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4月12日(金) 五十嵐仁・木下真志/法政大学大原社会問題研究所編『日本社会党・総評の軌跡と内実―20人のオーラル・ヒストリー』(旬報社)が刊行された [日常]

 五十嵐仁・木下真志/法政大学大原社会問題研究所編『日本社会党・総評の軌跡と内実―20人のオーラル・ヒストリー』が旬報社から刊行されました。社会党と総評の関係者20人からの聴き取りの記録です。
 660頁という大部のもので、本体の価格6300円、税込みですと6804円になります。私を通じて注文していただければ多少安くなると思いますので、ご希望の方は連絡していただければ幸いです。
 すでに3月中に出ていたのですが、このブログに書くべきことが多く、今まで紹介する余裕がありませんでした。以下に、私の書いた「はしがき」をアップさせていただきます。 

 はしがき

 本書は、大原社会問題研究所のプロジェクトとして行われた日本社会党(社会党)と日本労働組合総評議会(総評)関係者からの聴き取りの記録である。当初、社会党関係者だけを対象としていたが、「社会党―総評ブロック」と言われたように総評とも深いかかわりがあるため、その両者の関係者からの聴き取りを行うようになった。
 この聴き取りの中心になったプロジェクトの前身は、大原社会問題研究所の研究プロジェクトである戦後社会運動史研究会であった。この研究会は大原社会問題研究所叢書として、『「戦後革新勢力」の源流』(大月書店、2007年)と『「戦後革新勢力」の奔流―占領後期政治・社会運動史論1948-1950』(大月書店、2011年)という2冊の成果をまとめて解散している。
 その後、この研究会の一員であった木下真志氏の提起によって、新たな研究会を立ち上げることになった。大原社会問題研究所にはオーラル・ヒストリーを中心とする研究プロジェクトが活動してきた歴史があった。これらの研究の系譜を受け継ぎ、戦後の社会党に焦点を当てたプロジェクトを立ち上げることには大きな意義があると考えたからである。
 このようなオーラル・ヒストリー関連の成果としては、『証言 産別会議の誕生』(総合労働研究所、1996年)、『証言 産別会議の運動』(御茶の水書房、2000年)、『証言 占領期の左翼メディア』(柏書房、2005年)、『人文・社会科学研究とオーラル・ヒストリー』(御茶の水書房、2009年)などがある。本書も、これらの研究の流れを受け継いでいる。
 私や木下氏とともにこの聞き取りに参加されたのは、雨宮昭一、有村克敏、岡田一郎、鈴木玲、芹澤壽良、園田原三、浜谷惇、兵藤淳史、細川正、中根康裕、南雲和夫、山口希望らの方で、事務局として活動を支えたのは大原社会問題研究所の枡田大知彦兼任研究員(当時、前半)と米山忠寛兼任研究員(後半)であった。このプロジェクトがこのような成果に結実することになったのは望外の喜びであり、聴き取りに応じ協力して下さった関係者はもとより、プロジェクトに参加された皆さんにも感謝したい。

 社会党は終戦の年である1945年11月2日に結成された。委員長は空席で片山哲が書記長に選出されている。以降、半世紀に及ぶ活動を積み重ね、1996年1月14日の第64回定期大会で党名を社会民主党に改め、苦難と波乱に満ちた歴史を閉じた。この時の党首は村山富市、幹事長は佐藤観樹であった。
 他方、総評は1950年7月11日に結成大会を開催した。議長に選出されたのは武藤武雄で、島上善五郎が事務局長になっている。以後、労働組合運動のナショナルセンターとして「昔陸軍、今総評」と言われるほどの影響力を発揮する時期もあった。しかし、次第に力を弱めて1989年11月21日に解散し、この日に結成された日本労働組合総連合会(連合)に合流した。このときの会長は山岸章で、事務局長は山田精吾である。
 社会党が社会民主党に党名を変えてから、すでに20年以上が経過した。総評が解散して連合に合流してからでも30年近くになる。社会党も総評も「歴史」となった。その組織と活動を支えた幹部の多くは鬼籍に入り、その足跡を証言できる方も日々減少している。本書に収録されている証言者も三分の一ほどの方が亡くなり、本書での証言は「遺言」とも言えるものになっている。
 聴き取りの対象は国会議員や幹部として活躍された「ライン」よりも、裏方として実際上の活動を担った「スタッフ」を重視して選定した。これらの人々こそが社会党や総評の軌跡や内実をよく知っており、実際の姿を浮き彫りにするうえで貴重な証言が得られるのではないかと考えたからである。それは現場で苦闘した「内なる声」として貴重であるだけでなく、その時々の選択の背景を知ることができる「歴史の声」としても大きな価値がある。
 その狙いが裏付けられているかどうかは本文の証言によって確かめていただきたい。少なくとも、このような証言者の協力を得ることができたところに本書の特徴があり、一定の価値も生まれているのではないだろうか。表舞台ではない舞台裏で活躍した人々の証言は、マスコミで報道されることのない秘められた実像を浮かび上がらせているからである。

 民主党中心の連立政権の失敗に対する反動から、自民党はその支持基盤を再び強化し安倍晋三政権の樹立に成功した。他方で、野党陣営は分裂と再編を繰り返し、日本の政界は〝一強多弱〟の状態に陥った。総評に代わって日本の労働組合のナショナルセンターとなった日本労働組合総連合会(連合)も労働環境の悪化に対して「物わかりの良い」対応に終始し、労働者を守る組織としての役割を充分に果たしているとは言い難い。
 このような状況を打破するためには、先人の言動に学び、そこからの教訓を引き出し、野党や労働組合が何をなすべきかというヒントを得る努力をする必要があるのではないか。本書はそのような思いから編まれた。
 本書の対象である「社会党―総評ブロック」は自民党とともに「55年体制」を支えた柱であり、戦後政治を担った屋台骨の一つでもあった。しかし、ほんの一時期を除いて政権に参画することはなく、結果としてみれば「万年野党」の地位に甘んずることになった。
 その原因は、どこにあったのか。本書に収録された証言の中からその答えのヒントを探ることができるに違いない。そのためにも、社会党・総評の軌跡と内実を振り返り、その活動に青春をかけ人生を費やした人々の声に耳を傾けていただければ幸いである。                                      

 なお、本書に収録した証言は『大原社会問題研究所雑誌』に連載されており、本書はそのエッセンスである。それぞれの証言者が政治や社会に関心を持ち、社会党や総評の活動に加わるようになった経緯や背景についての回顧は基本的に削除した。省略部分についての証言も知りたいと思われる方は、各証言の末尾に記されている『大原社会問題研究所雑誌』の掲載号を参照していただきたい(ウェッブ上のURLにもアップされている)。
 また、収録されている証言には質疑が付随していないものもある。これは雑誌編集上の方針の変化を反映したものであり、特別の意味があるわけではない。

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