。
 しかし、同時にデメリットも生まれた。改憲について口をつぐんだまま多数を得たが、それを政権への信任であるとして改憲に向けて突き進めば「手のひら返し」の裏切りが目立ってしまう。選挙が終わったからと言って、直ぐに突進するわけにはいかない。
 とはいえ、このような「手のひら返し」の手法は、安倍首相の得意技でもある。2013年7月の参院選で特定秘密保護法にはほとんど触れなかったが、選挙が終わると秋の臨時国会に法案を出して成立させてしまった。集団的自衛権の行使容認のための安保法案についても、2014年12月の総選挙では争点として掲げていなかったにもかかわらず、安保法案の成立を強行した
 「2度あることは3度ある」と言う。同様の「やり口」が改憲問題においても繰り返されるかもしれない。参院選での勝利を背景に改憲に向けて暴走を始めることのないよう、警戒心を高める必要がある。

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