8月3日(土) 戦後史における自民党政治―その罪と罰を考える(その3) [論攷]
〔以下の論攷は『学習の友 別冊 2024』「自民党政治を根本から変えよう」に掲載されたものです。3回に分けてアップさせていただきます〕
旧傍流右派路線の全面開花としての第2次安倍政権
中曽根政権による「戦後政治の総決算」路線は、安倍元首相による「戦後レジームからの脱却」路線へと継承されます。中曽根による「戦後政治」も、安倍が言う「戦後レジーム」も、戦後憲法を前提にした統治スタイルを選択した保守本流路線のことでした。その「総括」や「脱却」をめざした両者に共通するのは、憲法に対する敵視と侮蔑です。中曽根元首相は「マック(マッカーサー)憲法」と呼び、安倍元首相は「みっともない憲法」だと軽蔑していました。
また、国際的役割の重視とアメリカ追随、軍事大国化や戦前回帰という点でも共通しています。中曽根元首相の「国際国家論」は、国際社会における発言力の増大、国際関係における積極性・能動性の発揮、「西側の一員」としての責任分担などでした。これらは「同盟国・同志国」における軍事分担論に基づく集団的自衛権の行使容認をめざした第2次安倍政権に受け継がれ、平和安保法制(戦争法)の成立に結びつきます。
さらに、ボトムアップ型の政策形成や官僚主導への嫌悪、ブレーンなどの利用や権力主義的な政治手法などでも共通していました。中曽根元首相は審議会を多用して「新議会」政治と批判され、安倍元首相も有識者会議や閣議決定を優先し、国会審議をスルーしました。いずれも「国会の空洞化」を生み出し、議会制民主主義を踏みにじるものです。
統一協会と深く癒着していたという点でも、両者には大きな共通性があります。615巻もある文鮮明発言録で最も多く名前が出てくるのは中曽根康弘の名前で、大勝した86年衆参同時選挙では中曽根勝利のために60億円以上もつぎ込んで支援していました。安倍首相も統一協会の広告塔として大きな役割を演じ、そのために狙われ凶弾に倒れています。
少数者の権利や人権、ジェンダー平等に無関心であることはどの自民党政権にも共通する弱点ですが、戦前回帰を目指して靖国神社を参拝するなど中曽根と安倍は抜きんでています。中曽根首相は1985年8月15日に戦後初の公式参拝を行い、安倍元首相も2013年12月に参拝してアメリカから「失望している」と批判されました。
岸田政権による安倍政治の拡大再生産――右傾化・強権化・腐敗の継承
岸田首相が会長だった宏池会は吉田茂の愛弟子である池田勇人によって創設された本流派閥の代表でした。しかし、今では旧傍流右派の軍門に下り、改憲・大軍拡の先兵になっています。岸田政権は宏池会出身というリベラルの仮面を意識的に悪用し、安倍政治を拡大再生産していることに注意しなければなりません。
その第1は、突出した改憲志向です。任期中に明文改憲を行いたいとの安倍元首相の野望を受け継ぎ、憲法審査会で改憲支持政党による条文案の作成などを画策しました。同時に、重要経済安保情報保護法(経済安保情報法)や改定防衛省設置法、改定地方自治法、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約など、憲法9条に反する実質改憲を推し進めています。経済安保情報法は安倍元首相が成立させた特定秘密保護法を民間分野に拡大するものですが、そのルーツは中曽根元首相が提出して廃案となったスパイ防止法案にあります。
第2は、着々と進められている従米・軍事大国化です。過去の政権は憲法を盾にアメリカからの要求を拒もうとする姿勢がありましたが、岸田政権はアメリカからの要求を受け入れるために憲法を変えようとしています。真逆とも言える変質です。中曽根元首相は軍事費のGNP比1%枠突破、安倍元首相は集団的自衛権の一部行使容認、岸田首相は5年間で国内総生産(GDP)比2%を上回る43兆円の大軍拡を打ち出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を目指しています。「盾」だけでなく「矛」としての役割分担、専守防衛の変更、グローバル・パートナーシップに基づく日米一体となったシームレス(切れ目のない)な統合戦略などは、戦後安全保障政策の根本的な転換にほかなりません
第3は、経済無策による国民生活の破壊です。安倍政権が推し進めた新自由主義的なアベノミクスと異次元の金融緩和によって円安が進み、物価高で国民はかつてない生活難に直面しました。経済政策重視を掲げて「所得倍増」などを打ち出したかつての保守本流の姿はどこにもありません。岸田首相も当初は「新しい資本主義」や「資産倍増」などを口にしていましたが。軍拡のための増税や子育て支援を名目にした社会保険料の増額、実質賃金の減少や年金の目減りなどによって国民負担率の増加が続いています。
