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10月21日(月) 自民党の総裁選と立憲民主党の代表選の結果をどう見るか(その2) [論攷]

〔以下の論攷は『学習の友』No.855 、2024年11月号に掲載されたものです。2回に分けてアップさせていただきます。〕

 新総裁の「石破話法」と危険な本質

 石破新総裁は「軍事オタク」として知られ、タカ派の論客でもあります。原則論を主張するけれど具体策に乏しく、国民受けする正論を述べながら批判や反発に合うとトーンダウンしてしまいます。これが「石破話法」の特徴ですが、それは総裁選の最中にも見受けられました。
 象徴的なのは裏金議員の公認問題です。出馬会見で「公認にふさわしいかの議論は徹底的に行われるべきだ」と公認しないことを示唆していたのに、その後トーンダウンし、「選挙対策本部で適切に議論して判断する」と明言を避けました。結局、原則公認となり、「裏切った」と批判されています。
 金融所得課税の問題も同様です。金融所得や法人税に対して課税を強化する政策を打ち出しましたが、党内からの反発にあってひっこめてしまいました。岸田首相も当初、金融資産への課税、新しい資本主義や令和の所得倍増などの政策を打ち出していましたが、いずれも公約倒れに終わりました。石破氏の場合も同様でしょう。
 裏金事件では「ルールを守る」ことを主張し、「有権者は納得していない」と述べながらも、再調査には慎重姿勢を崩しませんでした。統一協会の問題も同様で、正論を述べるが具体策がない「石破話法」の典型です。
 外交・安保政策では、共同防衛義務を有するアジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設、非核3原則の「持ち込ませず」の見直しと核共有、米軍基地の自衛隊との共同管理、アメリカでの自衛隊の訓練基地の設置など、極めて危険な政策が打ち出されています。古くからの改憲論者としても知られ、9条第2項の撤廃が持論でした。安倍首相以上に危険な改憲論なのです。
 このほか、日米米地位協定の改定や最低賃金の引き上げ、予算委員会などでの論戦を通じて総選挙に向けて国民に判断材料を提供するべきだなど、比較的まともなことも言っています。これが原則論にとどまるのか、それとも正論を貫くことができるのかが注目されましたが、結局「手のひら返し」に終わり、言行不一致と変節ばかりが目立つ結果となっています。
 石破新総裁の真価が問われるのはこれからです。

 野田新代表への懸念と危惧

 立憲民主党の代表選で注目されるのは、決選投票での投票結果です。全体では野田232票、枝野180票と52票の差がついていますが、国会議員票では野田144票、枝野126票と18票の差しかありません。しかも第1回投票との比較では、野田90+泉58=148票、枝野66+吉田56=122ですから、野田氏は泉氏の、枝野氏は吉田氏の支援を得たと思われますが、決選投票の結果は野田氏が4票少なく、それは枝野氏に回ったとみられます。
 これらの結果は、野田氏は勝利したとはいえ圧勝ではなかったということ、野田氏を支持しつつも一定の懸念と危惧があったことを物語っているように思われます。
 その第1は、基本姿勢にあります。野田新代表は「本気で政権を取りに行く覚悟」を示し、「野党の議席を最大化する」ために、「それぞれの野党と誠意ある対話を続けたい」と述べていました。裏金事件などで自民党を離れた「穏健な保守層」を取り込むために「リベラルな方向と仲良くやりすぎているイメージ」を払しょくして「中道右派」の路線に転換するとしています。その結果、これまでのリベラルな支持者が離れるリスクが生じるかもしれません。
 第2は、過去の失敗にあります。野田新代表は2011年9月から民主党政権の首相を務めましたが、政権公約(マニフェスト)にもなかった消費税増税などの「三位一体の改革」を推し進め、小沢グループの離党など分裂を招き、解散・総選挙の結果、野党に転落しました。民主党政権の自壊と自民党の復帰を許した「戦犯」だったのです。その責任を反省しているのでしょうか。
 第3は、掲げている政策にあります。外交・安全保障政策では日米同盟機軸論に立ち、戦争法の違憲部分についても「すぐに廃止できない」と改めることには消極的です。原発容認、消費税維持などの点でも「現実的」な政策を掲げています。これでは、政権が代わっても政治は変わらないということになりかねません。そもそも、自民党と変わらない政策を掲げた野党に投票することに意味があるのでしょうか。

 融和と連携は可能か

 このような懸念と危惧があるにもかかわらず、野田元首相は新しい代表に選ばれました。その最大の要因は元首相としての経験と安定感であり、弁論と論戦力への期待です。このような新代表の選出は、対等にやりあえる首相としての資質を重視する点で、小泉進次郎候補の「失速」を招くなど、自民党の総裁選にも影響を与えたかもしれません。
 しかし、それでも野田新代表の前途には大きな課題が横たわっています。総裁選で生じた対立を解消して立憲民主党内での融和を図れるかという問題です。
 野田新代表は、選出時のあいさつで「今日からノーサイド。挙党態勢で政権を取りに行こう」と呼びかけましたが、その後の執行部人事はそうなっていません。幹事長に小川淳也前政調会長、政調会長に徳重和彦衆院議員、国対委員長に笠浩史国対委員長代理などの中堅を起用して「刷新感」を出そうとしましたが、いずれも野田新代表を支援していたため「あからさまな論功行賞人事」だと批判されました。決選投票で争った枝野幸男元代表は最高顧問に祭り上げられました。
 また、他の野党との連携も簡単ではありません。野田新代表は「対話」を強調して幅広く選挙協力を進めようとしていますが、野党第2党の維新の会は「協力することは一切ない」と拒否しています。国民民主党は様子を見ている段階ですが、「政策と憲法は現実路線を」と求めており、さらに右の方へと引き寄せようとするでしょう。
 共産党との関係では、野田新代表は「対話」を否定していませんが、「政権を共産党と一緒に担うことはではない」と排除の姿勢を示し、田村智子委員長は「最初から拒否することは看過できない」と反発しています。
 しかし、政治の現状は市民と立憲野党の協力・共同でしか打開できません。草の根からの共闘の新たな発展に向けての努力が、ますます重要になっています。
 野党が分裂すれば、喜ぶのは自民党です。小選挙区で「漁夫の利」を与えないためにどうするのか、どう分立を克服して一本化するのか、工夫するべきです。表紙が石破新総裁に代わっても、大軍拡・腐敗政治という中身に変わりはありません。自民党を政権の座から追い出す歴史的チャンスを活かしましょう。審判の機会は間もなくやってくるのですから。

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