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12月21日(木) 安倍9条改憲を考える際に忘れてはならない3つの視点 [憲法]

 自民党は20日の党憲法改正推進本部で論点整理を行い、それを了承しました。形の上では「一歩前進」のように見えますが、必ずしもそうではありません。
 改憲の焦点になっている自衛隊の存在明記について、年内の意見集約を見送ったからです。議論が進んでいるような「体裁」はつくろいましたが、党内での論議自体はかなり遅れており、「視界良好とはいえないようだ」と評されています(『毎日新聞』12月21日付)。

 もともと自民党が掲げていた12年の改憲草案は現行の9条第2項(戦力不保持)を削除して第1項(戦争放棄)が「自衛権の発動を妨げるものではない」と新たに規定し、それによって「国防軍の保持」(草案9条の2)を可能にするというものでした。自民党内では、これを支持する意見が14%存在しています。
 代表的なのが石破茂元幹事長で、この日の憲法改正推進本部の全体会合でも、「安全保障環境がものすごく変わったから9条を改正するというのなら、今までとほとんど(自衛隊の)中身は変わらないというのは論理が一貫しない」と主張し、第1項と第2項を維持したまま自衛隊を明記する首相の考え方を重ねて批判しました。
 これに対して、山本一太元沖縄・北方担当相は「2項を削除した方が分かりやすいに決まっているが、やはり(国会を)通さないといけない」と反論しました。自民党の改憲草案と安倍9条改憲論の両案をめぐって賛否が飛び交う形となっています。

 このような見解の相違は、今も埋められていないということになります。無理にまとめて自民党内外を過度に刺激しないことを優先したからです。
 時間をかければ、石破さんらの「2項削除」論はいずれ少数派になるという期待があるといいます。自民党の執行部は年明け早々に議論を再開する方針で、党幹部は「石破さんの言うことは分かるが、その通りに進めたらなかなか難しくなる」と漏らしたそうです。
 私は安倍9条改憲に向けての第1のハードルとして「自民党はまとまるのか」という問題を提起しましたが、このハードルを自民党は年内に越えることができませんでした。安倍9条改憲論との激突における緒戦での「戦闘」で、ひとまず防衛戦を突破されなかったということになります。

 しかし、自民党内での期待通り、来年に入れば改憲論議は進み、さらに攻勢は強まるでしょう。安倍首相は自民党内をまとめるために指示を出すにちがいありません。
 急がず慎重になっているのは、「今度こそ、確実に変えたい」と考えているからです。「本当は石破さんの言う通りなのだが、それでは国民の合意が得られないから、さし当り通りやすい案で妥協してもらいたい」ということなのでしょう。
 しかし、自民党改憲草案よりも妥協的だからと言って危険ではないというわけではありません。今後、安倍9条改憲論に意見集約が図られようとするでしょうが、その際に忘れてはならない3つの視点をここで指摘しておきたいと思います。

 第1に、安倍9条改憲によって平和と安全を強めることになるのか、という点です。そうはならないということについて、すでに多くの論者が指摘していますし、私もこれまでの論攷で繰り返し問題点を明らかにしてきました。
 その一つは「後法優位の原則」によって9条の2項が空文化されること、二つ目には書き込まれる自衛隊は集団的自衛権を一部行使容認となった新たな自衛隊であること、三つ目には朝鮮半島危機が高まっている中での変更は、自衛隊のみならず日本国民全体が戦争に巻き込まれるリスクを高めることなどです。
 安倍首相は「何かあったら、命を懸けられるようにする」と、改憲の目的を述べました。つまり、何かあったら米軍と共に戦争できるようにするためであり、それを憲法に明記すれば歯止めが失われ、北朝鮮の敵意を強めて国際テロの標的とされるリスクを高め、極東の平和と日本の安全を損なうことになるでしょう。

 第2に、「改憲勢力」とは何か、という点です。その内容はバラバラであり、必ずしも安倍首相がめざしている9条改憲論で統一されているわけではないという点が重要です。
 一つには、憲法は「不磨の大典」ではなく、96条に改憲手続きが定められているように、条文の書き換えによる「改正」は否定されていないこと、第2に、その場合でも憲法理念を破壊する「壊憲」は許されず、国民主権を否定する天皇元首化や基本的人権の尊重に抵触する緊急事態条項の新設、平和主義を破壊する自衛隊の書き込みなどは、「改正」ではなく「新憲法の制定」を意味すること、第3に、安倍9条改憲はこのような「壊憲」であって断固阻止しなければならないことを明らかにしなければなりません。
 つまり、公明党の言う新しい人権などを付け加える加憲論、維新の会が求めている教育の完全無償化、希望の党などが主張している地方自治の拡充、立憲民主党が掲げている解散権の制限など立憲主義の強化などと、安倍首相がめざしている9条改憲や緊急事態条項、法の下の平等を掘り崩す参院での合区解消論などとは根本的に異なっており、これらをごっちゃにして「改選勢力」として位置付けることは間違いなのです。この違いを明らかにして、安倍首相のめざしている「壊憲」の危険性を示して孤立させる必要があります。

 そして第3に、通常の改憲についても、今日の政治が直面している最優先の課題なのか、が問われなければなりません。改憲には、政治のエネルギーも時間も必要であり、国民投票ということになれば、それを実施するための費用が何百億円もかかるからです。
 今日の『毎日新聞』には「日本の世論」についての調査結果が掲載されていますが、それによれば、「重視する政策」として回答が多かったのは、「年金・医療」74%、「景気対策」45%、「子育て支援」36%、「外交・安全保障」36%と続き、「憲法改正」21%は8つある選択肢の中で最低になっていました。「9条加憲」については、「反対」50%、「賛成」45%と、反対の方が多くなっています。
 つまり、国民は「憲法改正」や「9条加憲」を望んでいないということです。いま政治が取り組むべき課題として重視するべきは、年金・医療、景気対策、子育て支援、外交・安全保障などであり、ここにこそ政治のエネルギー、時間、資金を注ぎ込むべきなのです。

 安倍首相が考えているような形で憲法を変えれば、自衛隊が憲法に位置付けられますから違憲ではなくなります。しかし、それで国民が重視している年金・医療、景気対策、子育て支援、外交・安全保障などの問題が解決されるのでしょうか。
 政治が本来取り組むべき重要な課題が別にあるのに、どうして今、改憲なのか。国民が感じているこのような疑問に、改憲を主張する人々は何よりもまず答えるべきなのではないでしょうか。

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