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12月15日(金) 総選挙の結果と安倍9条改憲をめぐる新たな攻防(その3) [論攷]

〔以下の論攷は、憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻466号、2017年12月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

3、安倍9条改憲阻止のために

 (1)2019年夏の参院選までがヤマ場?

 総選挙後の10月23日、安倍首相は記者会見で改憲について言及し、「公約に沿って条文について党内で議論を深め、党としての案を国会の憲法審査会に提案したい」と語りました。「与党で3分の2をいただいたが、与党だけではなく幅広い合意形成が必要。国民投票で過半数を得るべく努力したい」とし、「スケジュールありきではない」とも述べています。
 同時に、野党第1党となった立憲民主党が自衛隊明記などの首相提案を厳しく批判している点について問われた首相は、「合意形成するための努力をしていく」としたものの、「政治であるから、皆さま全てにご理解をいただけるわけではない」と発言しました。これは「協議の行方次第では、合意できる党だけで発議をめざす可能性を想定した発言」だと報じられています(『朝日新聞』10月24日)。
 こうして、再び、安倍首相は改憲に向けてのアクセルを踏み込みました。このような首相の意向に沿った形で改憲論議は進むと見られています。この時点で想定されていた改憲日程は3つあります。
 まず、11月中旬に党内論議を再開し、12月中に改憲素案を取りまとめ、来年の1月以降に各党に案を提示するというものです。その後、通常国会で改憲を発議して来年中に国民投票を実施するというのが第1の想定で、最も早い日程になります。
 これに対して第2の想定は、来年の自民党総裁選で3選された後に臨時国会を開き、改憲を発議するというものです。国民投票は2019年の春ごろになります。最も遅い第3の想定では、2019年春の通常国会まで改憲発議がずれ込み、夏ごろの参院選と同時に国民投票を実施しようというものです。
 改憲に向けての国民投票は、早ければ来年の末、遅くても再来年夏の参院選までと想定されているわけです。この参院選まで発議も国民投票も実施させず、同日選を阻止して参院での改憲勢力を3分の2以下に減らせば、安倍9条改憲の危機を突破することができます。
 それ以前であっても、安倍首相を総理の椅子から引きずり下ろしたり3選を阻んだりすれば、改憲の危険水域から脱けだすことができます。2019年夏の参院選までが、改憲をめぐる「激突」の山場ということになるでしょう。

 (2)前途に横たわる4つのハードル

 このように安倍首相は改憲論議を急ぐ意向を示し、自民党は憲法改正推進本部を先頭に準備を進めています。しかし、そこには多くの弱点が存在しており、数々のハードルを越えていかなければなりません。
 改憲に向けての第1のハードルは自民党内にあります。自民党の憲法改正推進本部は11月8日に衆院解散で中断していた党内論議を再開すると決め、年内にも自衛隊の存在明記などをめぐる意見集約を図って、来年の通常国会で発議を目指す方針を確認しました。
 しかし、自衛隊の存在明記をはじめ党内で意見の隔たりが大きい項目もあるため、先行きは不透明です。自衛隊明記と教育無償化は安倍首相が提案したものですが、自衛隊明記には自民党議員の14%が反対だという調査もあります(『毎日新聞』10月24日付)。
 細田博之本部長は記者団に「国民全体、国家全体の問題だから、自民党主導でどうこうということではない。いろいろな協議を重ねないといけない」と語り、他党との合意形成に取り組む意向を示しています。何よりも、公明党の同意を得て与党の体制を整えることが必要ですが、その公明党は腰が引けています。
 つまり、第2のハードルは与党内に存在しているのです。改憲論議のカギを握る公明党は、山口那津男代表が11月7日の記者会見で「憲法は国会が舞台。与党間で何かやることを前提にしているわけではない」と指摘するなど、自民党が求めている与党協議に応じる気配はありません。
 しかも、山口さんは11月12日放送のラジオ番組で、改憲の国会発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要となる点に触れ「それ以上の国民の支持がある状況が望ましい。国民投票でぎりぎり(改憲が承認される)過半数となれば、大きな反対勢力が残る」と述べ、国民の3分の2を超える賛同が前提となるという認識を示しました。
 8割の改憲勢力についても、「改憲を否定しない勢力とは言えるが、主張に相当な隔たりがあるし、議論も煮詰まっていない」と指摘しています。公明党にはもともと「野党第1党を巻き込むべきだ」だという考えが強く、自民党内にも憲法族を中心に同様の意見がありました。このような山口さんの発言は、これに加えてさらに改憲のハードルを引き上げることを意味しています。
 こうして、第3のハードルが登場します。野党の状況です。共産党や社民党ははっきりと改憲に反対しており、野党第一党の立憲民主党も安倍首相が進めようとしている9条改憲には反対の姿勢を示しています。
 維新の会や希望の党は改憲勢力とされていますが、9条改憲についての優先順位は高くありません。改憲への賛成と安保法の支持という「踏み絵」を踏んだはずの希望の党の当選議員も、安倍改憲には72.5%が反対し、2020年改正施行にも66.9%が反対しています(共同通信調査)。
 安倍9条改憲に反対している立憲民主党が野党第一党になったことも大きな壁となるでしょう。安倍首相は野党第一党が賛成することにはこだわらないことを示唆していますが、それでは公明党が納得しません。立憲民主党を巻き込まなければ第2のハードルを超えられないのです。
 そして、第4のハードルは世論の動向です。共同通信社による世論調査では、憲法に自衛隊を明記する安倍首相の提案に反対は52.6%で、賛成38.3%を上回っています。安倍首相の下での憲法改正には50.2%が反対で、賛成は39.4%と少数です。
 『毎日新聞』の世論調査でも、改憲発議について「急ぐべきだ」は24%にすぎず、「急ぐ必要はない」という回答が66%に上っています(『毎日新聞』11月14日付)。安倍首相は11月1日の記者会見で、自民党内で具体的な条文案の策定を急ぐ考えを示しましたが、国民の理解は広がっていません。

