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11月2日(土) 参議院選挙後の情勢と課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、東京土建が発行する『建設労働のひろば』No.112、2019年10月号、に掲載されたものです。3回に分けて、アップさせていただきます。〕

2、野党共闘の威力と進化・発展

 参院選1人区での善戦

 今回の参院選での最大の注目点は、32ある1人区で野党共闘が大きな成果を収めたことです。その結果、改選2が10議席へと5倍になりました。3年前にも1人区での野党共闘が実現し、11人の当選という成果を上げています。
 今回は3年前よりも1議席少なくなりました。しかし、その内容を子細に見れば、質的には大きな前進だったことが分かります。
 32人の統一候補のうち前回は現職が11で新人が21でしたが、今回は現職が1、元職が1で、あとは全て新人でした。それも5月の連休明けからバタバタと決まった人がほとんどです。
 これに対して、対立候補は全て自民党の現職ですから、知名度において圧倒的な差がありました。徒競走であれば「ヨーイ、ドン」で一斉にスタートするところですが、野党共闘の候補はずっと後ろの方からスタートせざるを得なかったのです。
 『毎日新聞』7月6日付は選挙戦序盤の情勢を報じていました。それによれば、自民優勢が21選挙区で野党優勢は5選挙区にすぎず、接戦選挙区は6になっていました。結果は野党の勝利が10選挙区でしたから、接戦の6選挙区のうち5選挙区で野党が追い付き、追い越したことが分かります。
 そうなったのは野党共闘が「上積み効果」を生じ、比例代表で野党4党が得た票の合計より29選挙区で上回ったからです。その平均は26.6%増で、合計得票を下回ったのは、福井、宮崎、山口の3選挙区にすぎません。
 野党が共闘すれば、諦めていた有権者も投票所に足を運んで野党候補に投票するということが裏付けられました。山形では60.74%、岩手では56.55%、秋田では56.29%、新潟では55.31%、長野でも54.29%と軒並み投票率が平均を上回り、野党の統一候補が当選しているからです。
 市民と野党が共闘して候補者を一本化すれば、新たな「受け皿」となって有権者の投票行動を促すことが実証されたのです。共闘は野党各党の支持者の票を合計するだけでなく支持政党のない無党派層も引き寄せ、特定の政党を支持しているわけではないが野党共闘だから支持するという新しい革新無党派層を誕生させました。それが野党の統一候補を押し上げる大きな力を発揮したのです。

 政策合意の発展

 今回の選挙では、市民と野党の間の政策合意も大きな力となりました。選挙での共闘には「野合ではないか」という批判がつきものですが、政策合意なしに当選だけを目的にすればそう言われても仕方がありません。しかし、政策について合意しその実現のために当選を目指すというのであれば、「野合」ではなく立派な「共闘」になります。
 参院選での野党共闘は、このような意味で「野合」ではありません。5月29日に、立憲・国民・共産・社民・「社会保障を立て直す国民会議」(社保)の5野党・会派が「共通政策」に合意したからです。6月13日には幹事長・書記局長会談が開かれ、32の1人区すべてで一本化が完了したことが確認され、本格的なスタートが切られました。
 このような政策合意は、歴史的に発展してきたものです。その出発点は、2016年の参院選に向けて結ばれた「5党合意」でした。この時は4項目で、政策的には「安保法制の廃止」だけが掲げられていました。
 その翌年の2017年9月26日、総選挙を前にして市民連合は「野党の戦い方と政策に関する要望」を出しました。それは、①9条改憲反対、②特定秘密保護法、安保法制、共謀罪法などの白紙撤回、③原発再稼働を認めない、④森友・加計学園、南スーダン日報隠蔽の疑惑を徹底究明、⑤保育、教育、雇用に関する政策の拡充、⑥働くルール実現、生活を底上げする経済、社会保障政策の確立、⑦LGBT(性的マイノリティー)への差別解消、女性への雇用差別や賃金格差の撤廃という7項目で、量的にも質的にも大きく発展しています。
 今回の「共通政策」は2倍近い13項目となり、合意の幅はさらに広がりました。新たに加わったのは、①防衛予算、防衛装備の精査、②沖縄県新基地建設中止、③東アジアにおける平和の創出と非核化の推進、拉致問題解決などに向けた対話再開、④情報の操作、捏造の究明、⑤消費税率引き上げ中止、⑥国民の知る権利確保、報道の自由の徹底の6項目です。
 内容的にも、改憲発議阻止や日米地位協定の改定、原発ゼロの実現、税制の公平化、最低賃金「1500円」、公営住宅の拡充、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリティ)の実現、内閣人事局のあり方の再検討、新たな放送法制の構築など充実が図られています。
 作成過程も前回とは異なり、共産党の笠井亮政策委員長は「市民連合から政策の原案が提起され、5野党・会派で協議して練り上げ、市民連合に提起するという1カ月間にわたるキャッチボールがあり、そのうえで最終的な調印となりました」と語っています。市民連合の側から一方的に提示され、それを各党が丸呑みしたわけではありません。
 これに対して自民党は6月7日に選挙公約を発表しました。重点項目に「早期の憲法改正を目指します」「本年10月に消費税率を10%に引き上げます」と明記し、6つの柱の第一を「外交・防衛」として「防衛力の質と量を抜本的に拡充・強化」することを掲げ、沖縄の「普天間飛行場の辺野古移設」についても「着実に進める」ことを打ち出しました。原発についても再稼働を進めることを明らかにしています。
 自民党の参院選公約と5野党・会派の「共通政策」は、真っ向から対立するものでした。参院選に向けての対立軸は明確になり、野党の共通政策は安倍政権を倒した後の方向性も示していました。その意味では、新たな連立政権樹立に向けての政策的な基盤をつくり出す、希望に満ちたものだったと言えるでしょう。

