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9月14日(月) 韓国のウェブメディア《NEWSTOF》に掲載されたインタビュー(その2) [論攷]

〔以下のメール・インタビューは、韓国のウェブメディア《NEWSTOF》2020年9月8日付に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

Homepage: http://www.newstof.com/news/articleView.html?idxno=11259
【NEWSTOF緊急対談】 日本の進歩学者 五十嵐仁教授が見た「ポスト安倍」

5.日本製鉄の強制徴用工訴訟や輸出規制など、安倍政権は日本の政治が韓国の現実にも十分な影響を及ぼすということを実感させたと思います。それなら逆に安倍首相の辞任によって(無論官僚の惰性は存在しますが)日韓関係の変化を期待できるのではないでしょうか。

 安倍政権を支えてきたのは、菅義偉官房長官、麻生太郎副首相兼財務相、二階俊博幹事長の3人でした。この3人が大きな力を発揮する構造が変わらなければ、安倍なき「安倍政治」が続くだけです。後継総裁に菅官房長官が選出されれば、自民党は変化よりも継続を選んだことになります。外交面でも大きな変化は生じないでしょう。
 とはいえ、自民党の中でも安倍首相はイデオロギー的に極右で、歴史に対する無知、過去の侵略戦争と植民地支配への無反省、加害の歴史への無自覚という点で際立っています。韓国への敵意も極めて強いものがありました。そのような安倍首相が辞めることによって、政府としての外交上の敵意は多少和らぐかもしれません。しかし、自公政権が続く限り基本的な変化は望めないでしょう。

6.韓国では歴代最高水準の反日感情が広まっており、日本でも嫌韓感情が高まっています。 韓国では輸出規制など日本の安倍政権の敵対的政策のためだと考える一方、日本では韓国の最高裁の日本製鉄強制徴用工訴訟の判決によって、日韓関係が悪化したという認識を持つようになったと聞きました。新首相が就任しても、根本的にこの問題が解決されなければ日韓関係は解決しないと考えている人が多いです。 この問題についてどのようなお考えでしょうか。 そして、どのような解決策があるのでしょうか。

 基本的な問題は自民党政治家の多くが戦前からの支配層の子孫や末裔で、東条英機内閣の閣僚だった岸信介の孫である安倍晋三のように2世・3世議員も多いという点にあります。そのために歴史を直視できず、過去の侵略戦争と植民地支配などへの反省がないという根本的な問題を抱えています。
 この戦前からの保守政治の流れを切断しなければ基本的な変化は生じず、歴史認識に関わる問題は繰り返されるにちがいありません。これを断ち切る形での政権交代が実現し、過去の歴史を直視でき加害責任を自覚できる質的に新しい政権を樹立する必要があります。日韓関係の改善と真の友好を実現するためにも、自民党政権に代わる新たな政権の樹立は不可欠になっています。

7.最近、韓国ではあまり注目しない日本の重要な現象を一つ指摘しなければなりません。 市民と野党の共闘を通じて安倍政権に対抗してきた民主勢力の存在です。候補一本化の失敗で、東京都知事選挙では結果を出せませんでしたが、日本の民主勢力はこれまで成長を重ねてきました。 実際に前回の参議院選挙では、自民党だけの支持率などを見ますと事実上の敗北に近い結果で、小選挙区制を頼りに延命したといっても過言ではないでしょう。 要は総理の解任でなくても、次の衆議院選挙で再び対決局面が形成されたというのが筆者の判断ですが、先生の見解はいかがでしょうか。

 市民と野党の共闘こそ、新たな政権樹立の可能性を生み出す力です。政権交代に向けての「活路は共闘にあり」ということです。外交問題をはじめ、積年の問題解決のカギは野党連合政権の樹立にあります。小選挙区制という制度は多数党に有利で、自民党はこの選挙制度に助けられてきました。この制度の下で勝利するためには、バラバラではなく候補を一本化しなければなりません。
 2015年の9月に日本共産党が国民連合政権を提唱し、翌16年の2月に参院選での選挙協力を約束した「5党合意」が結ばれました。その年の参院選では1人区で11人、3年後の2019年参院選でも1人区で10人の野党統一候補が当選し、2年前の衆院選では野党第一党である民進党の分裂と立憲民主党の誕生という混乱を乗り越えて野党共闘が成果を上げています。先の都知事選でも、立憲民主党と共産党を軸にした共闘が成立し、25の小選挙区の全てで市民選対が成立しました。これらの実績を生かして、次の総選挙で市民と野党の共闘が成立し、立憲野党の候補者を一本化できれば、真の政権選択の選挙になるでしょう。

8.それでもなお保守派が多数を占める自民党の雰囲気を見ますと、究極的な日本社会の変化は市民と野党の共闘の勝利によってはじめて可能になると思います。 しかし、問題は日本国外から見ますと、市民と野党の共闘は自民党に比べると依然として弱体に感じられるという点です。 第二の政権交代が実現する見通しはあるのでしょうか。

 過去2回、1993年と2009年に政権交代が生じ、自民党は野党になっています。次の総選挙でも市民と野党の共闘が成立すれば、自民党が過半数を失う可能性があります。この間、野党の側で注目すべき変化があったからです。
 それは、立憲民主党と国民民主党という野党第1党と第2党が共に解党し、他の二つの無所属グループと共に「大きな塊」となって新しい政党を結成するという動きです。最大の労働組合ナショナルセンターである連合がこれに協力し、政策的にも新自由主義からの脱却とコロナ禍による危機対応のための消費税率の引き下げなどを打ち出しました。これは過去の民主党の再生ではなく、共産党と連携するリベラルな共闘志向の全く新しい政党で、野党共闘が大きく前進する可能性が生まれています。

9.現在、コロナ禍は各国に(良い意味でも悪い意味でも)色んな様相の変化をもたらしています。日本も例外ではないと思いますが、このような環境の中で変化を望む市民の願いと行動も具体化していくのではないかと思います。 これから日本社会で起こる変化の流れについて先生のコメントをお願いいたします。

 世界中でコロナ禍は現代社会が抱えている問題点を浮き彫りにし、可視化しました。分断され、貧困化が進み、格差が拡大し、医療や福祉が貧弱で少数派が報われないような社会はコロナ禍に対して極めて脆弱だということを分かり易く示したのです。儲け本位で経済恐慌と貧困化を生み出し、開発と市場の拡大、環境破壊を制御できない資本主義の限界や、効率最優先で規制緩和を進め、公共的なセイフティーネットを破壊して自己責任論を拡大してきた新自由主義の過ちも明らかになりました。
 ポストコロナの社会は「新しい生活様式」を求めていますが、同時にこのような現代社会の脆弱性を克服して新自由主義の過ちを是正できるような「新しい政治様式」も必要とされています。コロナ対策に失敗して行き詰まり、政権を投げ出した安倍なき「安倍政治」では、このような政治は実現できません。
 世界を見渡せば、アメリカでの人種差別問題(BLM)を契機に、過去の奴隷貿易や植民地支配の歴史に対する見直しも始まっています。自由と人権が守られ、平等で差別のない民主的な社会を生み出すことは、新たな世界の潮流となりました。日本も、歴史修正主義の誤りを克服して過去の侵略と植民地支配の歴史を見直し、差別やヘイトのない社会をめざす必要があります。市民と野党の共闘による新しい連合政権の樹立こそ、その出発点になるでしょう。安倍首相の退陣は、戦後長く続いた日本における保守支配の終わりの始まりになるでしょうし、そうしなければなりません。

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