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8月14日(金) 現在の情勢と労働組合の役割 [論攷]

現在の情勢と労働組合の役割
半世紀に一回の攻勢のチャンスだ

〔以下の論攷は、6月7日に伊東温泉「ホテル聚楽」において開かれた東京土建第35回幹部学校での講演をまとめたものです。東京土建の機関紙『けんせつ』第1932号、8月1日付、に掲載されました〕

元凶は小泉構造改革-経済も社会もズタズタに
2006年を境に流れが変った

 私は、規制緩和からの転換、反転開始の背景として4つあげました。
1つは、国際的な背景です。世界経済の転換は、今では誰も否定できないほど明らかです。ゼネラル・モーターズ(GM)も破綻し、国有化されました。新自由主義は「国は手や口を出すな。神の手が自然に働くんだ」といっていましたけれども。働かなかったのです。
「新自由主義よ、さようなら」ということで、金融資本主義の破綻といわれますが、資本主義そのものの破綻ではないでしょうか。
 2つ目は経済的背景です。日本の昨年の第4四半期のマイナスは、当初の発表では12.7%。その後、14.4%と訂正されました。アメリカは6.2%で、ユーロ圏は5.7%です。
「蚊に刺された程度のものでしょう」と与謝野さんは最初いっていましたが、実際には、アメリカの2倍以上のマイナスになってしまったのです。何でこんなに日本が手ひどい打撃を受けたのか。それは、アメリカ発の巨大台風が日本に上陸する以前に、日本の経済社会の足腰がかなり弱まっていたからです。
それは、小泉構造改革=規制緩和、新自由主義のせいでした。「痛みに耐えてがんばれ」と小泉さんはいっていましたけれども、結局、日本の経済社会はズタズタにされてしまい、痛みに耐えるだけの体力が残っていなかったのです。
 日本社会の持続可能性(サスティナビリティ)が失われようとしています。出生数がマイナスに転じ、今世紀末には5000万人ぐらいと予測されています。
 3つ目の社会的背景ということでは、こわれゆく社会ということです。秋葉原事件がしめしているように、「われわれの先には明るい未来が待っているんだ」と実感できない。

軌道修正はかったが-安倍、福田、麻生総崩れ

 非正規の失職者は21万5000人です。ヨーロッパと日本をくらべると日本の失業率は低いのですが、ヨーロッパは失業しても食っていけるのです。しかし、日本は失業したら食えなくなり、家を追い出されてしまうのです。
政治的背景では、構造改革をめぐる亀裂が拡大しました。2007年参議院選挙で自民党は惨敗しています。郵政民営化だけでなく、社会保障を毎年2200億円削って5年間で1兆1000億円削るとか、後期高齢者医療制度を導入するとか、医療費の患者負担を3割にするとか、障害者自立支援法を制定するとか……これらの小泉構造改革によって、自民党政治はぶっこわされました。
自民党を支持する政治的、社会的基盤が縮小してしまいました。地方・農村、業界団体も自民党離れを始めました。その結果としての2007年の参院選での大敗。同じことが、おそらくこんどの総選挙でも起きると思います。そのために、後継の安倍さん、福田さん、麻生さん、みんな小泉路線を修正せざるを得なくなったのです。
 このような中で、「政官財」も転換を余儀なくされています。

自民も転換をはかるが

まず、政治家です。あの森喜朗さんでさえ、「市場原理の経済はよかったのかなと。アメリカ式じゃなく、まろやか、おだやかな世界をつくらないと、東洋的な世界をね」と言い出しました。
自民党でも2006年12月に「雇用・生活調査会」ができて、ここから「緊急人材育成・就職支援基金(仮称)」という案が出ました。2009年度補正の中で予算がつき実施されます。これは職業訓練をやって、就職したら、生活支援のために給付されたお金を返さなくてもよいというものです。いったん職から落ちても、また職に戻すという、EUのアクチベーションの制度とよく似た内容です。
こういう制度を自民党の中の雇用・生活調査会が出して具体化した。問題がそこまで深刻化しているということだと思います。

