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11月19日(月) 国民の支持なき安倍政権―暗雲漂う3選後の船出(その1) [論攷]

 〔以下の論攷は、社会主義協会が発行する『研究資料』No.39、2018年11月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

 はじめに

 9月2日に第4次安倍改造内閣が船出しました。総裁任期は2期6年までとされていた自民党の党則をわざわざ変更して3選を実現し、3期9年への道を開いたうえでの出発です。
 そうまでして長くやってもらうほど、安倍首相への世論の支持は大きなものだったのでしょうか。実態は逆です。『毎日新聞』が行った世論調査(10月6、7日実施)では、安倍内閣支持率は37%で9月の前回調査から横ばい、不支持率は1ポイント減の40%で、3月の調査から7回連続で不支持が支持を上回っていました。
 つまり、安倍内閣は国民に支持されていません。支持されていないのに第4次までの長期政権を迎えることになりました。国民の支持なき安倍政権の長期化という異常事態が生まれたことになります。
 その原因は小選挙区制という選挙制度にあり、この制度に賢く対応することができなかった野党のふがいなさにあります。その結果、自民党は多数議席をかすめ取り、安倍首相は国会内と自民党内での二重の「一強体制」を実現することに成功しました。
 しかし、それは虚構の多数派にすぎません。個々の政策において国民の要求とのミスマッチは拡大しています。長期政権になればなるほど、「驕り」や「飽き」も生じてきます。しかも、今後3年間は最後の任期ですから自民党内での後継争いが激しくなり、安倍首相の「死に体(レームダック)」化は避けられません。
 憲政史上最長の在任期間を視野に入れて出発した安倍首相ですが、その前途には暗雲が垂れ込めています。国民の支持という推進力を欠いた政権にとって、これからの航海は「風任せ」の不安定なものとなるにちがいありません。

1、 誤算に満ちた第4次安倍改造内閣の船出

 支持率を下げて出発した改造内閣

 安倍改造内閣の第1の誤算は、自民党総裁選で獲得した党員票の少なさと改造内閣への国民の冷ややかな反応です。総裁選で獲得した党員票がたったの55%だったことは安倍首相にとって最初の躓きでした。投票率が62%でしたから、投票権のある党員の34%しか安倍首相に投票していなかったことになります。
 そのうえ、内閣が改造されれば多少の「ご祝儀」があって支持率が上がるのが普通ですが、今回は全くありません。10月2、3日に実施された世論調査すべてで、改造を「評価しない」が「評価する」を上回り、内閣支持率も前回調査から『日経新聞』で55%から50%に5ポイント、共同通信でも47.4%から46.5%に0.9ポイント下落し、『読売新聞』でさえ50%と横ばいでした。
 このような結果になった最大の原因は、改造された自民党役員と閣僚の顔ぶれにあります。本来ならとっくに辞めていなければならない麻生太郎副総理兼財務相の残留が大きな批判を浴びましたが、安倍首相にとっては党内第2派閥のサポートを確実にするための選択だったと思われます。
 新入閣組が12人と多くなったのは、応援してもらった派閥に「恩返し」するためです。女性の入閣者は片山さつき地方創生担当相だけで、過去の言動やスキャンダルが問題になりそうな面々がそろい、衆院当選7回以上のベテランなのに初入閣が7人もいます。
 こうなったのは「待機組」を派閥の推薦通りに受け入れたからです。ここに安倍首相の力の弱体化を見ることができます。初入閣が多ければ大臣としての手腕や国会での答弁、普段からの言動などに不安が生じますが、早速、柴山昌彦文科相が「アレンジした形で、今の道徳などに使える分野があり、普遍性を持っている部分がある」などと教育勅語を評価して追及を受けました。
 今回の改造の特徴の第1は、閣僚の多くを極右勢力が占めている点にあります。改憲右翼団体と連携する神道政治連盟国会議員懇談会には公明党の石井啓二国交相以外の19人全員が加盟歴を持ち、日本会議国会議員懇談会には15人が加盟しています。安倍首相に「右を向け」と言われなくても初めから右を向いているような人ばかりです。
 第2の特徴は「改憲シフト」です。臨時国会での改憲発議のための布陣として、盟友の下村博文自民党憲法改正推進本部長と加藤勝信総務会長、衆院憲法審査会に新藤義孝与党筆頭幹事を新任しました。
 第3の特徴は来年春の統一地方選挙と参院選に備えた「選挙シフト」です。甘利明選対委員長、稲田朋美総裁特別補佐兼筆頭副幹事長、萩生田光一内閣官房副長官という側近を起用しています。受託収賄の疑いや自衛隊日報隠蔽問題などで辞任した甘利氏と稲田氏、加計学園疑惑で名前が出た萩生田氏などの側近の起用も世論の反発を高める結果になったと思われます。

