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5月2日(月) 岸田政権の危険な本質と憲法闘争の課題(その2) [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊全労連』No.303 、2022年5月号、に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます。〕

2, 憲法闘争の多面的な課題

 明文改憲の阻止

 岸田政権の改憲策動に対しては、多面的で多角的な憲法闘争が展開されなければならない。その中心的な課題は、言うまでもなく明文改憲に向けての発議を阻止することである。そのためのたたかいの場は国会と地域にある。そして、この両者を媒介するのが情報戦とも言うべきメデイア環境をめぐる取り組みである。
 第1の国会での攻防は、一段と激しさを増している。維新の会が存在感を高め、憲法審査会で審議の促進を求め、予算委員会など各種委員会でも政府・与党の補完や牽引力として改憲を焚き付ける動きを強めているからである。これに対しては、立憲野党の孤立と動揺を防ぎ、共産党の排除を許さない取り組みが重要になっている。
 第2の草の根での攻防も強まっている。自民党が地方や地域から対話集会や講演会を開催するなど、世論の喚起に本腰を入れ始めたからである。これに対しては、「憲法改悪を許さない全国署名」を武器に、地方・地域や駅頭での宣伝活動、学習・講演活動に精力的に取り組む必要がある。
 そして、第3のメデイア環境をめぐる攻防も新たな局面を迎えている。旧来の情報伝達手段としての新聞やテレビ、週刊誌などに代わって、インターネットや会員制通信サービス(SNS)が台頭し、若者などを中心に社会的な影響力を高めているからである。これに対しては、読売新聞やNHKなどの政府寄りの報道姿勢を糾し、自民党の情報操作に対抗しなければならない。ネットなどでの個人の役割の増大に対応して、情報発信力の強化にも取り組む必要がある。
 これらの攻防の最終的な焦点は世論の争奪戦ということになるだろう。それが集約されるのが選挙であり、当面の決戦の場は夏の参院選である。この決戦に向けて、どれだけ改憲反対の世論を盛り上げられるかどうかが、改憲発議をめぐる勝敗を分けることになる。

 解釈改憲と実質改憲の是正

 岸田政権に対峙する憲法闘争は、改憲を阻止すれば良いというだけではない。改憲を阻止しても、反憲法政治の現状が残るからだ。したがって、憲法解釈の変更によって歪められた平和主義の回復と、それを定着させるための法や制度の改悪も是正しなければならない。最近でも、オンライン国会を可能にするための56条解釈を憲法審査会での多数で押し切るという動きがあった。このような解釈改憲の阻止と実質改憲の是正による活憲政治の実現が必要なのである。
 そもそも野党共闘の始まりは戦争法に対する反対運動にあった。それは特定秘密保護法や盗聴法、「共謀罪」法などの実質改憲に反対する運動を引き継いでいた。野党共闘にとって戦争法廃止は「一丁目一番地」だからこそ、市民連合を仲立ちとした政策合意の最初に「安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの法律の違憲部分を廃止」することが掲げられていたのである。
 しかも、戦争法の危険性は一段と高まっている。これによって集団的自衛権の行使が一部容認され、米軍支援のための自衛隊の海外派兵が可能とされたが、このとき想定されていたのは中東地域だった。しかし、「米中対立」が激化し、「台湾有事」が懸念されている今、米軍と共に自衛隊が活動するのは台湾周辺や東シナ海であり、「日本有事」に直結すると考えられている。
 22年1月7日の日米安全保障協議委員会2+2では「中国の脅威」に対して共同での「抑止」や「対処」を確認し、「日米は緊急事態に関する共同計画作業についての確固とした進展を歓迎」するとまで踏み込んだ。偶発的な武力衝突が生じた場合でも、それが戦争法で規定する重要影響事態などに認定されれば、米軍防護などの名目で自動的に自衛隊が戦闘に巻き込まれることになる。
 このような事態を避けるためにも、戦争法の違憲部分の廃止は一刻の猶予もならない。火花が散る可能性がある地域にガソリンを積んで近寄るような愚行は避けるべきだ。必要なことは、たとえ火花が散っても燃え上がることのないように「水をかける」ことであり、そのために外交交渉で緊張の度合いを低めることである。

