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10月6日(火) 新政権への注文と社民党への期待―「生活が第一」「生活再建」を貫いて欲しい [論攷]

〔以下の論攷は、『月刊 社会民主』10月号に掲載されたものです。〕

新政権への注文と社民党への期待―「生活が第一」「生活再建」を貫いて欲しい

 歴史的な総選挙の結果、政権交代が実現して鳩山新政権が発足することになった。この新政権に社民党と国民新党も加わり、民主・社民・国民新三党の連立政権が樹立される。
 新政権の発足にあたって、これからの政治運営に対する期待と注文を述べたい。あわせて、社民党が果たすべき役割についても、私見を明らかにすることにしよう。

何も遠慮することはない

 今回の総選挙で、民主党は308議席を獲得し、単独の政党としては過去最大の獲得議席となった。衆院で圧倒的な力を得た民主党が、なぜ社民党・国民新党との連立を望んだのだろうか。
 それは第一に、参院での議席は統一会派を組む国民新党や新党日本と合わせても118議席となり、定数242(欠員2)の過半数に届かないからである。法案を成立させるためには、どうしても社民党の5議席が必要になる。
 第二に、衆院の議席が3分の2にあたる320議席を下回っているからである。法案が参院で否決された場合、自公政権が行ってきたような再議決によって成立を図るという強硬手段をとることはできず、参院での成立が必要になる。
 第三に、「弱い地方組織を強化するため、社民、国民新両党の支持基盤を取り込みたいとの思惑も指摘されている」(『日本経済新聞』2009年9月9日付)という。民主党の足腰の弱さを、労働組合などに支えられている社民党、郵政政策研究会などの支持基盤を持つ国民新党によって補おうというわけである。
 この結果、連立政権となったわけだが、衆院でいえば7議席の社民党は民主党の2.3%、3議席の国民新党は1%にすぎない。「埋没」するのではないかとの危惧もある。しかし、この比率は小選挙区比例代表並立制という選挙制度による虚構(フィクション)にすぎない。国民による支持の現実(リアル)は別の姿を示している。
 今回の総選挙の比例代表区での得票率は、民主党が42.3%で社民党が4.3%、国民新党は1.7%である。もし、完全な比例代表制であったなら民主党は206議席、社民党は20議席、国民新党は8議席だった(『東京新聞』2009年9月9日付)。民主党の議席との比率は社民党が9.7%、国民新党は3.9%で、両方あわせれば1割以上になる。自公連立政権内での自民党に対する公明党の比率よりも多い。
 これが本当の民意なのだ。実際には1割以上の重みを持って、社民党と国民新党は新政権に加わっている。したがって、何も遠慮することはない。連立協議で主張を貫いたように、それだけの発言権を行使すれば良いのである。

雇用と生活の再建による内需志向型経済を

 新政権の課題は、何よりもまず、雇用と生活の再建による内需志向型成長戦略を明らかにすることである。昨年の「リーマン・ショック」以降、100年に1度とも言われる金融・経済危機が世界を襲った。日本も例外ではなく、未曾有の危機によって雇用と生活が破壊された。これを再建し、新たな成長軌道を設定するための経済戦略が示されなければならない。
 その際、重要なことは、これまでの失敗の原因を明らかにし、それとは異なった路線をめざすことである。その原因とは、多国籍企業や大企業を中心とした経済成長路線をとり続けてきたこと、新自由主義的な構造改革による規制緩和や民営化を推進してきたこと、北米市場への自動車の集中的な輸出など、政治・軍事のみならず経済的にも、アメリカに依存しすぎたことなどである。
 それとは異なった路線とは、まず、中小企業や地方・農村を豊かにし、国民の可処分所得を増やすことによって堅調な内需を生み出すことである。また、小泉構造改革による規制緩和路線を明確に転換し、貧困と格差の拡大を是正する必要がある。さらに、政治・軍事・経済的な対米依存を改め、アメリカとの対等な関係を築くとともに、急成長しつつある中国などアジアや中南米の新興国との関係を強化しなければならない。
 安定した内需に支えられるためには、雇用、賃金、労働時間という3つの面で画期的な改善を図る必要がある。まず、早急に労働者派遣法の抜本的改正を行い、非正規労働者の待遇改善に取り組むべきだ。新規雇用の拡大、雇用契約の中途解約や雇い止めの防止、雇用保険の適用拡大と増額なども実現してもらいたい。
 生活できる賃金を保障するとともに、最低賃金を1000円まで引き上げることが必要だ。公共事業の受注者に一定額以上の賃金支払いを義務付ける公契約条例の制定も有益だろう。労働時間については、ワーク・ライフ・バランス憲章や行動計画の実施に本格的に取り組んでほしい。サービス残業の一掃と連続休息11時間の保障、夏の長期バカンスや年休取得率100%の実現、労基法36条の改正による残業時間の制限にも着手しなければならない。
 このほか、ILO条約の批准、ハローワーク職員や労働基準監督官の増員などに取り組み、国鉄労働者1047人の解雇問題を政府の責任で解決することも必要である。労働・社会関係の制度や法を全面的に改正する「労働・生活国会」を開催し、労働者保護法や社会保障基本法などを制定してもらいたい。
 働くうえでの不安がなく、使えるお金が増え、趣味やスポーツ、レジャーなどに時間を割くことができて初めて、内需は大きく拡大する。このような働き方の実現は、直接的短期的には労働者の利益になるが、間接的長期的には企業のためにもなり、ひいては日本経済を活性化させるにちがいない。希望を持って働き生活することができるような安定した豊かな社会こそ、日本経済回復のための基盤だということを忘れないようにしてほしい。