第4は、「聞く力」によってカモフラージュされた民意の無視です。コンセンサスを重視した保守本流派閥にはもっと国民や野党の声を意識し尊重する姿勢がありました。今では、ことさら「聞く力」を強調せざるを得ないほどに、民意の無視が際立っています。その「耳」がどれほどのものであるかは、沖縄・辺野古での新基地建設推進、インボイスの強行実施、マイナカードの押し付けとマイナ保険証への切り替え強要、「いのち輝く」どころか「いのち危うく」になりそうな大阪・関西万博の開催、水俣病患者団体との懇談会でのマイクオフなど、私たちが目にしている通りです。
第5は、金権腐敗の極致としての裏金事件です。過去の自民党は、企業・団体献金の問題性をそれなりに認識していました。だから政治改革関連法によって個人向けの献金は禁止し、政党向けの献金も5年以内の禁止を飲んだのです。しかし、これは実施されず企業・団体献金はもとより、政治資金パーティ―や政策活動費についても温存しようとしています。金権腐敗政治にどっぷりとつかり、そこから抜け出す意志さえ失った腐敗政党へと変質してしまったのです。
むすび―罰を与えるのは主権者としての国民
自民党は80年代中葉に反憲法政治へと転じ、平和・安全・生活・営業・人権を破壊する悪政を続けながらも、「疑似政権交代」によって権力の座に居座り続けてきました。その最大の罪は政権交代のある民主主義を阻害し続けてきたことにあります。自民党が犯してきた数々の罪に対して、今こそきっちりとした罰を与えなければなりません。
ただし、自民党が犯した罪に対して全く罰が与えられなかったわけではありません。過去において危機に瀕した自民党は派閥間の抗争や「振り子の論理」によってあたかも政権交代したかのような外見を凝らすことで国民の目を欺き、2勝2敗の結果を残しています。危機は自動的に政権交代に結びつくわけではなく、国民の運動や選挙による審判がなければ生き延びてしまうのです。
裏金事件で自民党による宿痾の温存と自浄能力のなさが明らかになりました。党改革や政治改革は中途半端に終わり、金権化と腐敗が存続し、右傾化・金券化・世襲化という重病を治療する力を失っています。自らの力で治癒できないのであれば、国民の力で治療するほかありません。
宿痾を克服するチャンスを与えるのは、自民党がまともな政党に生まれ変わるためでもあります。国会の中で解決できないのであれば、国会の外で決着をつけるしかないのです。次の総選挙がその機会となるでしょう。それまでのあらゆる選挙で自民党とそれに連なる候補者に「ノー」を突き付けることが必要です。
自民党がこれまで犯してきた数々の罪に対して、はっきりとした罰を与えなければなりません。政権交代という形での明確な罰を。最近の世論調査に示されているように、国民もそれを望んでいるのではないでしょうか。政権担当者を交代させることこそ、生殺与奪の権を握っている主権者としての国民の役割であり権利なのですから。(文中敬称略)
旧傍流右派路線の全面開花としての第2次安倍政権
中曽根政権による「戦後政治の総決算」路線は、安倍元首相による「戦後レジームからの脱却」路線へと継承されます。中曽根による「戦後政治」も、安倍が言う「戦後レジーム」も、戦後憲法を前提にした統治スタイルを選択した保守本流路線のことでした。その「総括」や「脱却」をめざした両者に共通するのは、憲法に対する敵視と侮蔑です。中曽根元首相は「マック(マッカーサー)憲法」と呼び、安倍元首相は「みっともない憲法」だと軽蔑していました。
また、国際的役割の重視とアメリカ追随、軍事大国化や戦前回帰という点でも共通しています。中曽根元首相の「国際国家論」は、国際社会における発言力の増大、国際関係における積極性・能動性の発揮、「西側の一員」としての責任分担などでした。これらは「同盟国・同志国」における軍事分担論に基づく集団的自衛権の行使容認をめざした第2次安倍政権に受け継がれ、平和安保法制(戦争法)の成立に結びつきます。
さらに、ボトムアップ型の政策形成や官僚主導への嫌悪、ブレーンなどの利用や権力主義的な政治手法などでも共通していました。中曽根元首相は審議会を多用して「新議会」政治と批判され、安倍元首相も有識者会議や閣議決定を優先し、国会審議をスルーしました。いずれも「国会の空洞化」を生み出し、議会制民主主義を踏みにじるものです。
統一協会と深く癒着していたという点でも、両者には大きな共通性があります。615巻もある文鮮明発言録で最も多く名前が出てくるのは中曽根康弘の名前で、大勝した86年衆参同時選挙では中曽根勝利のために60億円以上もつぎ込んで支援していました。安倍首相も統一協会の広告塔として大きな役割を演じ、そのために狙われ凶弾に倒れています。
少数者の権利や人権、ジェンダー平等に無関心であることはどの自民党政権にも共通する弱点ですが、戦前回帰を目指して靖国神社を参拝するなど中曽根と安倍は抜きんでています。中曽根首相は1985年8月15日に戦後初の公式参拝を行い、安倍元首相も2013年12月に参拝してアメリカから「失望している」と批判されました。
岸田政権による安倍政治の拡大再生産――右傾化・強権化・腐敗の継承
岸田首相が会長だった宏池会は吉田茂の愛弟子である池田勇人によって創設された本流派閥の代表でした。しかし、今では旧傍流右派の軍門に下り、改憲・大軍拡の先兵になっています。岸田政権は宏池会出身というリベラルの仮面を意識的に悪用し、安倍政治を拡大再生産していることに注意しなければなりません。
