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11月12日(土) 米大統領選挙で負けているのに勝ってしまったトランプ候補 [国際]

 アメリカ大統領選挙の衝撃は、その後も世界を震撼させているようです。株式市場での「トランプ・ショック」はそれほどでもなかったようですが、国際政治に対する衝撃は今も続いています。

 このような結果に直面して、「あのような差別的で過激な発言を繰り返していたトランプ候補が、何故大統領に当選できたのか」という疑問が沸いてきます。様々な形で、その背景や原因が論じられていますが、ここで重要な事実を忘れてはなりません。
 それは、今回の大統領選挙でトランプ候補の票がクリントン候補の票よりも少なったという事実です。米東部標準時で10日午前8時現在、有権者投票者数ではクリントン候補が59,814,018票、トランプ候補が59,611,678票となり、クリントン候補が過半数を取得したことが明らかとなりました。それでもトランプ勝利となったのは選挙人の数が上回ったからで、それは間接選挙という制度に助けられた勝利だったのです。
 このような得票総数と選挙人の数の逆転はこれまで4回もあり、私がハーバード大学の客員研究員としてアメリカに渡った2000年の大統領選挙でも目撃しました。このような逆転は小選挙区制などの間接選挙では避けられない問題点であり、だからこそ比例代表制や直接選挙にすべきだという議論が生ずるわけです。

 つまり、アメリカ国民はトランプではなくクリントンを選んでいたのです。今回の選挙で国民の分断が進み、最左派のサンダース支持層、中道左派のクリントン支持層、共和党の主流派、そしてグローバル化の進展のあおりを食って没落しつつある白人労働者などを中心にしたトランプ支持層の4つの階層に分かれたと言われています。
 このうち多数派は、サンダース支持層の一部を惹きつけたと言われるトランプ支持層ではなくクリントン支持層でした。アメリカ国民における多数派が実はリベラルな人々であったという事実は、これからのトランプ新大統領の方針や政策を大きく制約する要因となるにちがいありません。
 この事実をトランプ氏自身も自覚しているようです。選挙中の差別的で過激な発言は影を潜め、意外に常識的で穏健な態度に終始しているからです。

 このような「猫をかぶった姿」を見て、「意外とまともじゃないか」と胸をなでおろした人も多かったことでしょう。株式市場で「トランプ・ショック」がⅤ字回復したことに、このような安ど感が如実に示されています。
 しかし、このような豹変は、新たな矛盾を引き起こすにちがいありません。選挙中の差別的で過激な発言や公約を信じて「虎」だと思って投票した支持者にとって、「猫」になってしまったトランプ氏は「裏切り者」にほかならないからです。
 これまでの政治を厳しく批判してきた発言や公約こそ、貧困化にさいなまれて現状打破を願い、既成政治に毒されていないと信じてその突破力に期待した白人労働者層を惹きつける原動力でした。当選2日後にオバマ大統領と会見して教えを乞い、「猫」をかぶって「まとも」になったトランプ氏はさっそく既成政治に取り込まれてしまったと失望を買い、選挙中の約束を反故にした裏切り者でペテン師だとの批判を免れないでしょう。

 クリントン氏を支持した多数派の目を恐れ、選挙中に生じた深い分断の修復を目指せば「裏切り者」となり、選挙中の発言や公約に忠実であろうとすると分断はさらに深まり、自らを支持しなかった多数派の「壁」にぶつかるかもしれません。トランプ氏は大きなジレンマに直面する可能性があります。
 白人労働者層などに蔓延した不満と現状打破への願いを追い風に、間接選挙という制度にも助けられて大統領の椅子を手に入れたトランプ氏ですが、前途は多難のようです。これからワシントンでめくるトランプには、果たしてどのようなカードが隠されているのでしょうか。

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