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2月28日(火) 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4、在日米軍基地・自衛隊基地をめぐる問題

(1)在日米軍基地の強化

 安倍政権は沖縄県で「普天間基地の危険性除去」のためとして、辺野古での新基地建設を進める一方、「基地負担の軽減」を掲げて沖縄県東村高江での米軍オスプレイパッド(着陸帯)6か所の年内完成をめざして工事を急いでいる。これによって、強襲揚陸艦も接岸可能な最新鋭の基地と、オスプレイの運用が可能となる最新鋭の着陸帯が生まれる。
 米軍基地が強化されているのは沖縄だけではない。米軍横須賀基地への最新鋭原子力空母「ドナルド・レーガン」の配備と最新鋭イージス艦の追加配備によって過去最多の14隻態勢となり、米軍三沢基地への無人偵察機「グローバルホーク」の配備、丹後半島の経ヶ岬でのミサイル防衛用早期警戒レーダーの運用開始などが進められてきた。
 また、「沖縄への配慮」を理由に、2017年後半からは米軍横田基地に特殊作戦機CV22オスプレイが配備され、その整備拠点が千葉県の陸上自衛隊木更津駐屯地に整備される。嘉手納所属機やオスプレイの訓練移転、普天間基地から米海兵隊岩国基地への空中空輸機の移駐、嘉手納基地の特殊作戦機や沖縄の特殊部隊による横田基地でのパラシュート降下訓練などの動きも出ている。

(2)日米間の軍事的一体化

 このような米軍基地の強化とともに進行しているのが日米間の軍事的一体化である 。それは、これまでもインド洋やイラク戦争での米軍支援、自衛隊司令部の米軍基地移転、日米共同演習の拡大・深化 などの形で進んできたが、さらに新たな動きが出ている。その象徴的事例が防衛省の2017年度の概算要求で明らかになった「日米共同部」の新設である 。
 すでに安倍首相は第1次内閣の時代に防衛庁を省に格上げし、独自の予算要求権限を与えていた。また、座間駐屯地内に防衛大臣直轄の機動運用部隊である中央即応集団を新たに編成し、いつでも海外派遣できる体制を整えていた。これを再編し、これまで全国5方面に分かれていた陸上自衛隊の部隊を統括する「陸上総隊」(仮称)を新設し、その中に「日米共同部」を設け、キャンプ座間にある在日米陸軍司令部との連絡調整窓口の役割をもたせるという。
 その背後には二つの動きがあった。一つは、2015年4月改定の「日米防衛協力のための指針」(新々ガイドライン)であり、ここには日米両政府が「共同計画策定メカニズムを通じ、共同計画の策定を行う」と書かれていた。「日米共同部」の新設は、その具体化ということになる。
 もう一つは、文官統制の廃止である。自衛隊に対する統制には、「文民統制(シビリアンコントロール)」だけではなく、その一部として文官(背広組)による自衛官(制服組)に対する統制があった(文官統制)。しかし、2015年6月の防衛省設置法の改正によってそれまで上位にあった官房長と局長を各幕僚長と同等の位置付けにした。「背広組優位」の規定は戦前に軍部が暴走した歴史の教訓を踏まえており、防衛庁と自衛隊の発足当時から設けられてきたものだった。日米間の軍事的一体化が進む下で、その教訓も捨て去られることになった。

(3)自衛隊基地の強化と南西諸島の「要塞」化

 在日米軍基地の強化、日米間の軍事的一体化と歩調を合わせて、自衛隊基地の強化と南西諸島の「要塞」化も進められている。とりわけ、新たな部隊編成とアメリカ製の最新鋭装備の導入が目につく。
 佐世保を拠点に、島嶼防衛を念頭においた日本版海兵隊とも言える「水陸機動団」が新たに編成される。これに伴ってオスプレイが17機導入され佐賀空港に配備されようとしている。また、三沢基地へのF35Aステルス戦闘機の配備、横田基地と小牧基地の隣接地での整備拠点の設置、航空自衛隊美保基地への最新鋭空中空輸機KC46Aの配備なども計画されている。
 とりわけ、安倍政権下で急速に進みつつあるのが。「中国の脅威」と島嶼防衛力の強化を理由にした南西諸島の「要塞」化である。奄美、宮古、石垣、与那国へ自衛隊とミサイルを配備しようという計画が進んでいる。
 すでに2016年3月、与那国島には沿岸監視部隊約160人が配備され、奄美への警備部隊、地対空・地対艦ミサイル部隊の配備についての準備も進みつつある。宮古島と石垣島では配備予定地の住民による激しい反対運動が展開されている。今でさえ、尖閣諸島の領有権をめぐって中国との緊張関係が生じているのに、このような南西諸島の「要塞」化が進めばますます軍事的緊張が高まり、抑止力どころか攻撃への呼び水となってしまうのではないかとの懸念が強まっている。

 むすび

 安保法制の整備によって抑止力が高まり、日本周辺の安全保障環境は改善しただろうか。かえって安全保障環境を悪化させ、日本と日本人の安全を損なうことになったというのが現実の姿ではないか。安保法成立後も中国の海洋進出は止まず、北朝鮮の核開発とミサイルの発射実験の回数は増えた。バングラデシュでは、昨年10月に1人、今年7月に7人の日本人が殺されるという事件が起きている。
 7月の参院選の結果、衆参両院で改憲勢力が3分の2を越えるという新たな事態が生じた。しかし、その中身は一様ではなく、憲法の3大原理の枠内での「改憲」とそれを破壊する「壊憲」を目指す勢力が混在している。また、改憲をめぐっては、優先順位の問題が提起されている。アベノミクスの失敗によるデフレ不況の再現、少子化問題の深刻化、社会保障や労働環境の悪化、貧困化と格差の拡大など問題山積のいま、そのようなことをやっている場合なのかという声が高まっているのは当然だろう。
 外交・安全保障政策における安倍政権下での大転換は、日本外交の大きな失敗を招く結果となった。対米従属を強め、アメリカの意図をおもんぱかって中国包囲にばかり関心を向けているために世界を見る目が歪んでしまったのである。その結果、唯一の戦争被爆国でありながら核兵器禁止条約についての交渉開始を求める国連決議案に反対し、地球温暖化対策の新しい国際的枠組みである「パリ条約」の批准が遅れて締約国の初会合に間に合わないという外交的失策を犯した。
 「戦争できる国」になるためには、安保法制という法律や制度などのシステム、軍事力の増強や基地の強化などのハードだけではなく、戦地に赴く人材の養成や戦争を支える社会意識の形成というソフト面での整備も必要とされる。システムとハードの整備については本稿でも明らかにしたが、ソフト面にまで言及する余裕はなかった。
 しかし、安倍首相は第1次内閣の時代から「教育再生」に取り組み、第2次内閣になってからはマスメディアに対する懐柔と介入・統制に力を入れている 。特定秘密保護法の制定、武器輸出3原則の緩和、集団的自衛権の行使容認と安保法の制定など「戦争できる国」となるために必要なシステムの整備だけでなく、ハードやソフトを含むすべての面で、着々と既成事実化が図られていることを強調しておきたい。
 安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題等において打ち出されてきた政策転換は、日本と日本人の安全を低下させ、国費の無駄を生んで日本社会の荒廃を招き、国際社会への不適合を生み出す。それはいずれ大きなツケとなって日本国民を苦しめることになるだろう。その時になって「シマッタ」と思ってからでは遅い。そうならないために、知るべきことを知る勇気、騙されないための知性、正しいと思ったら足を踏み出す行動力が、今ほど求められているときはない。


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