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3月30日(水) 『日刊ゲンダイ』に掲載されたコメント [コメント]

〔以下のコメントは『日刊ゲンダイ』3月30日付に掲載されたものです。〕

*巻頭特集「ただ追随の岸田政権 「戦争」「制裁」で支持率上昇の危うさ」

 先週までに行われた他メディアの世論調査でもおしなべて支持率は回復基調だ。3回目ワクチン接種の遅れなど新型コロナ感染の拡大で、2月は支持と不支持が逆転する調査もあったのに、岸田政権に対する世論の不満はすっかり消え去ったかのようだ。

 2.24のロシアのウクライナ侵攻以降、報道は戦争一色となり、コロナ関連のニュースは激減した。

 高齢者施設でのクラスターがまだ続き、東京の新規感染者は27日と28日の2日連続で前週を上回る下げ止まり兆候が出てきているが、メディアも世論も気に留めない。

 だが、この半年間で岸田政権に一体どんな成果があるというのか。「戦争」や「制裁」を理由に「岸田首相はよくやっている」というムードは極めて危うい。

 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。

 「世論がプーチンの横暴に憤りを覚えるのは自然なことですが、その結果、好戦的な雰囲気が高まり、時流に乗っかって支持を回復しているのが岸田首相です。議論なく武器輸出の原則を緩めて防弾チョッキをウクライナに送りましたが、それで本当によかったのか。急激な円安で経済の先行きが不透明になり、エネルギーや食料品の価格上昇は国民生活を苦しめることになるが、岸田政権は現状、何も手を打っていないに等しい。『ウクライナを助けよう』という報道ばかりの新聞・テレビが国民から思考力を奪っている面もあります」

■外交努力を軽視

 それでも、防衛力強化に向けた動きは加速の一途だ。岸田は国会で「敵基地攻撃能力」を持つことを検討すると明言。今月13日の自民党大会では、「憲法改正という党是を成し遂げよう」と呼び掛けた。外交・安全保障政策の長期指針である「国家安全保障戦略」などの年内改定についても「あらゆる選択肢を排除せずに検討し、防衛力を抜本的に強化する」としている。

 だが、国防強化なら日本は安全なのか。そんな単純な話なのか。周辺諸国を警戒させ、より緊張が高まることはないのか。

 戦争にならないための外交努力という議論が、ウクライナ戦争を前にして軽んじられる現実。世論も「勇ましさ」を求める傾向が顕著だ。日経新聞の世論調査では、ロシアへの経済制裁について「さらに強めるべきだ」が41%で、「適切だ」の44%とほぼ同率だった。

 そうした空気におもねるかのように野党もゼレンスキー大統領の応援一色。オンラインの国会演説で、与野党揃ってスタンディングオベーションという大政翼賛会である。

 「プーチンはウクライナにロシアの言うことを聞かせようとし、ゼレンスキーはロシアの脅威を退けるために軍備増強でNATOに頼ろうとした。力と力の論理に巻き込まれる形での軍事衝突と言えます。対立や紛争の解決のための外交努力を怠り、力と力になると、むしろリスクを高める。安全を求めて安全を損なうという、安全保障のパラドックスに陥っている。戦争当事者のどちらが正しいかの解釈の違いがあろうと、戦争によって多くの犠牲者が出るのは明らか。ウクライナを見て『日本も軍備増強を』と言う政治家がいますが、戦争にならないためにどうするのか考えるのが政治家の仕事のはずです」(五十嵐仁氏=前出)

 戦争は理性を失わせる。ただ米国追随で思考停止の岸田政権。この先、訪れるかもしれないさらなる危機において、冷静な対応ができるのだろうか。

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