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5月22日(日) 岸田政権の性格と参院選の争点―何が問われ、何が訴えられるべきか(その1) [論攷]

〔以下の論攷は、『学習の友』No.826 、2022年6月号、に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 はじめに

 参院選が間近に迫ってきました。参院議員の任期は6年で3年ごとに半数が改選され、解散はありません。つまり、参院選は3年ごとの間隔で定期的に繰り返される選挙です。しかし、今度の参院選は今までにない大きな意義を持っています。
 まず、2020年初頭から2年半続いた新型コロナウイルスの感染拡大が6回にわたる大きな波となって国民を苦しめた後の選挙だということです。この間の新型コロナ対策がどうであったのか。安倍・菅・岸田と続いた政権による対策の功罪が問われることになります。
 次に、今年の2月から始まったロシアによるウクライナ侵略が勃発した後に実施される初めての国政選挙だということです。どのような形で侵略戦争に対する国際的な包囲網を形成して戦火を収めるのか。戦争と平和の問題が正面から問われることになります。
 そして第3に、このウクライナでの戦争を契機に高まっている改憲論を大きな争点にして戦われる選挙でもあります。日本の安全のためにも9条を守り、その理念をどのように生かしていくのかが問われることになります。
 第4に、コロナ禍を乗り切って国民の生活を守り、戦争の惨禍を収めて憲法を活かすことのできる希望の政治に向けての展望を切り開く選挙でもあります。そのための唯一の解決策である野党連合政権の樹立に向けて足固めを図ることが大きな課題となります。
 このような意義と重要性を持つ選挙です。投票において選択を誤ってはなりません。岸田政権の性格と参院選での争点を改めて確認し、選挙で何が問われ、何が訴えられるべきかを明らかにしたいと思います。

1, コロナ対策と生活の危機
 
 コロナ感染再拡大の危惧と懸念

 新型コロナウイルスの感染拡大と政府による対策の遅れが国民生活を深刻な状況に追い込んでいます。まだ新規感染者数が多いうちに政府は「まん延防止等重点措置」をすべて解除しました。しかし、感染者数はなかなか減らず、再び増加する傾向もあります。感染力の強いオミクロン株の別系統BA.2に置き換わっているからです。感染再拡大の危惧と懸念を拭い去ることはできません。
 今後も新たな感染拡大と医療体制の確保に備えての対策が必要なことは明らかです。そのためにも、安倍内閣以降の施策に対するきちんとした検証と反省が不可欠です。とりわけ第6波では、感染の急拡大に対応できずに自宅療養者が急増し、「医療崩壊」が生じました。
 PCR検査やワクチンの3回目接種の遅れなどが繰り返され、成り行き任せで後手に回った岸田政権の不手際も目立ちました。経済・社会活動を重視するあまり、感染拡大がおさまらないうちに規制を緩めて再び感染拡大を招くという悪循環も繰り返されています。本腰を入れて新たな感染拡大に備える必要があります。
 新自由主義的な政策のもと、医療や公衆衛生体制の整備を放置し続けてきたツケが回ってきました。地域医療構想によって急性期病床削減を進めようとしていることは本末転倒です。これらの誤りを改め、ワクチン3回目接種の遅れを取り戻して検査を拡充し、地域医療への支援を強化して医療体制のひっ迫が起きないようにしなければなりません。

