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10月5日(月) 戦後労働運動の第3 の高揚期を生み出す新たな条件が生まれている [論攷]

〔以下の論攷は、「企業別労働組合の現在と未来」を特集した『日本労働研究雑誌』10月号の「巻頭提言」として掲載されたものです。〕

戦後労働運動の第3 の高揚期を生み出す新たな条件が生まれている

 新しい波の予感がする。政治と社会の枠組みが変わりはじめるのではないかとの予感である。労働運動もまた, 変革の波を免れないであろう。その波は, 終戦直後と50 年代の「高野総評」時代に次ぐ, 戦後第3 の高揚期を迎える可能性と条件をもたらすかもしれない。
 これまでにない新たな可能性の第1 は, 年末から年初にかけて注目された「年越し派遣村」の運動である。これは, 社会の底辺に秘匿されてきた貧困を可視化し, 労働と生活を結ぶ新たな運動の可能性を開いた。
 第2 は, 派遣など非正規労働者の運動の拡大である。労働運動は民間大企業や公務員の男性正規労働者を主体としたこれまでの枠を超え, その周辺から外側へと運動の領域を拡大する様相を示している。
 第3 は, これらの非正規労働者の多くは, 既存の労働組合に加入したり, 新たに労働組合を結成したりしている。その結果, 従来の企業別労働組合とは趣を異にする個人加盟のユニオン運動が発展する兆しを見せている。
 その結果, 労働運動への注目と期待が高まった。労働組合の存在感が増し, 「暗い」「ダサイ」などと言われていたイメージが変容しつつある。労働組合とは無縁だった若者や女性の関心も高まっている。これまでになかったことであり, 労働運動はこのチャンスを逃してはならない。
 そのためには, 第1 に, 労働組合としての職域における活動を活性化させることである。不況に直面して企業別組合は萎縮し, 公務員バッシングによって公務員労働組合は守勢に回っている。雇用を守り賃金と労働条件を改善する点で, 本来的な役割を果たす必要があろう。
 第2 に, 職域にとどまらず労働と生活に関わる地域の多様な運動にとり組むことである。このような活動を通じて, 地域を基盤とする個人加盟のユニオン運動を先頭に, 企業別組合を含めた労働組合運動全体の刷新をめざさなければならない。
 第3 に, 生活問題を含めた幅広い社会問題の解決に向けて, 運動の幅を広げることである。NPOや社会運動団体, 弁護士や社会保険労務士などとも提携し, 社会的連帯のための活動に意識的に取り組むべきであろう。
 第4 に, 働く人々の3 割を越えるにいたった非正規労働者に対する働きかけを強めることである。ナショナルセンターを先頭に資金の援助と人員の派遣を行い, 非正規労働者の運動の発展と組織化を助けることは, 労働組合の代表性を拡大する点でも重要である。
 第5 に, これまで以上に国政に対する働きかけを強めることである。総選挙の結果, 政府と国会の構成が変化し, 政策制度要求実現に向けての条件が一挙に拡大する可能性がある。新たな労働法制の整備やILO 条約の批准など, この新局面を生かした取り組みが求められることになろう。
 加えて重要なことは, 労働運動に対するステレオタイプ化された固定的なイメージを打ち破ることである。あるシンポジウムで女性の労働組合幹部と同席したとき和服姿で現れた。意表をつかれる思いがしたが, 労働組合に対する型にはまったイメージを覆すうえで, このような試みこそ必要なものではないだろうか。
 これは小さな事例にすぎないかもしれない。しかし, どのような場合でも, 新しい経験は小さな一歩から始まるものであろう。その波紋を広げる努力を続ければ, やがては大波となって労働運動のあり方を一変させるにちがいない。