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8月12日(日) 国際政治の歴史的転換と日本の選択―いよいよ「活憲の時代」が始まる(その2) [論攷]

 〔以下の論攷は、憲法会議発行の『月刊 憲法運動』通巻473号、2018年8月号、に掲載されました。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

二、問われる日本の対応

 *「敗者」は安倍首相

 今回の米朝首脳会談をめぐる一連の経過において、もし「敗者」がいたとすれば、それは日本の安倍首相ではないでしょうか。
 「圧力」一辺倒で首脳会談実現の足を引っ張ったあげく、トランプ米大統領に貿易面で裏切られ、ロシアのプーチン大統領にも領土問題で騙され、北朝鮮の金正恩委員長からは相手にされず、韓国の文在寅大統領とはギクシャクしたままで、中国の習近平主席からも適当にあしらわれるという醜態を演じ、「蚊帳の外ではない」と叫びながら蚊帳の外で飛び回っている「一匹の蚊」のようになってしまったのですから。
 時にはアメリカの背後で軍事的な対応さえほのめかし、常に圧力のみを主張し続けてきたのが安倍政権でした。なかでも最悪だったのが、1月16日にカナダのバンクーバーで開かれた北朝鮮問題を話し合う外相会合で河野太郎外相が出した声明です。北朝鮮との外交関係の断絶や北朝鮮労働者の送還を求めたもので、北朝鮮代表団の平昌五輪への参加が予定され米朝首脳会談開催への動きが始まっていた段階でのこのような呼びかけは、日本政府がいかに事態の進展に無頓着で情勢変化を見誤っていたかを示す象徴的な失敗でした。
 その後、安倍首相は3月にトランプ大統領が対話に傾くとこれを歓迎し、5月に会談中止を発表すると「支持する」と表明しました。「やめるのをやめる」と会談が再び設定されると、「会談に期待したい」と言い出す始末です。
 安倍首相は信念から外交方針を変えたわけではありません。トランプ大統領の意向に合わせるしかなかったからで、徹底した対米追従です。「このままではバスに乗り遅れる」と考え、慌てて秋波を送ったにすぎません。
 しかも、心の中では米朝会談の「失敗」を期待していたことも見透かされています。安倍首相はさらなる関税引き上げなどの貿易戦争を仕掛けられることへの恐れから「米朝和解」に賛成せざるを得なかったのです。首相の本心は、北朝鮮を敵視し続けて政治的に利用し、北朝鮮や中国を仮想敵国とする在日米軍の駐留を続けてもらうことにあります。
 トランプ米大統領は在韓米軍を撤退させた後、在日米軍も撤退させるかもしれません。東アジアの平和体制をどう構築していくのか。日本の選択が問われることになりますが、独自の外交ビジョンを持たない安倍首相に対応できるのでしょうか。

 *拉致問題はどうなるか

 米朝和解の動きとは対照的に、日本との関係では北朝鮮の厳しい対応が際立っています。これまでの拉致問題をめぐる日朝交渉で北朝鮮は日本への強い不満を抱き不信感を高めてきたからです。なかでも安倍首相への嫌悪と反感は際立っており、それは米朝首脳会談後も払しょくされていません。
 拉致問題については米朝首脳会談で取り上げてもらいたいとトランプ大統領にお願いするだけでした。トランプ大統領は首脳会談で拉致問題を取り上げ、北朝鮮の金正恩委員長は「安倍首相と会う可能性がある。オープンだ」と前向きな姿勢を示したと伝えられました。
 しかし、これで拉致問題が解決に向けて動き出したわけではありません。安倍首相に対する北朝鮮側の評価は依然として厳しく、従来の態度を変えたという確証がもたらされていないからです。
 米朝首脳会談が開かれた2日後の6月14日、モンゴルで開催された国際会議の場で外務省の関係者と北朝鮮の関係者が短時間接触し、拉致問題の解決に向けた基本的な立場を伝えたと外務省が発表しました。これが首脳会談後の最初の「接触」です。
 外務省は「非公式に意見交換した」と発表しましたが、北朝鮮側の反応について外務省幹部は「(従来の姿勢と)大きな変化はなかったようだ」と語ったと報じられています。別の報道では、北朝鮮代表団の1人は「日本が提起する内容は今の良い流れを阻害しかねない」と語ったということで、拉致問題に対する拒否反応とみられています。
 つまり、これまでと変わらない反応だったということになります。米朝首脳会談で事態が大きく動くかのような期待は、またも裏切られたということです。このような見方を裏付けるように、北朝鮮の国営ラジオ「平壌放送」は6月15日の論評で、日本人拉致問題について「既に解決された」と言及しています。トランプ米大統領が米朝首脳会談で拉致問題を提起した後、北朝鮮メディアが従来の主張を表明したのは初めてのことでした。
 その後、『毎日新聞』6月27日付は「拉致問題『ない』 北朝鮮がけん制」という記事を報じました。平壌放送は26日に伝えた論評で、「日本は今日まで過去の犯罪について謝罪し賠償するどころか、逆にありもしない拉致問題をわめきたてて自らを『拉致被害国』に化けさせようと破廉恥に策動している」と非難したというのです。
 政府もマスコミも、このような事実をなぜきちんと国民に伝えようとしないのでしょうか。安倍首相によって拉致問題の解決に向けて事態が動き始めているかのような幻想をまき散らすことはやめるべきです。

