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2月27日(月) 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

3、 日本外交の大転換―対米従属と中国包囲網の形成

(1)対米従属の強まり

 安倍首相は2015年9月に集団的自衛権の行使容認を含む安保法を成立させ、それ以前に行った日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定とあわせてアメリカとの同盟関係をより強固にした。アメリカによる対日要求に対する屈服という点では歴代自民党政権以上の対米従属性を示すものとなっている。
 安保法制の整備が政治課題として浮上した際、注目されたのが「第3次アーミテージ・ナイレポート」である。リチャード・アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイハーバード大学教授という2人の「知日派」米高官によって提出された日本の外交・安全保障政策についての報告書はこう呼ばれてきた。これまで2000年10月に第1次、2007年2月に第2次、そして2012年8月に第3次と3回出されているが、とりわけ注目されたのが3回目のレポートである。
 これについて、2015年8月19日の参院特別委員会で注目すべき質疑がなされた。「生活の党と山本太郎となかまたち」共同代表の山本太郎参院議員による質問である 。
 このとき山本議員は、下記のようなボード(省略)を掲げ、「この『第3次アーミテージ・ナイレポート』の日本への提言、今回の安保法制の内容にいかされていると思いますか」と、中谷防衛大臣に質問した。中谷大臣は「このレポートで指摘をされた点もございますが、結果として重なっている部分もあると考えておりますけれども、あくまでも、我が国の主体的な取り組みとして、研究、検討して作ったものであるということでございます」と答弁している。

 このレポートに示されているように、アメリカは民間人による提言という形をとって日本に対する軍事分担と日米同盟の強化を求めていた。提言の内容は「国連平和維持活動(PKO)の法的権限の範囲拡大」や「集団的自衛権の禁止」の解除など、今回の安保法制によって実行可能になった内容と「結果として重なっている部分」がある。それだけでなく、「原発の再稼動」「TPP交渉参加」「インド・オーストリア・フィリピン・台湾等の連携」「米軍と自衛隊の全面協力」「国家機密の保全」から「防衛産業に技術の輸出を働きかける」ことに至るまで、安倍政権が取り組んできた外交・安全保障政策の大転換を先取りするものとなっている。

(2)中国包囲網形成のための「価値観外交」

 このような外交・安全保障政策の大転換の背後にあるのは、安倍首相による「価値観外交」である。安倍首相自身はこれを「地球儀外交」と称しているが、それは「単に2国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰して自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に立脚し、戦略的な外交を展開していく 」という外交方針である。
 「基本的価値」に立脚するという基準に基づくから「価値観外交」であり、その「戦略」はこのような価値に基づかず、国際法に反して南シナ海への進出を続けている中国を外交的に包囲し、その影響力を削ぐというものである。これは、中国の海洋進出に対抗して「航行の自由作戦」を実施しているアメリカの外交・安全保障政策に沿うものでもあった。
 同時に、シーレーンの要衝である南シナ海の自由な航行を脅かす可能性のある中国を包囲してその動きを封じることは、この海域を通じて石油などの重要資源を輸送している日本にとっても利益になると考えられた。安倍首相が最初の外遊先に選んだのは、インドネシア、タイ、ベトナムの3カ国だったという事実が、このような戦略的な目的を明示している。
 しかし、このような「価値観外交」は日本周辺のアジアに限られていない。それはまさに「地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰」するものであった。2016年9月18~24日の第71回国連総会への出席とキューバ訪問によって、安倍首相による訪問国・地域は65ヵ国に上る 。
 この間の外国訪問によって、安倍首相が「世界中でバラまいてきた資金援助の額は30兆円近くに上る 」とされている。1000兆円を上回る財政赤字を抱えている日本がこのよう多額の対外援助を行う余裕があるのか、そのような資金があれば国内での福祉や教育などの施策の充実に充てるべきではないのか、などの批判が生ずるのも当然であろう。

(3)南シナ海沿岸国への支援

 このような「価値観外交」が軍事的な色彩を強めつつ実施されているのが、南シナ壊沿岸諸国に対する支援である。2016年11月4日、政府はマレーシアに対して大型巡視船2隻を供与する方針を固めた。これは中国の海洋進出に対抗する南シナ海沿岸国支援の一環だとされている。マレーシアは経済的には中国との関係が深いが、南沙諸島の領有権をめぐって中国と対立関係にある。このような事情を踏まえた支援策であり、「中国包囲網」形成策の一環でもある。
 これまでも日本は、東南アジアにおける海上警備能力の向上のために、ベトナムに対して中型船舶6隻を巡視船として無償供与し、新造巡視船の供与についても調査・検討中とされている。また、インドネシアに対しても新造巡視船3隻を無償供与している。
 フィリピンには大型巡視船2隻の新造・供与を約束し、新造の巡視艇10隻の引き渡しが始まった。海上自衛隊の双発練習機5機の貸与も決まり、その教育訓練に教官や整備の技術者も派遣される。しかし、最近になってフィリピンのドゥテルテ大統領は、南シナ海での日米共同のパトロールに参加しないことを表明した。その結果、何のために巡視船を供与し軍事協力を行うのかが不明になってしまった。安倍政権の「中国包囲網」形成策のチグハグぶりを象徴するような事例だといえよう。

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