 物価高騰と生活苦の増大

 コロナ感染への懸念が収まらないなか、物価高騰という新たな危機が国民の暮らしと営業を直撃しています。賃金は上がらず、年金もカットされ、そのうえ物価高ですから、生活が苦しくなるのは当たり前です。その背景には、コロナ禍からの回復による世界的な需要の高まり、ロシアのウクライナ侵略と経済制裁による資源不足の影響などがありますが、もうひとつ重要な要因となっているのが日銀の「異次元金融緩和」政策による急激な円安です。
 東京外国為替市場の円相場は一時、1ドル=131円台と約20年ぶりの円安水準になりました。円安は輸出企業への追い風となりますが、輸入物価コストを引き上げて企業や家計の負担を高める悪影響をもたらします。その原因は日米の金利差の拡大です。日銀が超低金利政策を続ける一方で米国など先進国がインフレ抑制のために金利を引き上げ、低金利の円が売られやすくなったのです。
 しかし、日銀の黒田総裁は安倍元首相に遠慮してアベノミクスの3本柱の一つであった「異次元金融緩和」を止めることができません。ここにも新自由主義的な政策とアベノミクスの悪影響が及んでいます。参院選ではこのような政策を転換し、経済と国民生活の危機をどう克服するのかが鋭く問われることになります。
 消費税の減税や内部留保への課税、累進課税の強化を含む税制見直し、社会保障制度の拡充、最低賃金の引き上げなど、富の偏在を改めて再分配を図る施策の実現をめざさなければなりません。また、食糧自給率の向上なども重要な課題となっています。今後も円安傾向は続くと見られており、経済と暮らしの問題が参院選に向けての重大な対決点になることは確実です。

2, ウクライナ侵略と平和の危機

 ロシアによる侵略と戦争犯罪

 2月に始まったロシアによるウクライナへの侵略は平和の危機、人道的危機を引き起こし、多数の人命が奪われています。プーチン大統領は集団的自衛権による「特別軍事作戦だ」と言い訳していますが、国連憲章に反する侵略であり国際秩序を覆す暴挙です。戦闘を停止しロシア軍の即時撤退を求める声を上げ続けなければなりません。
 戦争にもルールがあります。攻撃は軍人や軍事施設に限られ、一般の市民を故意に殺害したり、捕虜を虐待したりすることは許されません。民間施設への攻撃やブチャで発見された大量の民間人の虐殺はジュネーブ条約や国連人道法に反する戦争犯罪です。
 今回のウクライナ侵略が明らかにしたことは、いかなる理由があっても戦争を始めてはならないということです。戦争になれば必ず犠牲者が生まれます。対立や紛争は武力によってではなく、話し合いで解決されなければなりません。対立を激化することなく友好関係を維持しながら緊張を緩和することが必要です。
 相手より強い力を持てば抑止できると考えて軍拡や軍事同盟に依存すれば、安全になるどころか対立と挑発を強めて武力行使を引き起こすことも明らかになりました。安全を確保しようとして軍事力依存を強めれば逆効果となり、安全を損なって戦争のリスクを高めます。このようなジレンマが安全保障のパラドクス(逆説)であり、その罠にはまってはなりません。

 国際的包囲網の形成と核脅迫への反撃

 ロシアのウクライナ侵略に対して、国際社会では侵略戦争を止めさせる努力が重ねられてきました。日米欧などが経済制裁で足並みを揃え、ウクライナに対する人道的支援を強めています。侵略反対の国際的包囲網の形成によって一日も早い戦争終結を実現する必要があります。
 国連の安全保障理事会(安保理)の常任理事国であるロシアによる拒否権の発動で安保理は十分に機能していません。そのために「国連は無力だ」との声も上がりました。しかし、国連は多面的な活動に取り組んでおり、決して無力ではありません。
 国連は2度の総会特別会合を開いてロシアの軍事行動を侵略として断罪し、国際人道法の順守を求める決議を140カ国以上で採択しました。国連人権委員会はロシアの理事国としての資格をはく奪し、国際司法裁判所は軍事行動を直ちにやめるよう命じ、国際刑事裁判所は戦争犯罪についての調査を始めています。グテレス事務総長も仲介に乗り出しました。
 窮地に陥ったプーチン大統領は生物・化学兵器や核兵器の使用をほのめかしています。このような核の使用をためらわない指導者の登場によって核抑止論は無力になり、核兵器の廃絶が急務であることが明らかになりました。唯一の戦争被爆国である日本こそ、核脅迫に対する反撃の先頭に立たなければなりません。核兵器禁止条約の批准を可能とする非核の政府への道すじをつけることも参院選の重要な課題です。

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