諮問会議も地盤沈下-否定された「規制緩和」路線

 大蔵省の予算編成権限を官邸が奪うためにつくられた経済財政諮問会議も変質し、地盤沈下しました。
小泉政権時代、経済財政諮問会議が「骨太の方針」をつくることによって予算編成の大枠にしばりをかける。そのための道具が経済財政諮問会議であり、そのための大臣が経済財政担当大臣でした。竹中さんが小泉さんとタッグを組み、4人の民間議員と一緒になって事前に相談をし、一定の方向を出しながら、経済財政諮問会議に乗り込んで、財務大臣を抑えた。しかし、与謝野財務大臣の兼務が示しているように予算編成権限は財務省に返されました。
また、規制改革会議も2007年の「第二次答申」(医療および労働分野)、2008年の「第三次答申」も、厚生労働省が批判しました。同じ政府の下にある会議で批判しあうのはめったにないことですが、2年連続してあったのです。だんだん規制改革会議も立場がなくなっています。
そういう中で登場したのが「安心社会実現会議」。規制改革会議があり、経済財政諮問会議があり、安心社会実現会議があり……あんまり、会議、会議、会議というふうにつくられますと困ります。これには、経済財政諮問会議の民間議員のうちの張さんと東大の吉川教授と、同じ人が二人入っているのですから。さらに注目されるのは、労働組合の代表で高木連合会長や薬害肝炎の原告団だった山口さん、宮本北大教授、渡辺恒雄読売グループ会長も入っていることです。
5月15日第3回会議での論点の整理では、「…『構造改革』は、日本型安心社会を支えてきた様々な前提にも大きな変化をもたらした」「…非正規労働者の増大、不安定化ということや、社会の不平等感、不公正感の拡大」ということを指摘し、社会統合の危機という、危機意識が表明されています。競争の負の側面や雇用を軸とした安心保障の実現というようなこともいっています。新たな「公」の創造とか、小さい政府から機能する政府へとも書かれています。
また、厚生労働省も「08年版厚生労働白書」で、企業のコスト抑制。非正規拡大を批判しています。

財界も反省した?-強まる外資企業の要求

 財界は、今年の4月に「資本市場(株主)」「従業員(雇用)」「社会」という3つの価値に焦点をあてる『三面鏡経営』といいました。以前は最初の「資本市場」だけでした。日本経団連も「雇用の安定・創出と成長力強化につながる国家的プロジェクト」といっています。「雇用の安定は企業の社会的責任である…」「…生活支援に最大限の努力をしていく必要もある」など、結構なことを言っています。
財界団体のレベルなら、ある程度、もっともらしいことをいうのです。けれども、個別企業の社長のレベルになると企業の論理そのもので、いうことがとんでもないという面があります。
 それから、在日米国商工会議所は、外資系企業の政策を日本の国内でいかに実現していくかという働きかけをやっていますが、しばらく前までアフラック会長のチャールズ・レイク2世が会頭でした。日米構造協議で日本に市場開放を要求していろいろと働きかけをした彼が、「審議会の参加機会の大幅な増大を通じた透明性の高い立法過程への到達」と、いっています。「われわれにも審議会で発言させろ」ということです。
日本経団連の会長、副会長企業の半分近くは外資系ですから、彼らの要求は必ずしも日本の資本家の要求ではない。外資系企業の要求も反映されているのです。
もうひとつ、中谷巌さん(小渕内閣経済戦略会議議長代理)の『資本主義はなぜ自壊したのか』が「贖罪の書」だと売れているそうですが、とんでもない話です。彼が政策形成に関与したために規制が緩和され、死に追いやられた労働者、自殺せざるを得なくなった商店主がいたかもしれません。日本社会を破壊した責任が、彼にもあるのです。学者ならなぜまちがえたかを分析し、筆を折る、責任を取って発言をしないというぐらいのことをすべきだと思います。

「福祉国会」の実現を-自民党が真っ二つに割れるほどの政策を突きつけよう

 労働運動に追い風が吹き、社会的な注目を集め、世論を変えるチャンスが生まれています。戦後直後と50年代に次ぐ、戦後、労働運動における第三の高揚期をもたらす条件が生じています。
 「年越し派遣村」の教訓は、マスコミや世論にアピールし、政党や行政に大きな圧力をかけることを意識的に追求すれば、大きな成果をあげることができるということです。その教訓を踏まえて、「運動の可視化」=見える運動を展開することが必要です。世論を重視し、マスコミと協力してさまざまな取り組みを行なうのです。
 運動の側からする「労働国会」「福祉国会」の実現をめざさなければなりません。これは、次期総選挙で国会の構成を根本的に転換すれば可能です。そのための大きなチャンスがやってきます。
 構成が変わった国会の下で、労働国会、福祉国会を、国民の側から、労働者の側から要求し、労働者保護法とか社会福祉基本法などの成立をめざす。セーフティネットをきちんとする。均等待遇を実現する。労働者保護を拡充する。あるいは、ここまでズタズタにされてしまった社会保障の制度を立て直す。そのための新規立法を獲得するということです。
 非自民連立政権は、細川政権、羽田政権、村山政権と続きました。この連立政権の失敗を繰り返してはなりません。自民党が受け入れられない政策を突きつけて自民党を真っ二つに割るぐらいのことをやらなければなりません。
日本の労働組合にはだいたい5つの大きな類型があります。1番目は、大企業、民間の労働組合。2番目が中小零細企業の労働組合。3番目が公務員。4番目が個人加盟のユニオン労働組合。5番目が職能的な組合で、全建総連とか、ある程度、専門的な仕事をしているような人たちの労働組合。この5つです。

