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8月29日(土) 緑のニューディールと福祉のニューディール [論攷]

〔以下の論攷は、雑誌『ELDER』2009年7月号に掲載されたものです〕

 ピンチはチャンスといいます。今が、そのチャンスです。これまでの働き方を変え、新しい分野の雇用を開拓し、新規まき直しするための……。
 働き方を変えるということは、生活スタイルを変えるということでもあります。まず、残業をやめて定時に帰宅するという生活習慣を身につけるべきでしょう。
 家族揃った家庭生活を取り戻すことによって、人間らしい暮らしに向けてワーク・ライフ・バランスやファミリーフレンドリーな働き方を実現することができます。残業を減らして仕事を分かち合うことは、ワーク・シェアリングの具体化でもあります。
 でも、このようにして生み出される雇用の量には限界があります。従来の分野での雇用増を図るだけでなく、新しい分野での雇用を生み出さなければなりません。そのために必要なのは、「緑のニューディール」と「福祉のニューディール」の推進です。
 「緑のニューディール」とは、農業、林業、水産業や関連する食品分野での新たな雇用の創出です。また、環境や新エネルギー分野での新たな事業の開拓も、新規の雇用を生み出すでしょう。
 日本の豊かな自然と季節の移り変わりは、それ自体、観光資源としての価値を持っています。近隣のアジア諸国を市場とした観光産業の育成に、もっと力を入れるべきではないでしょうか。
 また、新たな分野ということでは、「福祉のニューディール」による雇用の創出も有望です。医療、介護、保育、教育などの分野への労働力の重点的な投入を図るべきです。地域の教育力を回復し、子育てをバックアップするという点でも、将来の日本社会を担いうる「人間力」の育成という点でも、地域の人々と提携した学校教育や学童保育の充実が図られなければなりません。
 日本の産業の将来を考えれば、ユニークさ、創造力、技能・技術力の回復も重要な課題です。既存の産業分野では、コスト削減を優先するあまり、非正規化の進展によって人材の育成が疎かにされてきました。労働力の正規化を図り、労働条件を改善し、働く意欲を高めることによって、かつての日本の産業力を取り戻すべきでしょう。
 他社や他国がまねのできない「ワン&オンリー」の製品を開発できるかどうかが、今後の日本産業の鍵を握ります。コスト削減のみにとらわれた「コスト・イデオロギー」から脱却し、「技術立国」の夢を、今一度、思い起こすべきではないでしょうか。