その第1は、突出した改憲志向です。任期中に明文改憲を行いたいとの安倍元首相の野望を受け継ぎ、憲法審査会で改憲支持政党による条文案の作成などを画策しました。同時に、重要経済安保情報保護法(経済安保情報法)や改定防衛省設置法、改定地方自治法、武器輸出を可能にする次期戦闘機共同開発条約など、憲法9条に反する実質改憲を推し進めています。経済安保情報法は安倍元首相が成立させた特定秘密保護法を民間分野に拡大するものですが、そのルーツは中曽根元首相が提出して廃案となったスパイ防止法案にあります。
第2は、着々と進められている従米・軍事大国化です。過去の政権は憲法を盾にアメリカからの要求を拒もうとする姿勢がありましたが、岸田政権はアメリカからの要求を受け入れるために憲法を変えようとしています。真逆とも言える変質です。中曽根元首相は軍事費のGNP比1%枠突破、安倍元首相は集団的自衛権の一部行使容認、岸田首相は5年間で国内総生産(GDP)比2%を上回る43兆円の大軍拡を打ち出し、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を目指しています。「盾」だけでなく「矛」としての役割分担、専守防衛の変更、グローバル・パートナーシップに基づく日米一体となったシームレス(切れ目のない)な統合戦略などは、戦後安全保障政策の根本的な転換にほかなりません
第3は、経済無策による国民生活の破壊です。安倍政権が推し進めた新自由主義的なアベノミクスと異次元の金融緩和によって円安が進み、物価高で国民はかつてない生活難に直面しました。経済政策重視を掲げて「所得倍増」などを打ち出したかつての保守本流の姿はどこにもありません。岸田首相も当初は「新しい資本主義」や「資産倍増」などを口にしていましたが。軍拡のための増税や子育て支援を名目にした社会保険料の増額、実質賃金の減少や年金の目減りなどによって国民負担率の増加が続いています。
第4は、「聞く力」によってカモフラージュされた民意の無視です。コンセンサスを重視した保守本流派閥にはもっと国民や野党の声を意識し尊重する姿勢がありました。今では、ことさら「聞く力」を強調せざるを得ないほどに、民意の無視が際立っています。その「耳」がどれほどのものであるかは、沖縄・辺野古での新基地建設推進、インボイスの強行実施、マイナカードの押し付けとマイナ保険証への切り替え強要、「いのち輝く」どころか「いのち危うく」になりそうな大阪・関西万博の開催、水俣病患者団体との懇談会でのマイクオフなど、私たちが目にしている通りです。
第5は、金権腐敗の極致としての裏金事件です。過去の自民党は、企業・団体献金の問題性をそれなりに認識していました。だから政治改革関連法によって個人向けの献金は禁止し、政党向けの献金も5年以内の禁止を飲んだのです。しかし、これは実施されず企業・団体献金はもとより、政治資金パーティ―や政策活動費についても温存しようとしています。金権腐敗政治にどっぷりとつかり、そこから抜け出す意志さえ失った腐敗政党へと変質してしまったのです。
むすび―罰を与えるのは主権者としての国民
自民党は80年代中葉に反憲法政治へと転じ、平和・安全・生活・営業・人権を破壊する悪政を続けながらも、「疑似政権交代」によって権力の座に居座り続けてきました。その最大の罪は政権交代のある民主主義を阻害し続けてきたことにあります。自民党が犯してきた数々の罪に対して、今こそきっちりとした罰を与えなければなりません。
ただし、自民党が犯した罪に対して全く罰が与えられなかったわけではありません。過去において危機に瀕した自民党は派閥間の抗争や「振り子の論理」によってあたかも政権交代したかのような外見を凝らすことで国民の目を欺き、2勝2敗の結果を残しています。危機は自動的に政権交代に結びつくわけではなく、国民の運動や選挙による審判がなければ生き延びてしまうのです。
裏金事件で自民党による宿痾の温存と自浄能力のなさが明らかになりました。党改革や政治改革は中途半端に終わり、金権化と腐敗が存続し、右傾化・金券化・世襲化という重病を治療する力を失っています。自らの力で治癒できないのであれば、国民の力で治療するほかありません。
宿痾を克服するチャンスを与えるのは、自民党がまともな政党に生まれ変わるためでもあります。国会の中で解決できないのであれば、国会の外で決着をつけるしかないのです。次の総選挙がその機会となるでしょう。それまでのあらゆる選挙で自民党とそれに連なる候補者に「ノー」を突き付けることが必要です。
自民党がこれまで犯してきた数々の罪に対して、はっきりとした罰を与えなければなりません。政権交代という形での明確な罰を。最近の世論調査に示されているように、国民もそれを望んでいるのではないでしょうか。政権担当者を交代させることこそ、生殺与奪の権を握っている主権者としての国民の役割であり権利なのですから。(文中敬称略)
2024-08-03 05:55
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