 新たな展望

 参院選からその後にかけて、市民と野党との共闘における新たな可能性と展望が切り拓かれました。これは野党共闘と連立政権樹立に向けた重要な前進です。
 第1に、市民と野党の共闘は特別なことではなく、当たり前になったことです。この共闘で市民連合が大きな役割を果たし、共産党が含まれるのも当たり前の光景になりました。
 その共産党の候補者が統一候補になったのも3年前は香川の1選挙区だけでしたが、今回は、福井、徳島・高知、鳥取・島根の3選挙区で、しかも、後の二つ選挙区では、衆院補選の大阪12区での「宮本方式」を踏襲して無所属で立候補しました。
 草の根での共闘も大きく前進しました。共同行動や連携は当たり前になり、衆院小選挙区レベルで市民連合が結成され、集会で相互のあいさつやエールの交換がなされたりする中で顔見知りになって仲良くなり、人間関係ができて信頼も強まるなど、草の根での共闘は大きく発展しています。
 第2に、れいわ新選組という新しい政党が誕生したことです。この政党は「消費税廃止」以外では、野党共闘が掲げる政策合意と似通った政策を掲げた左翼リベラル政党でした。しかも、若者を中心に既存の政党に飽き足らない革新無党派層を引き付ける新鮮な魅力を発揮して急成長した「左派ポピュリズム政党」でもあります。
 既存の左翼政党にとっては手ごわいライバルの登場ですが、同時に安倍政権打倒に向けての強力な援軍でもあります。野党共闘の推進という点では、共産党と並ぶもう一つの「機関車」になり得る可能性を秘めています。
 実際、9月12日に行われたれいわと共産党の党首会談で、「野党連合政権」構想の取りまとめを視野に、次の衆院選に向けて連携を進めていくことで一致しました。また、市民連合の協定を土台にすることが合意され、消費税については廃止を目標にしつつ10%増税の阻止に全力を挙げ、財源を明確にすることも明らかにされました。これは消費税廃止という目標以外では、立憲・国民・社保・社民も合意できる内容です。
 第3に、参院選後も、野党共闘の発展に向けての新たな動きと成果が生まれていることです。前述のれいわと共産党の合意以外にも重要な動きがありました。
 その一つは、新たな国会内統一会派の結成です。立憲と国民の両党は統一会派の結成で合意し、これに社保と社民も合流することになりました。「希望の党騒動」で分裂した旧民進党の復活への動きとして注目されますが、小沢グループや社民も加わり、さらに幅広いものになっています。
 もう一つは、地方の首長選挙での野党共闘候補の当選です。参院選後に実施された埼玉県知事選では野党共闘で立候補した大野元裕候補が当選し、その後に行われた岩手県知事選でも野党共闘の達増拓也候補が大差で当選しました。この間に行われた立川市長選では野党共闘候補が敗れたとはいえわずか257票という僅差です。
 今後、埼玉選挙区での参院補選や高知県知事選がありますが、これらの選挙でも野党共闘での候補者擁立が模索されています。市民と野党が共闘して与党の候補者と1対1で対決すれば勝てるということが示されれば、さらに野党共闘に弾みがつくにちがいありません。

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