 *安倍政権で日朝関係の打開は可能なのか

 国民の多くは、安倍首相では拉致問題は解決できないということを知っています。『毎日新聞』が6月23、24両日に実施した世論調査によれば、日朝首脳会談による日本人拉致問題の解決に「期待できる」は18%にとどまり、「期待できない」が66%に上りました。7割近くの国民は、安倍首相に期待できないと考えていることになります。
 それでは、どうしたらよいのでしょうか。それは日朝平壌宣言が示していた方向しかありません。拉致、核・ミサイル、植民地支配への謝罪と賠償など過去の清算という両国間の諸懸案を包括的に解決して国交正常化を目指すということです。これらの諸懸案を総合的に議論するなかで、拉致問題についても解決の道を見出すしかありません。
 しかし、日朝平壌宣言に沿った国交正常化交渉と緊張緩和に向けての包括的で総合的な対話も、北東アジアをめぐる平和体制の構築についても、安倍首相では不可能です。憲法の理念を活かした外交・安全保障政策には全く関心がなく、「戦争する国」「戦争できる国」をめざした好戦的な力の政策を推進し、軍事大国に向けて暴走を続け、憲法に自衛隊の存在を書き込む改憲案を提起しているからです。
 野党や世論の反対を押し切って特定秘密保護法、安保法制(戦争法)、「共謀罪」法などを制定し、防衛費も毎年の増額によって1兆2000億円も増やしました。長距離巡航ミサイルなどの攻撃的兵器を導入し、オスプレイの購入などによる防衛装備と自衛隊基地の増強、沖縄の辺野古での米軍新基地建設、教育での道徳の教科化や愛国心教育の強化などを強行しています。いずれも、軍事的対応による安全保障をめざしたもので、軍事力によらない安全保障を志向する憲法の理念に反するものばかりです。
 日本には憲法上の制約があるということを、安倍首相は全く理解していません。日本国憲法の前文には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあり、9条には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と書かれているからです。
 つまり、日本国民の「安全と生存」は武力によって保持されるのではなく、国際紛争の解決のための武力も「永久にこれを放棄」したのが日本なのです。このような憲法の規定からすれば、軍事的なオプション(選択肢)はありえません。
 また、北朝鮮との距離的な関係からして、日本は軍事的な手段を取ることができないということも安倍首相は認識していません。ICBMが開発されるずっと前から日本は中距離ミサイルの射程内に入っており、着弾までの時間は7~8分とされています。これだけの短時間での対応は、ほとんど不可能です。
 ミサイルの迎撃は技術的に難しく、撃ち落とせる以上の数を発射されればお手上げです。つまり、軍事技術的にミサイル迎撃は不可能であり、パトリオットミサイルやSM3、イージス艦や陸上イージスによるミサイルの迎撃などは気休めの空想にすぎません。軍事的な選択肢は、日本にとって初めから対象とすることのできないものだったのです。

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