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12月6日(水) 衆院選を教訓に、市民と立憲野党の共闘の深化を(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『法と民主主義』No.523、2017年11月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

二 「大義」なき解散による不意打ち

 取ってつけた「大義」

 総選挙の結果、与党はほぼ現状維持にとどまりました。与野党関係に変化はなかったということになります。しかも、衆院議員の任期は来年12月まで1年以上も残っていました。今すぐに解散しなければならない理由はありません。だからこそ「不意打ち」だとか、「大義なき解散」だと言われて大きな批判を招いたのです。
 解散に当たり安倍首相が「国難突破解散」だとして打ち出した「大義」と争点は、朝鮮半島危機への対処、消費税再増税による税収増部分を子育てと教育などに使うとする使途の変更などです。しかし、これも「今さらどうして?」と言いたくなるような理由ばかりです。
 朝鮮半島危機は今に始まったことではなく、衆院の勢力関係が新しくなっても解決するわけではありません。消費税が再増税されるのは2019年10月1日からの予定で、まだ2年も先の話です。それをなぜこの時点で、衆院を解散して国民に問わなければならなかったのでしょうか。
 これらが「国難」であるというのであれば、国会を解散して政治空白を生み出すよりも、憲法53条に基づいて野党が要求していた臨時国会を開いてきちんと議論すれば良いことではありませんか。いずれの理由も、取ってつけたような「大義」にすぎません。

 「森友」「加計」学園疑惑からの逃亡

 しかし、安倍首相からすれば、解散に向けて「今がチャンスだ」と考えた理由がありました。本当の理由は別にあります。
 その第1は、「森友」「加計」学園疑惑から逃れるためです。国会をめぐる一連の経過は、内閣支持率を低下させ安倍首相個人の頭を悩ませてきたこの問題についての追及から逃れるために、いかに野党の質問を恐れていたかということを如実に示しています。
 通常国会は会期終了前に閉じられ、憲法に基づく国会開催要求は無視され、秋の臨時国会の冒頭に質疑なしでの不意打ち解散が強行されました。選挙後も、特別国会の会期をわずか8日間とし、その後も臨時国会を開催せず、野党の質問時間を減らそうとしました。
 結局、特別国会の会期は39日間とされましたが、安倍首相の外交日程が立て込んでいるため、実施的な審議は15日間ほどにすぎません。「そんなに、質問されるのが怖いのか」と言いたくなります。質問が怖いというより、一連の質疑を通じて内閣支持率の急落が再現されることを恐れていたということでしょう。8月の内閣・党役員人事の改造で一時的に盛り返した支持率は、9月に入ってから再び下がる兆しを示していましたから。
 解散・総選挙によってこれをリセットし、来年秋の自民党総裁3選に向けての基盤固めを図りたいと考えたのかもしれません。もちろん、北朝鮮による核開発やロケット発射などの軍事挑発を利用して国民の不安感を高めれば、与党が勝てるかもしれないという計算もあったにちがいありません。

 9条改憲に向けての基盤づくり

 「大義」なき解散に踏み切ったもう一つの理由は、5月3日に安倍首相が表明した9条改憲に向けての政治的な基盤固めを行うことだったと思われます。この時、安倍首相は2020年までには国民投票を終えて新しい憲法を施行したいと言っていたからです。
 その後の内閣支持率の低下や都議選での惨敗もあって、安倍首相は「スケジュールありきではない」と、一歩後退したかのような姿勢を示しました。しかし、今年中には改憲草案を自民党内で合意し、来年の通常国会か秋の臨時国会で改憲案を衆参両院で発議して2019年7月の参院選までには国民投票にかけたい、それまでずれ込むようなら参院選と国民投票の同日選に打って出るという野望が胸に秘められていたようです。
 今のうちに衆院選挙をやっておけば、再来年の7月まで国政選挙はなくなります。その間は腰を落ち着けて改憲論議に取り組めると考えたのでしょう。来年の総裁選で選ばれれば、衆院議員の任期と安倍首相の3期目の任期の終了時期は2021年で重なります。それまでには何としても9条改憲の野望を達成したいと、秘かな「闘志」をもやしていたのkもしれません。

 自民党支持の広がり

 北朝鮮危機を煽って国民の不安を高め、それを政治的に利用しつつ景気回復や子育て・若者支援を前面に押し出し、「森友」「加計」学園疑惑や9条改憲の意図を隠した安倍首相の選挙戦術も功を奏しました。そのために、野党候補が乱立して漁夫の利を得た小選挙区だけでなく、各政党が競い合う比例代表でも支持を伸ばしています。
 総選挙が始まるころ、安倍内閣の支持率よりも不支持率の方が高いことや安倍首相の続投を望まないという意見が51%を超えていたことなどが注目されました(『朝日新聞』10月19日付)。内閣支持率よりも不支持率が高い状況の下での衆院選はめったになかったからです。
 しかし、自民党に対する政党支持率にはそれほど大きな変化はありませんでした。つまり、安倍首相に対する不信感や嫌悪感による「反安倍」は強くても、自民党に対する批判や拒否による「反自民」はそれほどでもなかったということになります。
 選挙後の『東京新聞』10月23日付の特報欄に、自民党に投票した人の以下のような声が紹介されていました。これを見ても北朝鮮危機への不安感と景気回復への期待感が自民党支持の背景にあったことが分かります。

 「いつ北朝鮮のミサイルが飛んでくるか分からない。自民がベストとは思わないが、防衛や外交を考えるとベターだ」(広島県庄原市の男性(69))
 「北朝鮮が怖い。今は安定した政治をしてほしいので、今回は自民」(浅草の女性(84))
 「株価が何日も連続で上がっているでしょ。やっぱり経済が良くならないと。経済政策を重視し、選挙区も比例区も自民にしました」(松戸市の女性会社員(46))


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