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5月26日(金) ウクライナ戦争に便乗した「新たな戦前」を避けるために──敵基地攻撃論の詭弁と危険性(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.838、2023年6月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 「防衛」ではなく集団的自衛権行使のため

 このような政策転換は、日本を「防衛」するためのものではありません。そもそも、今回の「安保3文書」によって名指しされ「懸念」が示されている中国・北朝鮮・ロシアは、日本を攻めると公式に表明したことは一度もなく、これらの国を「仮想敵国」とする根拠はありません。
 それどころか、中国との間では1972年の共同声明で「唯一の合法政府」と認め、2008年の共同声明などでも「たがいに脅威とならない」ことをくり返し確認してきました。北朝鮮も米朝首脳会談中はミサイルを発射せず、核実験を中断していました。ロシアとの間では北方領土問題での交渉や経済協力がなされてきたのは周知の事実です。これらの交渉や対話をなぜ継続したり、再開したりしないのでしょうか。
 政策転換の目的が日米同盟の強化であり、アメリカの対中戦略の転換に伴って最前線となった日本が集団的自衛権を行使できるようにするためだからです。「私は、小泉純一郎内閣の時に集団的自衛権の行使容認を何とか実現できないかと思っていたのです。小泉首相に、05年の郵政民営化関連法が成立した後、残り任期の最後の1年で行使容認をやりましょう、と言ったら、小泉さんは『君の時にやれよ』と仰った」(『安倍晋三回顧録』115~116頁)と書いているように、それは安倍晋三元首相の悲願でもありました。
 これを安倍元首相は平和安保法制(戦争法)の制定によって10年後に実現しましたが、それは「枠組みを整えた」にすぎず、実態を伴っていませんでした。今回は「実践面で大きく転換」することで集団的自衛権を実行可能にすることをめざしています。
その結果、「存立危機事態」と認定されれば、自衛隊は米軍と一体となって戦闘に参加できるようになります。
 具体的には、アメリカが地球規模で張り巡らす「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」に加わることが想定されています。台湾周辺で軍事衝突が生じれば、日本が攻められていなくても自衛隊は戦争に巻き込まれることになります。自衛隊が米軍と融合しその指揮下でたたかえば、自首相の指揮権も日本の国家としての主権も奪われることになるでしょう。

 軍拡大増税による生活破壊

 岸田政権は今年度から5年間の防衛費総額を約43兆円とし、2027年度には関連予算をふくめて国民総生産(GDP)比2%にすることを打ちだしました。この目標額は北大西洋条約(NATO)加盟諸国にアメリカが要求した額であり、必要経費を積み上げたものではありません。日本はNATO加盟国ではなく憲法第9条を有する平和国家ですから、NATOに追随するのは誤っています。
 新たに必要となる財源のうち、4分の3は歳出改革、決算剰余金の活用や東日本大震災の復興特別所得税の流用などの税外収入でねん出し、残りを法人・所得・たばこ税の増税で賄うとしています。この税外収入を積み立てて使う「防衛力強化資金」を新設する「財源確保法案」も審議入りしました。
 しかし、このような財源の確保や増税がそもそも必要なのか、なぜ防衛力を倍増させる必要があるのかが充分に議論されていません。復興のための税金を軍事に横流しして増税を押しつけ、医療や年金、社会保障費などを削減し、国債発行に手をだすという「禁じ手」だらけの暴挙にほかなりません。
 GDP比2%以上の軍拡は将来にわたって継続されます。そうなれば防衛費は11兆円となり、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事大国になります。年間5兆円超もの財源があれば、医療費の窓口負担の無料化などを実現できます。国民生活を破壊して防衛財源を絞りだすような政策は「富国強兵」ならぬ「強兵貧国」政策にほかなりません。

 むすび――歴史の教訓に学べ

 2023年2月7日、韓国のソウル中央地裁で一つの判決がありました。ベトナム戦争での民間人虐殺を生き延びた女性が韓国政府相手に提訴し、賠償額約310万円の有罪を勝ちとったのです。韓国政府は延べ30万人を派遣して自国の若者約5000人を犠牲にするという痛恨の誤りを犯しました。
 日本もベトナム戦争の出撃基地となるなど協力しましたが、自衛隊を送ることなくだれ一人殺すことも殺されることもありませんでした。韓国政府のような誤りを犯さずに済んだのは憲法の制約があったからで、第9条の威力のおかげです。
 イラク戦争では自衛隊を派遣しましたが非戦闘業務に従事し、犠牲者をだすことはありませんでした。このときも憲法第9条にまもられていたのです。第9条があったからこそ、韓国の悲劇を避けることができたのです。必要なことは、この第9条の威力を活かした外交力を発揮することではないでしょうか。
 歴史に学ぶことが必要です。岸田政権による「かげに隠れてこそこそ」作戦に対抗し、私たちは「光を当ててみえる化」作戦を実行しなければなりません。学び伝えることこそ、世論を変える力になります。岸田政権の詭弁と危険性が明るみにだされれば、戦争を望まない多くの国民が反対に転ずることは明らかなのですから。


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