 沖縄県知事選挙での予想外の大敗

 安倍首相にとっての第2の誤算は、沖縄県知事選での予想を越えた大敗です。佐喜間候補が当選できなかったことも誤算だったでしょうが、それ以上に8万票という大差の衝撃の方が大きかったのではないでしょうか。
 安倍政権が菅官房長官、二階幹事長、小泉進次郎議員などを総動員し、連立相手の公明党が原田創価学会会長はじめ6000人とも言われた学会員を送り込んでも勝てませんでした。この民意を尊重することこそ民主主義のあるべき姿にほかなりません。沖縄への敵視政策を改めて、辺野古での新基地建設は直ちにストップするべきです。
 今回の知事選では、民主的な選挙のあり方も問われました。「辺野古での新基地建設の是非」という最も重要な争点についての政策を示さず、ひたすら当選を目指す「争点隠し選挙」自体が有権者の審判を受けたという点も重要です。
 安倍政権はカネと利益で誘導し、徹底した組織戦で締め上げながら期日前投票で囲い込めば勝てると考えたのでしょう。しかし、力で屈服させようという強引な選挙戦術はかえって県民の反発を買い、逆効果になりました。
 こんなやり方は、もう通用しません。「争点隠し」と「利益誘導」によって組織戦を展開し、期日前投票に動員するという「勝利の方程式」は「敗北の方程式」に変わってしまったのです。政権側は選挙戦術の見直しを迫られることになるでしょう。
 逆に、野党側は市民と野党との共闘こそ真の「勝利の方程式」であり、大きな威力を発揮できるということを学びました。辺野古新基地建設反対と普天間飛行場の即時閉鎖・返還という最大の争点を前面に掲げて「オール沖縄」を野党共闘が支え、一部の保守や創価学会、7割もの無党派層の支持を集める闘い方こそ、市民と野党の側にとっての「勝利の方程式」だということが再び証明されたのです。

 2国間交渉に引きずり込まれた日米貿易問題

 第3の誤算は、日米貿易交渉におけるアメリカの対応です。これも、トランプ米大統領との親密な個人的関係を自慢していた安倍首相にとっては、大いなる誤算だったにちがいありません。日本にとっては不利になるから受け入れないとしていた2国間交渉に早々と引きずり込まれてしまったからです。
 日米共同声明についての改ざん疑惑も生じています。在日米国大使館の日本語訳では「物品、またサービスを含むその他重要分野における日米貿易協定の交渉を開始する」とされ、ハガティ駐日米大使も「われわれはTAGという用語を使っていない。……物品と同様にサービスを含む主要領域となっている」と発言しています。
 ところが、外務省の日本語訳では「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉を開始するとなっています。物品だけの交渉であるかのような用語をねつ造して「包括的なFTAとは、全く異なる」という安倍首相の発言との整合性を図ろうとしたのかもしれません。
 森友学園疑惑で安倍首相の発言とつじつまを合わせるために公文書が改ざんされた構図と極めて似通っています。アメリカのペンス副大統領は10月4日の演説で「日本と歴史的な自由貿易交渉(Free Trade Deal)をまもなく始める」と述べ、パーデュー米農務長官も日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)などを上回る農林水産品の関税引き下げを求める考えを示唆して強硬姿勢を鮮明にしました。日本政府のウソがばれるのもそれほど先のことではないでしょう。

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