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5月25日(木) ウクライナ戦争に便乗した「新たな戦前」を避けるために──敵基地攻撃論の詭弁と危険性(その1) [コメント]

〔以下の論攷は『学習の友』No.838、2023年6月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 は じ め に

 ロシアによるウクライナ侵略は日本国民に大きな衝撃を与え、戦争への不安と危機感を高めました。これに便乗して岸田政権は戦後の安全保障政策を大きく転換し、2022年末に「安保3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を発表しました。
 岸田首相は基本的立場に変化はないと説明し、「国家安全保障戦略」も「わが国の安全保障にかんする基本的な原則を維持しつつ、戦後のわが国の安全保障政策を実践面から大きく転換する」とのべています。はたたしてどちらが本当なのでしょうか。
 「維持」するのか、「転換」するのか。「維持」するのであれば、このような文書をあらためて作成する必要はありません。「大きく転換」するからこそ、そのための文書が必要になったのです。ただし、その「転換」は「実践面から」であって、「基本的な原則」は「維持」しているといいわけをしながら。
 これは詭弁ではないでしょうか。それにもとづいて打ちだされた「敵基地攻撃能力」という新たな方針を「反撃能力」といいかえるのも詭弁です。
 このような詭弁に満ちた方針転換は、日本を「新たな戦争」へとひきよせることになるでしょう。その危険性を見抜き、それを避けるためにどうすべきかを学び情報を発信していく必要があります。

 憲法と専守防衛に違反

 憲法前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書かれています。敵基地攻撃能力など武力への依存は、このような「決意」に反するものです。また、第9条は「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と宣言しています。「戦争」や「武力の行使」だけでなく、「武力による威嚇」も放棄されているのです。
 だからこそ、1959年の国会答弁で伊能繁次郎防衛庁長官は「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な、脅威を与えるような兵器をもっていることは、憲法の趣旨とするところではない」とのべていました。他国に脅威を与え威嚇するような拡大抑止政策は憲法違反だと明確に指摘していたのです。
 また、専守防衛との関係についても、中曽根康弘防衛庁長官は1970年の答弁で、「具体的には本土並びに本土周辺に限る、核兵器や外国に脅威を与える攻撃的兵器は使わない」と言明し、田中角栄首相も1972年に「相手の基地を攻撃することなく、専らわが国土およびその周辺において防衛をおこなうことだ」と答弁していました。国外に戦場をもとめず、先に手をださないということです。
 岸田首相は憲法にもとづく基本的な方針である「専守防衛」は堅持すると主張していますが、これは真っ赤な嘘です。憲法や専守防衛と敵基地攻撃能力の保有は真っ向から反し、両立しません。

 国際法に反する先制攻撃

 岸田政権が「反撃能力」として保有しようとしている装備とは何でしょうか。それは国境を越えて直接的に敵基地を攻撃することのできる兵器群です。具体的には、12式地対艦誘導弾能力向上型、高速滑空弾、極超音速誘導弾などの長射程ミサイルですが、開発に時間がかかるので当面は射程1600㌔のトマホークをアメリカから400発購入することとし、そのための予算を2113億円計上しています。
 これらのミサイルが沖縄などの南西諸島に配備されれば、中国や北朝鮮の主要都市が射程に入り、相手にとっては重大な脅威になります。もし日本への攻撃が「着手」されたとみなされれば、直ちに発射されますが、「着手」の認定をどのような場合にどのようにおこなうのかは不明です。相手国からすれば発射以前に「反撃」されることになり、国際社会からは先制攻撃とみなされることになります。
 このようなかたちで先制攻撃すれば報復を招くことは避けられません。ミサイル基地となる南西諸島や沖縄だけでなく、日本全土が攻撃され焦土と化す危険があります。それが想定されているからこそ、283地区の自衛隊基地の1万2636棟を地下化するなどの強靭化計画をすすめようとしているのです。日本全土が火の海となり、周辺の市街地が焦土と化しても基地だけは生き残れるようにしようというわけです。


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