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8月28日(日) 混沌としてきた改憲動向 今こそ9条の「ありがたさ」を語ろう(その1) [論攷]

〔以下のインタビュー記事は、日本機関紙協会の『機関紙と宣伝』No.1072,9月号に軽視されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 7月の参院選では、改憲に前向きな自民・公明・維新・国民民主と無所属を合計した「改憲勢力」が179議席となり、発議に必要な3分の2(166議席)を大きく上回りました。きわめて危険な状況ですが、8月半ばの時点でみると政局は改憲一直線とはなっていません。むしろ混沌としてきたという印象を持っています。このような状況の下で私たちは何をなすべきかを考えてみたいと思います。

改憲勢力が3分の2を確保しているが…

 確かに参院選では改憲勢力が3分の2を確保(維持)し、衆参ともに改憲発議が可能な状況です。安倍晋三元首相の遺志を継いで、岸田文雄首相も一気に発議へと進むつもりだったかもしれません。
 特に、昨年の衆院選を経て、改憲に前のめりの状況が生まれていました。改憲手続法が改定され、法的ブレーキが解除されました。日本維新の会が議席を増やし、改憲アクセルが強まりました。その結果、衆院の憲法審査会が質的に変化。以前のように、野党の意見を尊重する姿勢・ルールが後退していきました。むしろ、維新など「野党」側からこうしたルールを破る動きが強まったのです。衆院憲法審査会の暴走が始まっていました。
 参院の憲法審査会は衆院ほどひどくはありませんでしたが、今回、参院でも維新が議席を増やしたため、衆院と同様の暴走が始まるのではないかと心配でした。改憲勢力にとっては国政選挙がない「黄金の3年間」となり、改憲に反対する側にとって容易ならざる危険な局面を迎えていました。

統一協会との闇の関係で支持率低下

 ところが、です。安倍元首相の銃撃事件によって、状況はガラリと変わったように見えます。
 第一に、安倍氏の死去によって改憲の推進力・旗振り役がいなくなりました。もともと岸田氏は改憲にそれほど積極的ではありません。安倍さんの支持を得るために顔色を見ながらリップサービスをしてきましたが、もうそんな気遣いをする必要はなくなったのです。
 岸田という人は先頭に立って引っ張るというよりも、周りからせっつかれて腰を上げるタイプの政治家です。「公家集団」と言われた派閥(宏池会)の伝統的なカラーを色濃く受け継いでいるように思います。
 第二に、改憲への積極的な旗振りをしてきた維新の動向です。代表の松井さんの辞任で、後任をめぐって内部はすったもんだの混乱状況となっています。改憲への取り組みも、今後どう展開するかわかりません。
 第三に、自民党と統一協会との闇の関係が明らかになり、岸田政権として対応に苦慮しています。世論の関心も高く、内閣支持率が急落するなどの悪影響が出ています。

世論の反発を招く岸田政権

 そのうえ、岸田政権に対して世論の一層の反発を招く問題が起きています。
 その一つが、大軍拡路線を突っ走ろうとしていることです。軍事費の2倍化に向けて動き出し、敵基地攻撃能力(「反撃能力」)の保有もめざしています。収入が伸びず、物価が高騰して生活が苦しい中で、なぜ防衛費だけ大幅増加なのか、という疑問が出るのは当然です。
 さらに、安倍元首相の国葬実施をあっという間に閣議で決めてしまいました。事件の衝撃は強く、多くの弔問客が悼む姿を見て即断即決したのでしょうが、世論を見誤りましたね。その後の調査を見れば、国葬について「賛成」よりも「反対」の方が多い。国民の過半数が反対している調査もある。今後、反対はもっと増えるでしょう。
 支持率低下に焦ったためでしょうか、追い込まれる形で内閣改造を決断し、前倒しで実施しました。統一協会との関係を払拭し、人心一新でリセットするのが目的だったと思われます。これで乗り切ろうとしたわけですが、新内閣でも統一協会と関係した閣僚数は変わらず、腐れ縁を断ち切る方向は見えてきません。

「金メッキの3年間」に?

 本来、改憲に向けた「黄金の3年間」を手に入れたはずでしたが、「金メッキの3年間」に変わりつつあるように見えます。これからこのメッキが剥げるのではないでしょうか。
 もともと改憲の動きは安倍元首相が「変えたい」と言って始まった。変えること自体が自己目的化していました。憲法を変えなければならない「立法事実」がないのに、改憲を主張してきたのです。
 例えば、9条への自衛隊明記。「違憲状態に終止符を打つ」と言いながら、他方で自衛隊は合憲だと言ってきました。国民の中でも自衛隊はおおむね市民権を得ており、合憲だと思っている人も少なくありません。合憲ならわざわざ改憲する必要はないわけで、これは大きな自己矛盾です。
 私は9条改憲を、集団的自衛権の行使と自衛隊の海外派兵を合理化し全面的に可能にするためだと見ていますが、自民党からすれば、安保法制という名の戦争法を制定し、敵基地への先制攻撃も打ち出すなど、実質改憲を進めてきました。いまさら、明文改憲に時間とエネルギーを費やすのがいいのかという声が出て来かねません。せっかく実質改憲をやってここまできたのに、明文改憲に手を出して国民投票で失敗したらどうするのか、というリスクとジレンマがあるからです。


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