 (3)安倍9条改憲阻止に向けて

 総選挙の結果、憲法をめぐる情勢が危険水域に入ったことは明らかです。安倍9条改憲阻止をめぐって「激突」の時代が始まりました。これを阻止するにはどうしたらよいのでしょうか。
 そのためには、第1に、一般的な憲法の改正を意味する改憲と安倍9条改憲論を区別し、その間に楔を打ち込んで後者を孤立させることです。改憲にも、憲法96条で認められている統治ルールの変更などの改正を意味するものと、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義という3大原理を破壊し、事実上の新憲法の制定を意味する「壊憲」とがあります。平和主義を破壊する安倍9条改憲論は後者であり、断じて認められません。
 前者の改憲一般に賛成する議員は国会議員の8割を超えていますが、後者の安倍9条改憲論に賛成する議員は54%です(『毎日新聞』10月24日付)。過半数は越えていますが3分の2を占めているわけではありません。前述のように、国民世論でも安倍9条改憲論は少数派です。
 第2に、安倍9条改憲へのハードルをどんどん引き上げていくことです。私たちの運動で反対世論を増やしていけば、これらのハードルを高くすることができます。反対世論を目に見えるようにするという点では集会などの抗議行動や署名運動が有効です。官邸前や国会周辺だけでなく全国の津々浦々で、可能な形での安倍9条改憲に反対する集会やデモ、パレード、スタンディングなどに取り組むことです。安倍9条改憲NO!全国市民アクションが呼びかけている3000万人署名運動も、反対世論を具体的な数で示す点で大きな意義があります。
 第3に、現行憲法に対する国民的な学習運動を幅広く組織することです。改憲に向けての動きが強まり、国会内で憲法審査会での議論が始まれば、報道される機会が増え憲法に対する国民の関心も高まります。これは憲法の内容や意義、その重要性について学ぶ絶好のチャンスでもあります。こうして憲法に対する理解や認識が深まれば、改憲に反対する大きな力となることでしょう。
 第4に、市民と立憲野党との連携を深め、草の根での改憲反対の運動を広げていかなければなりません。市民と野党との共闘については、総選挙での経験や人的なネットワークの広がり、立憲民主党の結成などによって新たな可能性が生まれています。民進党から分かれた立憲民主・希望・民進・無所属の4党・会派と共産・社民・自由の各党は国会内での連携を図りつつあります。国会審議において力を合わせながら国会外での運動とも連携し、安倍9条改憲に反対する草の根の共同を幅広く追求していくことが重要です。
 これらの活動においては、いかに世論を変えていくかという視点を貫かなければなりません。当面は国会での改憲発議を阻止することですが、最終的には国民投票によって決着が付けられることになります。そこで多数を獲得できるという見通しが立たなければ、改憲への動きをストップさせることができます。各政党の対応を左右するという点でも、世論の動向は決定的な意味を持ちます。
 ヨーロッパ連合(EU)からの離脱か残留かを問うイギリスの国民投票では離脱賛成票が上回り、残留を主張していたキャメロン首相が辞任しました。イタリアでも上院の権限を大幅に縮小する憲法改正案についての国民投票が実施され、反対票が多かったためにレンツィ首相が辞任に追い込まれています。日本でも同様の結果が予想されるようになれば、安倍首相はこのようなリスクを避けるにちがいありません。

 むすび

 危機(ピンチ)は好機(チャンス)でもあります。安倍9条改憲に向けての危機の高まりを、憲法への理解を深め憲法を活かす政治を実現する好機としなければなりません。安倍首相が2020年までに改憲施行することをめざすというのであれば、たんに改憲を阻止するという受け身の運動にとどまらず、政治と生活に憲法の原理と条文を具体化できる政府の樹立に向けての攻勢的な運動の期間としようではありませんか。
 安倍首相は今後、ますます改憲に向けての攻勢を強めてくるにちがいありません。国民の関心が高まり、心ある人々の危機感も増大するでしょう。憲法はそれほど身近ではなく、とっつきにくいと思われることも少なくありません。しかし、国会の憲法審査会で議論が始まり、与野党の対立が強まったり反対運動が高揚したりすれば、身近な話題としてマスメデイアなどでも取り上げられるようになります。
 この機会をとらえて国民に幅広く訴えていくことができれば、今まで以上に憲法を身近に感じてもらえ理解を広げることができます。署名を中心にしながら、多様な運動の展開に努めることが重要です。その核として重視すべきは、憲法についての国民的な学習運動でしょう。
 このような取り組みを通じて国民の憲法への理解と認識が高まり、その結果として安倍9条改憲論が挫折するというのが最も望ましいシナリオです。そのシナリオが実現できるかどうかに、アジアの平和と日本の未来がかかっていると言っても過言ではありません。
 総選挙の結果生じた情勢に、恐れず、ひるまず、あきらめず、安倍9条改憲をめぐる新たな攻防に向けて立ち上がりましょう。「憲法は変えるのではなく活かす」という旗を掲げながら。(2016年11月16日/いがらし じん)

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