 敵基地攻撃・先制攻撃論の誤り

 憲法解釈の変更をテコにした実質改憲の最たるものは、最近注目されている敵基地攻撃能力の保有(敵基地攻撃論)であり、ミサイル攻撃阻止のための先制攻撃の構想だ。いずれも、これまで国是とされてきた「専守防衛」の範囲を踏み越えるものであり、明確な憲法違反となる。
 敵基地攻撃能力とは、北朝鮮による度重なるミサイル発射実験を念頭に、ミサイルが発射される前に敵基地を攻撃して未然に防ごうというもので、自衛隊が相手国の領域にある発射地点を直接攻撃することを意味している。しかし、これは荒唐無稽で実行不可能な空理空論にすぎない。
 このような主張が生じてきたのは、イージスアショアなどによる弾道ミサイル防衛(BMD)が不可能になったからだ。ミサイル技術が格段に進歩し、極超音速ミサイルや変速軌道のミサイルは迎撃が困難だからこそ、発射される前に攻撃することで防ごうというのである。しかし、ミサイルを発射する「敵基地」とはどこなのか。個体燃料によって移動する車両や列車、潜水艦などから発射されれば攻撃目標を特定することはできない。
 敵基地攻撃のための相手国空域内での爆撃は「排除しない」と、岸信夫防衛相は憲法違反の答弁を行っているが、このような想定自体、空理空論にすぎない。それでも全土をせん滅するだけの軍事力を保有すれば抑止効果を上げることができるという妄言もあるが、そうなれば際限のない軍拡競争の泥沼に引きずり込まれるだけである。
 それではどうするのか。このような攻撃を防ぐ方法は一つしかない。どのような国でも、ミサイルを発射する意図を持たせないようにすればよい。そのための友好関係の確立と緊張の緩和を生み出す外交努力こそが、唯一の解決策なのである。
 軍事的に防ぐことができなければ、外交的に防ぐしかない。対話と交渉によって敵意を和らげて緊張を緩和し、脅威を減らすことによって安全を確保することこそ、唯一、実現可能で現実的な道なのである。そして、これこそ憲法9条が定める平和主義の路線にほかならない。

 新たな解釈改憲としての「核共有」論

 ウクライナを侵略したロシアが核兵器による威嚇を行ったことを口実に、日本でも米国との「核共有(ニュークリア・シェアリング)」の議論をすべきだという主張が安倍元首相ら自民党の政治家によってなされ、日本維新の会はそのための提言を出した。これは核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずという「非核三原則」を踏みにじり、原子力基本法や核拡散防止条約に違反し、核兵器禁止条約にも逆行する暴論である。
 「核共有」とはNATOの方策で、米国はイタリア、ドイツヨーロッパ、トルコ、ベルギー、オランダの5カ国に核爆弾を計150発配備している。安倍元首相の言うように日本もそうすれば、在日米軍基地や自衛隊基地に核を貯蔵・管理する施設が作られ、自衛隊は核攻撃能力のある戦闘機を保有することになる。「非核三原則」が禁じた「核持ち込み」どころか自衛隊が核攻撃に参加するのである。
 これが核軍拡競争に一層の拍車をかけることは明白だ。万一、周辺国との紛争になれば、核爆弾を配備している日本の基地が攻撃の標的になる。米国との「核共有」という議論はプーチン大統領と同じ立場に立つことになり、有害でしかない。
 日本は広島と長崎に核爆弾を投下された唯一の戦争被爆国である。また、福島第1原発での放射能漏れなど、最悪の原発事故も経験している。核の怖さを最もよく知る日本は、世界に向けて核廃絶のメッセージを出して、核兵器と原発の廃止のために先頭に立つべき歴史的な使命を帯びている。憲法の解釈を変えて核をもてあそぶような愚行は断じて許されない。

 改憲反対とともに憲法に基づく政治の実現を

 歴代の自公政権は、明文改憲に向けての世論の喚起と共に、日米軍事同盟の強化、米軍基地の拡充、自衛隊の定着と国軍化を図ってきた。いずれも戦争を放棄し陸海空軍の戦力の不保持を規定する憲法9条に反する違憲の政治である。改憲に反対するとともに、このような政治のあり方を変え、憲法に基づく政治を実現しなければならない。
 日米軍事同盟がもたらす最大の問題は米軍基地と日米地位協定の存在である。首都の周辺を米軍基地が取り巻き、上空を軍用機が飛び交い、空域が占有されている。まるで占領状態が継続されている植民地のような扱いを受けている。いつまでこのような状態を続けるのか。
 日米地位協定において、このような占領状態の継続はさらに顕著である。米軍犯罪に対する裁判自主権はなく、締結以来一度も改定されていない。同様の条約を結んでいるイタリアやドイツ、フィリピンやオーストラリアなどとは大違いである。新型コロナ感染対策を徹底する点でも大きな抜け穴となった。これらの問題点を解決するための地位協定の改定は急務だ。
 なかでも、沖縄の辺野古で進んでいる新基地の建設は大きな問題を引き起こしている。軟弱地盤の存在が明らかになり、いつ完成するのか、どれだけの費用が掛かるのかが不明で、県民の多くが反対している。直ちに中止し、これとは別個に普天間基地の返還と基地負担の軽減を実現すべきである。
 鹿児島や沖縄の南西に広がる宮古島や石垣島でも、中国を仮想敵とした自衛隊基地の増強が行われつつある。本土を含む各地の自衛隊基地でも、無人偵察機や無人攻撃機、オスプレイなどの配備計画が進められている。このような南西諸島の攻撃拠点化や米軍・自衛隊基地機能の強化は攻撃されるリスクを高めて軍拡競争を引き起こすだけであり、直ちに中止しなければならない。
 米軍兵器の爆買い、ヘリコプター空母の改修、長距離ミサイルの導入など、軍事大国化を目指した防衛費の増大も毎年続き、岸田政権は昨年の総選挙でGDP2%枠の突破も視野に入れた公約を掲げた。憲法9条を理念とする平和国家のあり方はもはや「風前の灯」だと言わなければならない。

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