スタートダッシュ良く、合意した政策の実現を

 民主党は総選挙期間中、「国民の生活が第一」をスローガンに、こども手当、農家への戸別所得補償、最低保障年金、高校授業料無料化、中小企業の法人税率引き下げ、後期高齢者医療制度廃止などの政策を掲げた。これらについての国民の評価は様々であり、連立与党の間でも一致していないものがある。
 今後の新政権の政策については、第一に、国民の支持が得られ、連立政党で合意された10項目を最優先にするべきである。比例代表区定数の80削減など一致できないものについては実行すべきではなく、高速道路無料化など反対や懸念の多い政策についても実現を急ぐべきではない。
 なお、連立合意で、「沖縄県民の負担軽減の観点から、日米地位協定の改定を提起し、米軍再編や在日米軍基地のあり方についても見直しの方向で臨む」ことが明記されたことを評価したい。かつて、細川連立政権の発足に当たって社会党は前政権基本政策の継承を呑まされたが、今回、社民党は政策の転換を呑ませた。これから新政権が向き合って説得すべきは、沖縄県民ではなくアメリカ政府となろう。
 第二に、新政権にとってはスタート・ダッシュが重要であり、できるだけ早く具体的な成果を上げる必要がある。そのためには、年金関連の秘匿情報や核密約関連の情報の開示など情報の公開、日本郵政の西川社長の解任、生活保護母子加算制度の復活など法改正の必要がなく大臣告示で可能な施策などから取りかかるべきである。
 第三に、民主党の政策は、天下り団体や業界団体を通じた自民党による間接的支援ではなく、家計に対する直接的な支援という性格が強い。これに対しては「バラマキ」などという批判もあるが、生活再建のための「バラマキ」に何の問題があるというのか。このような批判にたじろいで家計を支援するための所得の再分配をためらってはならない。
 そして第四に、これらの再分配にあたっての財源問題については、きちんとした方向性を示すべきである。優先順位の変更やムダの排除、「霞が関埋蔵金」の活用などによっても、なお財源が不足するのではないかというのが多くの国民が抱いている不安であり、それゆえに再分配政策への懸念が生じている。
 当面財源は不足しなくても、将来的には不安が残る。もし財源が不足した場合、選択肢は2つしかない。貧しい人からも取るのか、豊かな人からだけ取るのか。前者は、たとえば消費税の税率アップであり、後者は、たとえば累進課税の強化による富裕層への増税である。新政権は、前者ではなく後者を選択することを明示しなければならない。少なくとも社民党は、消費税率の引き上げではなく累進課税の強化を主張するべきであろう。

社民党への期待

 社民党には、連立政権の「ハンドル・アクセル・ブレーキ」の3役を果たしてもらいたい。国民のためになる政策の方向に政権を誘導し、その実現を図り、問題のある政策の実現を阻むということである。
 この点では、過去の連立政権における教訓を学ぶ必要があろう。少なくとも、自民党を喜ばせるようなことをやってはならない。魯迅の言うように、「打落水狗」(水に落ちた犬は打て)である。自民党の復権に手を貸すことになったという痛恨の過去を繰り返すことは、厳に避けてもらいたい。
 また、アメリカ政府や財界を批判する場合にも、その全体を敵に回すことのないように留意しなければならない。「敵」の内部矛盾をついて分断し、味方の戦線を拡大するのは「兵法」の基本である。
 さらに、社民党は労働組合との関わりが深く、その代弁者としての役割が期待されるのは当然だが、しかし、労働組合だけに顔を向けてはならない。「労組族」として既得権益の擁護に走ることなく、国民の幅広い層を味方につけるよう心がけて欲しい。
 政治は、「可能性の技術」である。原則を貫きつつ柔軟に対応し、少しでもよりよい未来を求めて政策実現の可能性を探るという熟達した技術が求められる。社民党には、連立政権内における“政治の職人”としての技(わざ)を期待したい。