重要になる職業訓練-就業に結びつく活動を

今、注目されているのは個人加盟で地域を基盤に、他の労働組合や社会運動団体と連携をしながら問題解決のために取り組む新しい運動スタイルの労働組合運動です。これは社会運動的労働運動といいます。東京土建としても、地域で活動する社会運動や労働運動団体との連携を強め、それらを支えるバックアップ機能を発揮していただきたい。
 それから、特に地域ユニオンに対する相談がものすごく増えているという点も重要です。労働組合に対する期待の高まりを反映しているといえるでしょう。
 東京土建だけではなく、全建総連全体がそうですけれども、地域を基盤にしているという特徴があります。個人加盟で、職能的な労働組合。この特性を生かさなければならないと思います。そして、建築カレッジのような、職業訓練などにも取り組む必要があります。技能や技術の修得を企業の外に外部化し、就業に結びつけることは、今後、ますます重要になっていくでしょう。

危機打開できる
経済構造を転換させる-労働組合の運動を高揚させて

 自民党政治の「終り」が終ろうとしています。本当は、森喜朗さんのときに自民党政治は終っているはずだったのです。
ところが、「自民党をぶっこわす」という人が出てきちゃった。これが「終り」の始まりでした。小泉さんは、結局、自民党をぶっこわし、日本社会をぶっこわし、経済をズタズタにしてしまいました。地方の農村もぶっこわしてしまった。社会保障もズタズタになった。これを何とかしなければならないのですが、そうできる人は自民党の中にはもういないのです。
だから、小泉さんの後の安倍さん、福田さん、1年ずつです。麻生さんもやはり1年で終りです。本当は1カ月か2カ月で終るはずだったのに、総理の椅子にしがみついて延命しただけです。
このようなとき、世界恐慌といわれているような、そういう金融経済危機を迎えてしまいました。政治は機能していません。ですから、この危機を乗り切るために、労働組合こそが機能しなければならない。危機脱出のために果たすべき労働組合の役割はきわめて大きいのです。
 1929年の大恐慌では、「ニューディール」が打ち出されました。この政策を打ち出したのはアメリカのルーズベルト大統領ですが、労働組合を公認し、活性化させることによってアメリカの産業を立て直そうとしました。しかし、第二次世界大戦後、反共主義が強まって、左翼の活動家をどんどん組合運動から排除しました。そのために組合の力は弱体化し、経営者はおごり高ぶり、堕落し、何億ドルもの報酬を手に入れ、アメリカの企業と産業を腐敗させ、ズタズタにしました。
 今また、オバマ大統領は労働組合を活性化させることによって産業を復興しようとしています。経済を実体的にになっている中産階級と下層の人たちには減税し、高所得者を増税しようとしています。また、労働組合を自由に選択できるような新しい法律を、今の議会に出しています。
日本の場合、構造改革で内需がガタガタです。だいたい豊かな国内市場なしに産業がなりたつわけがありません。皆さんのような建設産業では、やはり、国内の内需に依存する部分は非常に大きいと思います。
だから、使えるお金を増やす必要がある。可処分所得を増大させて内需を拡大するとことは、今までのような外需依存の経済構造を転換させ、21世紀の日本の経済を建て直して持続可能性を回復するための基礎的な条件です。このような持続可能性を回復するためにも、労働組合の役割はきわめて重要です。
 今はピンチのように見えますが、同時に大きなチャンスも生まれています。半世紀に1回の攻勢のチャンスです。新たな労働組合運動の高揚をもたらす条件が拡大しています。総選挙では、日本政治の構造的転換のための変化を生み出す条件も生まれています。このようなチャンスを捉え、力を尽くして、この夏大いに汗をかいて下さい。そして、新しい日本の未来を生み出し、持続可能性ある社会へと変えていくために、ぜひ、奮闘していただきたいと思います。