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12月17日(木) 日本政治の現状と変革の展望(その4) [論攷]

〔以下の論攷は、日本民主主義文学会の『民主文学』2021年1月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

4、変革への鳴動

 市民と野党の共闘をめぐる新しい動き

 菅新政権の発足と同時に、立憲民主党と国民民主党が共に解党し、それぞれ立憲民主党と国民民主党に再編されました。これはかつての民主党や民進党の再現ではありません。市民と野党の共闘を推進する立場に立ち、新自由主義と反共主義から抜け出した150人を擁する野党第一党の誕生を意味しています。
 この過程で大きく変わったのは、労働組合ナショナルセンターである連合の立ち位置です。民進党を分裂させた「希望の党騒動」のとき、神津里季生連合会長は小池百合子都知事や前原誠司民進党代表と共に分裂を画策しました。しかし、今回は国民民主党の玉木雄一郎代表を説得し、新党結成に協力する立場に立ちました。
 このような形で連合が共産党などと共に行動するのは、リーマンショック後の年越し派遣村以来です。今回はコロナ禍の下での方針転換です。いずれの場合も、労働者の置かれている状況が急速に悪化し、賃金と雇用条件の低下によって生じた労働組合の危機が背景にあります。
 派遣村で生じた共同への胎動は脱原発運動に受け継がれ、特定秘密保護法や安保法制、「共謀罪」法反対運動などへと発展してきました。とりわけ、2015年の安保法反対運動の中で沸き上がった「野党は共闘」という声は、翌2016年2月の民主党・日本共産党・維新の党・生活の党・社民党による参院選での共闘に向けた「五党合意」に結実します。
 その後、この市民団体と野党との共闘の流れは、紆余曲折を経ながら太く大きくなり、共闘志向の野党第一党を生み出すまでに発展してきました。こうして新たな「受け皿」が形成され、共闘をめぐる新たな条件が生まれたのです。

 政策合意の発展

 新たな発展を遂げたのは政策合意においても同様です。2020年9月19日、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」は「立憲野党の政策に対する市民連合の要望書」を発表し、立憲民主党・日本共産党・社民党・国民民主党・れいわ新選組などに対して申し入れました。
 これは4本柱15項目で、「いのちと人間の尊厳を守る『選択肢』の提示を」との副題が付けられ、「利益追求・効率至上主義(新自由主義)の経済からの転換」「消費税負担の軽減」「原発のない社会と自然エネルギーによるグリーンリカバリー」「持続可能な農林水産業の支援」などを掲げています。2019年の参院選前に市民連合と5野党・会派が合意した13項目の「共通政策」をさらに発展させたものです。
 このような政策合意の出発点は前述の2016年の「5党合意」でしたが、この時は4項目にすぎず、政策的には「安保法制の廃止」だけが掲げられていました。翌年の総選挙を前にした2017年9月26日、市民連合は再び「野党の戦い方と政策に関する要望」を出し、さらに2019年5月にも「共通政策」を提示し、合意の幅はさらに広がりました。
 今回の「要望書」は分量も増え、内容的にも一段と充実したものとなっています。1年以内に確実に実施される総選挙という「天下分け目の合戦」に向けての大きな旗印です。市民と野党の共闘による政権交代に向けて新たな選択肢を示すものとなるでしょう。

 解散・総選挙に向けて

 菅新首相が誕生した9月16日、野党の側にも注目すべき動きがありました。衆院の首班指名選挙で、立憲・国民・共産・社民・れいわの野党が初めて立憲民主党の枝野幸男代表に投票したのです。来るべき野党連合政権が、おぼろげながら姿を現した瞬間でした。
 次の総選挙で、これらの野党が力を合わせて多数派になれば、新しい連合政権を樹立することができます。その可能性は、市民と野党の共闘の核となる立憲民主党という新しい大きな塊が誕生したことで、一段と現実味を増しています。
 しかも、一方の菅新政権は新自由主義に基づく「自助」型の自己責任社会の旗を掲げ、他方の立憲民主党などの野党は新自由主義から抜け出して「いのちと暮らしを守る」社会の実現を提起しています。将来社会のビジョンをめぐる対抗軸も鮮明になりつつあります。
 今後は市民連合の「要望書」を基にした政策合意を図りつつ、小選挙区での統一候補の擁立をめざさなければなりません。一時的な選挙共闘ではなく、政権を共にすることを合意して政権交代をめざす決意をはっきりと示す必要があります。
 このようにして初めて、野党連合政権樹立に向けての本気度を有権者に示すことができるのではないでしょうか。「新しい政治」に向けての希望を生み出し、政権交代の「受け皿」として選択を問う選挙とし、投票率を上げられれば野党共闘の勝利を生み出すことができます。

 むすびに代えて―コロナ後に目指すべき「新しい政治」

 新型コロナウイルスの急速な拡大によって、世界は大きな問題に直面しました。日本も例外ではありません。このような感染症の拡大に対して、ひたすら市場の拡大を進めて環境を破壊する資本主義や、経済効率最優先で自己責任社会を生み出してきた新自由主義の害悪が明瞭になりました。
 このような社会システムの下ではセーフティーネットが破壊され、社会の維持と運営に不可欠な労働者たち(エッセンシャルワーカーズ)が虐げられ、人々の健康と生命、生活と生業を守ることができないことが明らかになりました。このような社会の脆弱性を克服するためには社会構造の大転換(パラダイムシフト)が必要になります。
 そのような転換のための見取り図は、すでに存在しています。日本国憲法を政治と暮らしに活かすことによってこそ、人権を保障し、国民のいのちと暮らしを守る「新しい政治」を実現することができるからです。「活憲の政治」こそ、コロナ後の日本が目指すべき青写真であり、「新しい政治」の姿にほかなりません。
 そのためには、安倍前首相がめざし、菅首相も受け継いでいる改憲策動を最終的に打ち砕き、憲法を守り活かすことのできる新しい政権を樹立する必要があります。市民と野党の共闘による連合政権の樹立です。来るべき総選挙が、そのための大きなチャンスとなるにちがいありません。菅政権を、最後の自公政権とするチャンスに。(2020年10月31日脱稿)

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